「え!?は…何、どういうことだよ!?」
「紫苑ちゃん大丈夫なん?」
「た、多分…」
「多分て…心配やなぁ」
締め出された彼らは彼女の強さなど知る筈もなく、仁王に質問攻めした。
「…なに騒いでんねん、あんたら」
そんな時、丁度タイミング良く紫苑が教室から出てきた。すると真っ先に忍足が彼女の肩を掴む。「大丈夫か紫苑ちゃん!怪我しとらん!?」と心配するがそれに彼女は「うざい」と一蹴した。
「…もう終わったから帰るわ」
「え!?終わったのか?」
制止も気にせず出口へ向かう紫苑を、仁王は慌てて追いかける。
「ど、どうなったんじゃ?」
「どうなったって…真神が噛み千切ったんや」
「……」
それ以上訊くなら殺す、というような鋭い眼光に仁王は押し黙った。取り敢えず仁王は柳にメールして事を終わらせたと報告すれば、校門で待っているという返信が来た。
「別に待っとかんでもええのに」
心底面倒そうに紫苑は呟く。変わらないつっけんどんな対応に仁王は苦笑する。
校門に行くとメールの通り柳たちが待っていた。跡部たちも居る。
「解決したのか」
「多分もう大丈夫やろ。…あんた、芥川とかゆうたか。暫くこれ持っとき」
跡部の言葉に適当に返した紫苑は、芥川のほうに向いてブレスレットを差し出す。綺麗な水晶が付属している。もらえないと芥川は断ったが紫苑は無理矢理持たせた。
「ほな帰るわ」
「世話になったな。また何かあったら頼む」
「冗談ちゃうわ」
「……あ、あの!ちょっと待ってください!!」
「っ!?」
さっさと帰りたいという紫苑の雰囲気に呑まれることなく、それまで黙っていた日吉は彼女の腕を掴んだ。「紫苑先輩の腕掴むなんて勇者っすね…」「そうじゃのう」こそこそとそんな会話をされていたことなど、紫苑は無論知らない。
「あの…アドレス教えてくれませんか…」
「はあ?」
「うっ…」
駄目ですか…と日吉はしょんぼりする。あまりにも落ち込んでいたので紫苑はなんとなく居たたまれない気分になる。まるで断った自分が悪いみたいだ。
「……」
「……」
「…はぁ…しゃあないなぁ」
「! 良いんですか!?」
「無意味なメールはしてこんといてや」
「はい!!」
「ちょっ…待つぜよ!俺の時どれだけメアドを聞き出すのに苦労したことか…」
「俺に至っては知らないんすけど!?」
猛反対する仁王と赤也を歯牙にもかけず紫苑と日吉は赤外線交換をする。
「ありがとうございます!困ったことがあったら連絡入れさせていただきます!」
「ああ…うん……」
あまりにも尊敬の眼差しを向けてくるので紫苑は強く出られない。もうこの場から去りたいという一心で、紫苑は今度こそ校門を出てバス停へ向かった。待てという声が聞こえたが気にしない。
「…ふふ、因みに俺は土御門のアドレスは入手済みだ」
勝ち誇ったように呟く柳の言葉は、氷帝のメンバーのみが聞いていた。



最近、紫苑が携帯電話ばかり見ている。赤也はそれをずっと悶々と見ていた。一体相手は誰なのか、何度彼女に訊いても答えてくれなかった。
「…最近紫苑先輩がメールしてる相手って誰なんすか?」
耐えきれず、事情を知っていそうな仁王に訊ねる。
「そんなん俺が知ってるわけないじゃろ」
「あー…誰なんだろ!」
「どうしたんだよィ、お前ら」
「おーブンちゃん」
ひょっこり顔を出したのは丸井。ぷぅ、とガムを膨らませている。
「紫苑って、この前カフェで会ったあいつか?」
「そうそう」
「…あ、そういえば芥川が言ってたんだけど」
パイプイスに座り、丸井は思い出すように眉根に皺を寄せて述べる。
「なんか最近日吉がメールばっかしてるらしいぜー」
「…は?」
「めっちゃ嬉しそうにしてるから紫苑ちゃんとしてるんだよ、とか何とか言ってたんだけど、その紫苑ってこの前会った紫苑のこと?」
「………」
「…せ、先輩ィィィィ!!」
丸井の話を聞いた途端、赤也は慌ただしく部室を出た。向かった先は勿論、紫苑の教室だ。
「ちょ、紫苑先輩!」
「ぅお?!」
教室に行く途中で偶然紫苑を見かける。ドン!と背中にぶつかると紫苑は前のめりにつまずいた。
「な、何すんねん!」
「日吉とメールばっかしてるって本当すか?!」
「はあ?」
「どうなんすか!!」
「…まあ、メールしてるけど」
煩わしそうに言う紫苑に、ますます赤也の機嫌は下降していく。
「なっ何でしてるんすか!あの時あんなに嫌そうにアドレス交換してたのに!」
「いや…あいつ結構そっち系に詳しくて、意外とたのしー…」
「紫苑先輩が日吉とメールばっかしてるの嫌っす!」
バッと紫苑の手の中にある携帯電話を取り上げる。「こら!」と紫苑が怒ったが気にならなかった。その瞬間、また携帯電話が震える。日吉かと睨みつけるようにディスプレイを見てみると、そこに表示されていたのは日吉の名ではなく、
「…“兄ちゃん”?」
身内らしき人物だった。赤也の呟きに紫苑は素早く携帯電話を取り上げ、中身を確認する。
「紫苑先輩ってお兄さん居たんすね」
「……」
「先輩?」
「…めんどいことになった」
「は?」
画面から目を離し、溜息をつく紫苑は心底疲れた顔をしていた。