忍足謙也は非常に困っていた。
「……ああああアカン集中できひィィィん!!」
「ウザイっすわ謙也さん」
それを呆れた目で見るのは、謙也より一つ下の財前光である。彼は何気無い仕草でボールを打って謙也の頭に当てる。いつもならここで謙也は怒るのだが、今日は違っていた。
「………謙也さん?」
謙也はコートの外にある草むらをじっと見つめたまま微動だにしない。
「どないしたんですか?」
心配になって彼の肩を掴むと、ハッとしたように謙也は財前のほうに顔を向けた。顔色は少し青くなっていて体調が悪そうに窺える。「休憩したほうがええんとちゃいます?」思わずそう提案すると、謙也は苦笑してそれを断った。
「変な視線感じただけや。大したことない」
「視線?自意識過剰っすね」
「酷いな!さっきまでの心配そうな行動は何やってん!?」
ツッコミはいつも通り。だが何かがいつも通りではないと、この時財前は感じていた。何かしたのかと視線で訊ねると謙也はぐっと喉を詰まらせた。
「…いやぁ、実はな…」
彼の言うことはこうであった。
数日前、複数の友人とある場所に向かったらしい。その場所は神社だった。所謂、好奇心で肝試し感覚で行ったらしい。この間までテスト三昧で疲れていたから、少しはしゃぎたかったと彼は述べる。
「…はあ、ほんで?」
「キモかったわ。藁人形とか釘で打ってあって…で、そん時はそれ見ただけで帰ってんけど、神社行った翌朝からなんか視線感じて…」
「………謙也さん、その神社って…」
眉根を寄せた財前の問いに、謙也は訝しみながらも答える。
「ああ、水神さんとこやけど…なんや財前、怖い顔して」
「………いえ、何でもないです」



「…何でおんねん」
「それは俺のセリフだよ」
清潔なイス。人が乗る度僅かに揺れる車内。躓きそうになる体を支える為に、紫苑は取っ手を掴んだ。
「早く座ったらどうだい、もうすぐ発車するよ」
「いやいやいや…え、アンタが隣?無理やねんけど」
「じゃあ立っていればいい」
ニコッと笑顔を作って言う彼に、紫苑は青筋が立つ。癪だったが紫苑は素直に彼の隣に座った。同時にスピーカーから間もなく発車しますとアナウンスが流れる。
「…おい幸村」
窓の外を眺める彼・幸村精市は落ち着いた声音で「何だい」と答える。
「どこ行くつもりなん?」
「大阪の親戚の家だよ」
「フーン」
「君は?」
「…野暮用や」
そっぽを向くと、幸村はおかしそうにクスクス笑った。「君は不機嫌なのが常みたいだね」ズン、と新幹線が動く。これからこいつと暫く一緒だなんて、と紫苑は先がとてつもなく不安になった。