「……謙也?」
ガヤガヤと騒がしい部室内で、部長の白石が彼の顔を覗く。財前はそれをこっそりと見ていた。
「え?何やねん白石」
「いや…お前最近大丈夫か?」
「は?」
「最近ボーッとしてるし、悩み事でもあるん?」
自他共に成すことは完璧と認めている白石でも、これは解決できないと財前は知っていた。人の力が及ぶ物事ではないからだ。謙也もそれをどことなく理解していたのか、白石に何でもないと笑顔を取り繕って会話を中断させた。
「、そか。困ったことあったら言うてな?」
「おん、済まんな」
何かあることに勘づいているのだろう。白石は聡くて困る。隠し事ができないというのは、結構つらいものがある。隠したいことを知っていて、その上で知らない振りをされるのも嫌だ。
溜息をついて、財前は鞄の中からブレスレットを取り出す。部活中以外はいつもこれを付けている。それは受け取った当初より随分と珠の色がくすんでいて、そろそろ終わることを予期していた。
(変えなあかん…いや、もうええんかな)
謙也の話を聞いてから財前は怖くなっていた。もし、自分まで襲われたらという嫌な想像をしてしまう。
「財前、着替えたんなら早よ出ェ。もう閉めんで」
「あ、はい」
いつの間にか皆着替え終えていて、既に帰り出していた。財前は慌ててブレスレットを手首にはめて部室を出る。
「白石〜、わい腹減ったー!」
「ほな帰りどっか食べて帰る?」
「そうしよー!!」
「決まりやな。謙也どうや?」
「ん、ほな俺も行くわ」
「財前は?」
白石が振り返って訊ねてくる。彼の背後の夕陽はもう沈みかけていた。
「いや……今日は遠慮しときますわ」
ザワザワと揺れる何かに押されないようにと、財前は拳を握る。「そか、ほんならまた明日な」白石は彼を怪訝に思うことなく、皆を連れて先に学校を出た。
改めて夕陽を見ると、もう地上と溶けかけていた。もう一度ブレスレットを眺めて、財前は帰路を急いだ。