「君の出身って確か京都だっけ?」

時は幾分か遡る。新幹線にて幸村と遭遇した紫苑は疲労を滲ませた体が悲鳴を上げていた。が、それを彼に知られるのはなんとなく癪だったので、頑張って素知らぬ顔を気取っていた。
新幹線が出発して半刻ほど経過した折、不意に幸村が先のことを述べてきた。まさか幸村が話しかけてくるとは思ってもいなかったので紫苑は表情を崩した。
「まあ…うん」
「今日は京都に行くのかい?」
「せや」
何故今更そんな会話をするのか理解できず、紫苑は僅かに困惑する。
「大阪に行ったことは?」
「あー…まあ、あんで。分家があったから」
「分家ってことは…君、宗家の子なんだ」
「柳から聞いてへんの?」
「何で柳?」
「あいつ何でも勝手に調べとるやん。あんたと仲ええみたいやし、てっきりあいつが言うとるもんやと…」
紫苑の言葉に幸村は笑みをこぼした。
「君、柳のこと苦手なんだ?」
「苦手ゆうか…まあ、せやな。それに近い」
彼がいつも常備しているノートを一度で良いから読んでみたい。あれには一体誰の、どんな情報が詰まっているのか気になる。紫苑は常々思っていた。
「……幽霊が視えるってどんな感じ?」
幸村は急に、声音を落としてそんなことを訊いてきた。それまでとは空気が変わる。幸村はおそらく幽霊を信じていない。それなのに、彼は訊いてきた。
「別に…そこに居るのが普通やったさかい特に思うことはない」
幸村に幽霊の存在を認めさせたいわけでないし、視てもらいたいとも思わない。だから紫苑はそんなことを言った。
「ふうん」
「あんた信じてへんねんやろ。やのに何でそないなこと訊くん」
「そうだね、信じてないよ。まあ…敢えて言うなら興味?かな」
「興味?」
「そ。それ以外にも君には仁王や赤也の件でお世話になったし、一応お礼を言っとかなきゃって考えてたしね」
胡散くさい笑みを浮かべて述べる幸村に、紫苑はつくづく辟易した。
「あ、そういえば俺が行く大阪にはね、有望なテニス部を持つ学校があるんだ」
「へー」
「合宿とかで顔合わせてたりするんだけどね、君とは真反対みたいな性格の部員たちなんだよ」
「…あんた、うちのこと馬鹿にしてるやろ」
「それは考えすぎだよ」
丁度その時、まもなく京都に着くというアナウンスが流れた。紫苑は幸村から視線を外して荷物に移す。「あ、でも君と似たような雰囲気の子が居たな…一つ下だったような」幸村の独り言に耳を貸すつもりはない。
「じゃ、もしその学校の子たちに会ったら君のこと宣伝しとくね」
「………は?」
《京都、京都です。お忘れ物などなさいませんよう、お気をつけください》
ほら早く行きなよ、と幸村に押されて通路に出る。促されて思わず足を進めようとしたが紫苑は止まる。
「余計なこと言うなよ!ええな?!宣伝なんかせんでええから!」
「ふふふ」
「〜〜〜〜っ!!」
もっと何か言ってやりたかったがドアが閉まりそうだったので紫苑はしぶしぶ下車した。彼のことが気になったが連絡先など知らなかったので、彼がその学校の子とやらに会いませんようにと祈りながら改札口を出た。
駅から出た紫苑は地下鉄に乗り換えて、再び電車に揺られて先に進む。懐かしい道順に過去を重ねながら路線図を眺めた。降車には時間がかかった。痛む腰をさすって駅を出て、畦道を通っていくと記憶しているものよりか少し古くなっていた日本家屋が見えてきた。
「……――…」
ポケットの中にずっと入っていたブレスレットを握る。不安が渦巻く胸中を鎮めながら、紫苑はゆっくりと土を踏みしめた。