「むっ貴様は…」
「真田くんも土御門さんとお知り合いでしたか」
場所は移ってテニスコート。精悍な顔つきで部員たちを見据える真田が、真っ先に紫苑に気づいた。
「見学するのか?」
「ええ、構わないでしょう。土御門さんは他の女子とは違ってテニス部にまったく興味が無いようですし」
それを分かっていて何故無理やり連れて来るんだ、と紫苑は心の中でつっこむ。
「…まあ良かろう。日差しの当たらぬところで見学しろ」
「土御門さん、こちらです」
「へーへー」
しょうがなしに紫苑は言われるがまま、ベンチに腰を下ろした。
現在部員たちは試合中で、誰も彼女が来たことに気づいていないようであった。赤也は柳と試合中だし、それの審判を仁王が務めている。ただ赤毛の(確か丸井といっただろうか)彼は紫苑に気づいていて、どこで会ったのか記憶を探るような顔をしていた。そんな彼を見て不思議そうな顔をしているのはジャッカルだ。
そういえばジャッカルは氷帝に行く前に肩を視たのだった。あれから仁王からは何も聞いていないが、大丈夫なのだろうか。気になったのでこっそり彼のところまで歩いた。
「よ」
「! あ、土御門、さん…」
「慣れてへんなら“さん”付けんでエエで。あれから肩はどうなん」
「好調だぜ。ほんと、ありがとうな」
ジャッカルは他の部員と違って随分空気が違う。なんというか、爽やかだしなにより優しい。彼なら協力を惜しまないという気持ちになってしまう。やはり優しい人の近くにいると自分までも、優しい気分になる。今なら彼からのどんな要望でも聞けそうだ。
「よう紫苑!何でここに来てんだ?仁王に用?」
ひょこっとジャッカルの背後から突然現れたのは、先程まで頭を捻っていた丸井である。どうやら紫苑のことを思い出したらしい。
「アンタのとこの眼鏡に無理矢理連れて来られたんや」
「柳生にかよぃ!」
「なんか意外だな……」
「まあ柳生は前から紫苑に興味持ってたしな。『仁王くんを振り回す女子生徒…気になりますね』って」
別に興味など持ってもらいたくない――紫苑は切に思う。テニス部に関わって結局碌なことがない。はた迷惑もいいところだ。
「まあそんな顔しないでくれ。せっかくだから楽しんでいけよ」
前言撤回。ジャッカルの今の一言で紫苑は救われた。
「テニスの経験は?」
「授業でやったことあるくらいや」
「もったいねーな!」
「うちは運動とか興味ないし」
「あ、これから俺とジャッカル試合やんだけどよ、観てけよ!妙技、見せてやるからさ!」
そう言って丸井はラケットを持ってコートに走って行った。テニスのルールなど知らないが、ガムを噛んで試合をしても良いのだろうか。真っ先にその疑問が浮かんだ。
紫苑の疑問を感じ取ったのか、ジャッカルは苦笑して「つっこんでやらないでくれ」と言った。どうやら、そういうことらしい。
「いくぜー!紫苑、見とけよ!」
「へーへー」
お願いだから大声で名前を呼ばないでくれとひやひやしながら、紫苑は彼らの試合を観戦する。素人目だが、彼らが上手いことだけはよく理解できた。
「ふふ、どういう風の吹き回しだい?」
「げっ!」
「人の顔を見て『げっ』は無いでしょ」
幸村精市。久しぶりに顔を見た。反射的に声を上げてしまい、紫苑は慌てて口を押さえるが幸村は聞き逃さなかった。
「……アンタ、自分とこの部員くらいちゃんと教育しときや。えらい無理矢理な部員がおんねんな」
「ああ、もしかして見学に誘われた?それはごめんね。俺と顔を合わせたくなかっただろうに」
「……………一々癇に障る奴やな」
「それで?今日は本当に単に見学に来ただけ?霊でもここに居るの?お得意の陰陽技は?」
妙に突っかかってくる彼に違和感を覚えながらも、紫苑はそれに否を示す。すると彼の表情は一瞬歪んだものになったが、すぐさま微笑を湛えて「そう」を返した。
「……?」
「ま、邪魔しない程度に見学してね」
「言われなくとも」
幸村はもう一度微笑むと真田のところへと行ってしまった。
一瞬覚えた奇妙な感覚。それは霊とかではなくて、何か、“彼らしさ”を欠いた奇妙なものだと紫苑は悟った。