生ぬるい世話ばなし
テニス部は決まった時間に休憩がある。その休憩時刻に合わせて試合が組み込まれたりしているが、試合の延長により時折それがズレることがある。が、大体毎日同じ時間帯に休憩は取られていた。
最近、柳生は休憩時間になると、ある場所に足を運んでいる。それはテニスコートから僅かに離れた、ぱっと見では素通りしてしまう木々の奥。
「こんにちは」
そこで柳生は、いつも“彼”とお話していた。
“彼”は小学校低学年くらいの姿で、いつの間にかそこにいた。そしてどういうわけか偶然にも出会ってしまったのである。何故いつもここにいるのか?以前それを問うたら「テニスが好きだから」という返事を貰った。テニス部である柳生がその言葉で良い気になるのは当然で、こうして最近は休憩時間になると“彼”の元へと足を運ぶのである。
“彼”は毎日同じ時刻にここにいる。学校はどうしたのだろうかと疑問に思った時もあったが、小学校…それも低学年ならお昼には終わるだろうと考え直した。
「おにいちゃん、さっきの試合観てたよ」
「どうでした?」
「すごかった!ぼくもあんなサーブ打ちたいなぁ」
「練習あるのみです」
“彼”を見ていると初心に返るから、柳生にとって“彼”と話すことは決して無駄ではなかった。たまにやって来るたるむ気持ちをシャンと立たせてくれるから“彼”に感謝さえしている。
「ねえ、おにいちゃんってたまに変身するけどあれはどうやるの?ぼくもできる?」
「うーんどうでしょう。あれは高難度ですからねえ…君には難しいんじゃないでしょうか」
「こうなんど?」
「難易度が高いということですよ」
“彼”は希望に満ちた瞳で「いつかできたらいいな」と笑う。こういう純粋にテニスを受け止める“彼”に柳生は常々、自らテニスを教えたいと思っていた。一度そういう話が出たことがあったが、その時の“彼”は少し心苦しそうに断った。なんでも複雑な事情があるらしい。教えられないことを残念に思ったが、それ以上にこんなにもテニスが好きな“彼”がテニスができないなんて可哀想だと同情した。
「…おやそろそろ戻らないと皆が心配しますね」
「えーっ。もう行っちゃうのー?」
「済みません、また明日来ますから」
「約束だよ?」
その希望に満ちた瞳で“彼”は探るように自分を見上げる。柳生は小指を出して約束を交わした。すると“彼”は安心したようににっこり笑った。
最近、柳生は休憩時間になると、ある場所に足を運んでいる。それはテニスコートから僅かに離れた、ぱっと見では素通りしてしまう木々の奥。
「こんにちは」
そこで柳生は、いつも“彼”とお話していた。
“彼”は小学校低学年くらいの姿で、いつの間にかそこにいた。そしてどういうわけか偶然にも出会ってしまったのである。何故いつもここにいるのか?以前それを問うたら「テニスが好きだから」という返事を貰った。テニス部である柳生がその言葉で良い気になるのは当然で、こうして最近は休憩時間になると“彼”の元へと足を運ぶのである。
“彼”は毎日同じ時刻にここにいる。学校はどうしたのだろうかと疑問に思った時もあったが、小学校…それも低学年ならお昼には終わるだろうと考え直した。
「おにいちゃん、さっきの試合観てたよ」
「どうでした?」
「すごかった!ぼくもあんなサーブ打ちたいなぁ」
「練習あるのみです」
“彼”を見ていると初心に返るから、柳生にとって“彼”と話すことは決して無駄ではなかった。たまにやって来るたるむ気持ちをシャンと立たせてくれるから“彼”に感謝さえしている。
「ねえ、おにいちゃんってたまに変身するけどあれはどうやるの?ぼくもできる?」
「うーんどうでしょう。あれは高難度ですからねえ…君には難しいんじゃないでしょうか」
「こうなんど?」
「難易度が高いということですよ」
“彼”は希望に満ちた瞳で「いつかできたらいいな」と笑う。こういう純粋にテニスを受け止める“彼”に柳生は常々、自らテニスを教えたいと思っていた。一度そういう話が出たことがあったが、その時の“彼”は少し心苦しそうに断った。なんでも複雑な事情があるらしい。教えられないことを残念に思ったが、それ以上にこんなにもテニスが好きな“彼”がテニスができないなんて可哀想だと同情した。
「…おやそろそろ戻らないと皆が心配しますね」
「えーっ。もう行っちゃうのー?」
「済みません、また明日来ますから」
「約束だよ?」
その希望に満ちた瞳で“彼”は探るように自分を見上げる。柳生は小指を出して約束を交わした。すると“彼”は安心したようににっこり笑った。