アスファルトに茜色がじりじりと滲んでゆく。それに何故か心奪われかけながらも、仁王は相方でもある彼のことを考えていた。
「なあ柳生」
淡々と帰る用意をする彼の背中に、仁王は呼びかける。「はい?」と柳生はそれに答えながらも仁王に顔を向けなかった。
「お前さん、最近どうしたんじゃ。休憩の時どこに行っとるんじゃ」
最近彼が纏っている変な雰囲気。それに仁王は薄々感づいていた。ひやっとしたものを今現在も感じながら、仁王はごくりと唾を飲む。柳生はそんな彼に気づいたのだろう、ゆっくりと振り返った。
「…小さなお友達とお話しているだけですよ」
そう言った彼の表情は、どことなく影を帯びていた。
「……、」
「さ、帰りますよ、仁王くん」
「…おー…」
紫苑は気にすることなどないと言っていた。しかし仁王にとって柳生は大切な部員仲間だし、彼女のようにとてもじゃないが楽観視できなかった。多分それは、仁王が霊を視認できるようになって日が浅いということにも関係している。
「最近といえば仁王くん、知っていますか?」
唐突に柳生に訊ねられ、仁王は反応が少し遅れる。「何をじゃ?」訊くと、柳生は困ったような顔になった。
「幸村くんのことですよ」
「んお?」
「なんだか最近ぼうっとしているというか…柳くんも似たような感じですし」
お前さんもな、と仁王は心の中で付け足す。
「何かあったんでしょうか……」
「あー…参謀がああいう感じなのは何か困ったことがあるんじゃろ。参謀が解決できんことは俺らにも解決できん。ま、話してくれるまで待つしかないじゃろ」
「…そうですよねぇ」
「幸村は…――」
彼に関しては気づいていないわけではなかった。紫苑に柳生のことで相談に行った際、幸村のことをこっそり観察したが、明らかに平生を保っていなかった。ここ最近部活も休みがちになっているし、柳よりも困った事態になっているのかもしれない。
「…ハァ…(どうなってるんじゃ、一体)」
「ところで仁王くん、折り入って相談があるんですが」
「…、それはまた急じゃな」
済みません、と柳生は苦笑して謝る。
「仁王くんは人に何かを諦めさせる時、どうやって諦めさせますか?」
「…………………は?」
「それが幼い子だった場合、どうやって納得させたら良いと思いますか?」
何だその質問は、と仁王は困惑する。柳生は仁王の反応は想定済みだったらしくもう一度済みませんと謝った。
「あー………俺は子供の面倒は苦手きに。良いアイデアは浮かばんのう」
「そうですよね…済みません、おかしなことを訊いて」
「いや別に良い。最近お前さんが変なのはその子供の所為か?」
「私、そんなに変でした?」
「変じゃ」
すると柳生は参ったなぁと頬を掻く。「普段通りにしていたつもりなんですが…」「俺を舐めてもらったら困る」得意気に言うと、柳生はまた一つ苦笑した。その笑みは間違いなく、いつもの彼のものだった。