落陽した日
翌朝、紫苑はいつも通りの時間に学校に着いた。下駄箱で上靴に履き替えてから、欠伸を噛み殺して廊下を歩く。少し早めの時間なので廊下を歩く生徒は疎らだ。だがその時、この時間帯にしては珍しく慌ただしい足音が響いてきた。段々とこちらに近づいてくるそれは、明らかに冷静さを欠いている。(うっさ…誰やねん)廊下は走るなという張り紙を一瞥して紫苑は教室へと向かう。
「紫苑先輩!」
だがそれは、煩い後輩に止められた。
「切原…………」
珍しいな、と紫苑は思う。この時間なら彼は朝練に勤しんでいる筈だ。
「せっ先輩っ………!!」
「何や、どないしたんや」
ぱくぱくと口を動かす彼からは、次の言葉が紡がれない。怪訝にしているとやめないか赤也、と彼を窘める声が届いた。
「柳先輩!」
「土御門も困っているだろう」
柳の声音はどこか元気がない。眉も下がっているし、いつもの読めない表情は頼りなかった。
「……何や」
一言、訊ねると赤也が口を開く。
「幸村先輩のことっすよ!」
「…………、」
ぴくり。指先が反応する。
「……緊急入院することになった」
次いで柳が話す。相変わらず瞳の中が窺えない表情だが、落ち込んでいることが空気から察せられた。その顔をなんとなく見ながら紫苑は沈黙を保つ。
「絶対オバケの仕業っすよ!」
赤也はそう言うと縋るように紫苑に詰め寄る。
「お願いします紫苑先輩!幸村部長を助けてください!」
「………―――」
「だって紫苑先輩、式神とか使えるんだから部長を助けることぐらい朝飯前でしょ!……紫苑先輩!!」
「やめろ赤也」
彼の肩を掴んで紫苑から引き剥がす柳。「何で止めるんですか柳先輩!」赤也はますます声を荒げる。
「…“予感”はあったんか?柳」
二人のやり取りを静観しながら紫苑は訊ねる。すると柳は意地悪をするなと肩を竦めた。
「………、幸村から検査のことは聞いていた」
「ま、アンタだけ何か知っとる体(てい)やったしな」
ふう、と息を吐いて窓の外に視線をやる。朝焼けは消えていて薄青が忍び寄って来ていた。視線を空から下ろすと、昨日の草叢が見えた。
「ちょ、二人でなにわけ分かんねえこと言ってんすか!そんなことより今は…」
「切原、幸村は別にお化けが原因で倒れたんちゃう」
途端、彼の表情が絶望に彩られる。彼の薄い唇がふるふると震えていた。
「なっ………何でですか…」
「何でって………全部の不幸がお化けによるもんなわけないやろ」
「だって幸村部長は………っ!!」
「赤也!…やめろ」
それ以上はよせとばかりに柳は赤也の腕を強く掴んだ。これ以上彼の好き勝手にさせていたら、紫苑に当たり散らすだろうと予想していたからだ。紫苑もそれは理解していた。
「済まなかったな、土御門」
「…別に」
紫苑は二人の顔もまともに見ずに通り過ぎる。無心で歩いていたのに、何故か昨日のテニスを羨望した男の子を思い出した。
「紫苑先輩!」
だがそれは、煩い後輩に止められた。
「切原…………」
珍しいな、と紫苑は思う。この時間なら彼は朝練に勤しんでいる筈だ。
「せっ先輩っ………!!」
「何や、どないしたんや」
ぱくぱくと口を動かす彼からは、次の言葉が紡がれない。怪訝にしているとやめないか赤也、と彼を窘める声が届いた。
「柳先輩!」
「土御門も困っているだろう」
柳の声音はどこか元気がない。眉も下がっているし、いつもの読めない表情は頼りなかった。
「……何や」
一言、訊ねると赤也が口を開く。
「幸村先輩のことっすよ!」
「…………、」
ぴくり。指先が反応する。
「……緊急入院することになった」
次いで柳が話す。相変わらず瞳の中が窺えない表情だが、落ち込んでいることが空気から察せられた。その顔をなんとなく見ながら紫苑は沈黙を保つ。
「絶対オバケの仕業っすよ!」
赤也はそう言うと縋るように紫苑に詰め寄る。
「お願いします紫苑先輩!幸村部長を助けてください!」
「………―――」
「だって紫苑先輩、式神とか使えるんだから部長を助けることぐらい朝飯前でしょ!……紫苑先輩!!」
「やめろ赤也」
彼の肩を掴んで紫苑から引き剥がす柳。「何で止めるんですか柳先輩!」赤也はますます声を荒げる。
「…“予感”はあったんか?柳」
二人のやり取りを静観しながら紫苑は訊ねる。すると柳は意地悪をするなと肩を竦めた。
「………、幸村から検査のことは聞いていた」
「ま、アンタだけ何か知っとる体(てい)やったしな」
ふう、と息を吐いて窓の外に視線をやる。朝焼けは消えていて薄青が忍び寄って来ていた。視線を空から下ろすと、昨日の草叢が見えた。
「ちょ、二人でなにわけ分かんねえこと言ってんすか!そんなことより今は…」
「切原、幸村は別にお化けが原因で倒れたんちゃう」
途端、彼の表情が絶望に彩られる。彼の薄い唇がふるふると震えていた。
「なっ………何でですか…」
「何でって………全部の不幸がお化けによるもんなわけないやろ」
「だって幸村部長は………っ!!」
「赤也!…やめろ」
それ以上はよせとばかりに柳は赤也の腕を強く掴んだ。これ以上彼の好き勝手にさせていたら、紫苑に当たり散らすだろうと予想していたからだ。紫苑もそれは理解していた。
「済まなかったな、土御門」
「…別に」
紫苑は二人の顔もまともに見ずに通り過ぎる。無心で歩いていたのに、何故か昨日のテニスを羨望した男の子を思い出した。