無遠慮に入る指
どろりと胸の内が融けたような感覚を持った。視界が点滅する。頭の芯が痺れて、何もかもがどうでも良くなった。ぎちぎちと悲鳴をあげる拳から力を抜いて息を吐いた。
それから――――。
*
「―――あれ、紫苑?」
東京駅にて、紫苑は聞き慣れない男の声に立ち止った。振り返って確認してみると最近見慣れだした赤毛がいた。丸井である。
「どうしたんだよい」
「…アンタこそ」
「俺は芥川くんとケーキ巡り」
女子かよと心の中で突っ込む。
「…ていうかアンタは何で堂々とうちを名前呼びしてんねん」
「別に良いだろい?嬉しくねえの?」
「まったくな」
「変な奴」
ぷう、と風船ガムを膨らませる丸井。割りたくなったがそこは堪えた。それから紫苑はケータイを取り出してメモ帳を開ける。電車の乗り換えを確認したのだ。その行動を見ていた丸井が「お前これからどこ行くんだ?」と訊いてきた。言いたくなかったが黙っているとますます面倒なことになりそうだったので素直に答えた。答えを知った丸井は然程興味が無かったのかふーんと言ったきり口を開かなくなった。何なんだと思いつつ、時刻を確認する。まだ余裕があった。しかしこれ以上彼と一緒にいても無意味なので「じゃ、うち行くわ」と声をかける。
「……あのさ」
すると丸井が開口する。
「幸村くんのことなんだけど………」
「…、またそれか」
赤也といい丸井といい、何故自分に幸村のことを言うのかさっぱり分からない。
「入院したっていうの聞いた?」
「柳から聞いたし、おんなしクラスやし担任が言うとったわ」
「……あの、お前さえ良ければ、なんだけど…」
妙に歯切れの悪い丸井に顔をしかめる。それを怒っていると受け取った彼は慌てて「あ、いやそんな怒んなよ」と宥めた。
「俺は是非見舞いに行ってほしいって言いたくて…」
「見舞い?何でやねん、うち別に幸村と親しないし」
「まあそうなんだけど……」
もごもごと唇を食む丸井に溜息を送り、紫苑は駅のホームへ向かう。背後で丸井が何かを言っていたが無視した。
「ったくなんやねん、どいつもこいつも。……ッ」
「あっ堪忍!」
前方不注意で曲がり角で誰かにぶつかってしまった。関西弁であることに驚きを覚えたが、こちらが返事をする前に関西弁の彼はどこかへ走り去ってしまった。「………、」一瞬だったが、体を這われるような気味の悪い感覚が走った。だが紫苑はそのまま目的地へ足を運ぶ。これ以上の面倒事は本当に嫌だった。
それから――――。
*
「―――あれ、紫苑?」
東京駅にて、紫苑は聞き慣れない男の声に立ち止った。振り返って確認してみると最近見慣れだした赤毛がいた。丸井である。
「どうしたんだよい」
「…アンタこそ」
「俺は芥川くんとケーキ巡り」
女子かよと心の中で突っ込む。
「…ていうかアンタは何で堂々とうちを名前呼びしてんねん」
「別に良いだろい?嬉しくねえの?」
「まったくな」
「変な奴」
ぷう、と風船ガムを膨らませる丸井。割りたくなったがそこは堪えた。それから紫苑はケータイを取り出してメモ帳を開ける。電車の乗り換えを確認したのだ。その行動を見ていた丸井が「お前これからどこ行くんだ?」と訊いてきた。言いたくなかったが黙っているとますます面倒なことになりそうだったので素直に答えた。答えを知った丸井は然程興味が無かったのかふーんと言ったきり口を開かなくなった。何なんだと思いつつ、時刻を確認する。まだ余裕があった。しかしこれ以上彼と一緒にいても無意味なので「じゃ、うち行くわ」と声をかける。
「……あのさ」
すると丸井が開口する。
「幸村くんのことなんだけど………」
「…、またそれか」
赤也といい丸井といい、何故自分に幸村のことを言うのかさっぱり分からない。
「入院したっていうの聞いた?」
「柳から聞いたし、おんなしクラスやし担任が言うとったわ」
「……あの、お前さえ良ければ、なんだけど…」
妙に歯切れの悪い丸井に顔をしかめる。それを怒っていると受け取った彼は慌てて「あ、いやそんな怒んなよ」と宥めた。
「俺は是非見舞いに行ってほしいって言いたくて…」
「見舞い?何でやねん、うち別に幸村と親しないし」
「まあそうなんだけど……」
もごもごと唇を食む丸井に溜息を送り、紫苑は駅のホームへ向かう。背後で丸井が何かを言っていたが無視した。
「ったくなんやねん、どいつもこいつも。……ッ」
「あっ堪忍!」
前方不注意で曲がり角で誰かにぶつかってしまった。関西弁であることに驚きを覚えたが、こちらが返事をする前に関西弁の彼はどこかへ走り去ってしまった。「………、」一瞬だったが、体を這われるような気味の悪い感覚が走った。だが紫苑はそのまま目的地へ足を運ぶ。これ以上の面倒事は本当に嫌だった。