―――露が、滴り落ちた。
水たまりに落ちたその雫は円を広げ、やがて透明から鮮やかな赤色に変わる。霧雨が降る中、赤色が跳ねて彼の手を汚した。
彼はただぼんやりと“それ”を見ていた。“それ”は驚愕の瞳を彼に向けているが、彼は相変わらず無反応でぼんやりしていた。“それ”が助けを求めるように口を開くが、どういうわけか彼にはまったく何も聞こえなかった。霧雨の音と、誰かの笑い声。その笑い声は彼にとって聞き覚えのあるものだったが、誰の声かまでは思い出すことができなかった。
“それ”が尚叫ぶ。でも、何も聞こえない。彼の耳には届かない。
彼は考える。そういえば“それ”は何なんだろう。何故こちらを見ているのだろう。何故こちらに手を伸ばしているのだろう。
“この少年”は誰なんだろう……?

「うふふふ」

誰かが笑っている。“この少年”ではない。別の誰か。

「うふふふふふふふふふふふ」

水たまりは真っ赤になっていた。赤絵の具をこぼしたのだろうか、などと場違いなことを考える。
ふと服を見てみれば、真っ赤に染まっていた。額から落ちてくる霧雨の色が、赤色になっていた。どうしてだろう、雨は透明なのに。雨に色はあっただろうか。
ぼんやりした頭で考える。気づけば全身赤色で、掌はぬるりとした粘着質な液体がこびりついていた。
「きははははっはあっは…あはははは!!!!」
笑い声が劈く。さっきから誰が笑っているんだ。
頭の芯に刺してくるその笑い声に眉をしかめたその時、ぼたりと頬に何かが落ちた。拭ってみると、それも粘着質な、赤色の液体だった。
ふと辺りを見回すと、先程まで何かを叫んでいたらしい“少年”がいなくなっていた。いつの間にどこへ行ったのだろうかと不思議がる。
「………あはハハはっはは…はははハハハ!貰ってく!もらってくね!!」
汚い声だった。
一体何を貰っていくというのだ。彼は首をかしげると、何気なく天を仰いだ。

すると。

“少年”が。
あの少年が。小さな少年が。大きな目の少年が。赤毛の少年が。
よく知っている、少年が。
「き、…………きん、…ちゃん……?」
大切な後輩の体が逆さ吊りになっていた。
ずっと雨だと思っていた赤色の雫は、大切な後輩の体から噴き出した血だった。