腹を裂いてでも芽吹く花
「…彼はどうしたんだ?」
手塚の困惑した声に紫苑は大丈夫だと伝える。
「今、戦ってるだけや」
「戦ってる?誰とだ?」
「…多分…」
子供を連れ去る妖怪――そう言おうとしたが、やめた。手塚は何も感じていないようだし、ここで半端に伝えても混乱するだけだろう。「…ウブメ、か?」しかし、紫苑には劣るがそれなりに力のある桐は察したようだった。まさか分かるとは思っていなかったので紫苑は内心驚いた。
「なんや、分かってたんかい」
「まあな」
だったらお前が対処しろよと白い目を向けたが桐は涼し気な顔をした。
「……それで、遠山はどうなんだ」
己の常識の範囲外で何かが起こっていると聡く勘づいた手塚は、戸惑いながらも紫苑に問う。
「こいつ次第やな」
「それは……………」
「その遠山とかゆう奴を助けられるかは、白石の気持ち次第って言うてんねん」
紫苑の冷徹な声に手塚が息を呑んだ。
*
「な、何なんやお前………………………金ちゃんをこんな目に遭わせたんはお前か!?」
露と、血の匂い。視界が滲む中、白石はいつかの時に出会った女に激しく問いかける。今すぐ彼を降ろせと命令しても女は笑い続けていた。おかしそうに、とても、おかしそうに。平坦でありながらも嘲笑味があるそれに、恐怖を感じる。
「ナンで?」
「、は?」
「イラナイって!要らないって言ッた!!だから貰った!」
返さない!!そう叫んで天を仰ぐ女。白い乳が血で真っ赤に染まっている。それさえなければ扇情的な光景だったのかもしれないが、生憎白石には女がどんな艶めかしい姿だったとしても、“怖い”という心情以外何も抱きはしなかった。
「イラナイって!ヲ前がイラナイって言ったから貰ったのに!無理無理無理無理無理無理!!これワタシの!!ワタシのコドモ!!」
「そ、そんなん………」
言ってない―――――その筈だ。彼は可愛い後輩で、手のかかるが確かに部活仲間だと思っていた。
思っていた…筈だった。
「おれは…………」
なんてことをしてしまったのだと、今更悔いる。
「要らないッテ、ヲ前言った。だからワタシ貰った。ね、ワタシ悪くない。ヲ前が手放した」
「ちがう…………っ…違う!!」
少し嫌気が差していただけだった。疲れていただけだった。明日になれば元に戻る筈だった。遠山はいつも通りのワガママを言っただけだったのに、それを今回はたまたま疲れていた己が大人気なく否定してしまっただけだ。それだけだったのに、何でこんなことになったのか。本当は、本当に大切な後輩なのに。一度でも手放そうとした…否、手放してしまった自分自身に怒りが芽生える。
「っ頼む…返してくれ………金ちゃんを返してくれ!!」
叫喚したその瞬間、突如として銀の一閃が女と白石の間に駆け抜けた。思わず目を瞑ったが、ポンと軽く叩かれたその小さな手に、白石は何故か安堵した。
手塚の困惑した声に紫苑は大丈夫だと伝える。
「今、戦ってるだけや」
「戦ってる?誰とだ?」
「…多分…」
子供を連れ去る妖怪――そう言おうとしたが、やめた。手塚は何も感じていないようだし、ここで半端に伝えても混乱するだけだろう。「…ウブメ、か?」しかし、紫苑には劣るがそれなりに力のある桐は察したようだった。まさか分かるとは思っていなかったので紫苑は内心驚いた。
「なんや、分かってたんかい」
「まあな」
だったらお前が対処しろよと白い目を向けたが桐は涼し気な顔をした。
「……それで、遠山はどうなんだ」
己の常識の範囲外で何かが起こっていると聡く勘づいた手塚は、戸惑いながらも紫苑に問う。
「こいつ次第やな」
「それは……………」
「その遠山とかゆう奴を助けられるかは、白石の気持ち次第って言うてんねん」
紫苑の冷徹な声に手塚が息を呑んだ。
*
「な、何なんやお前………………………金ちゃんをこんな目に遭わせたんはお前か!?」
露と、血の匂い。視界が滲む中、白石はいつかの時に出会った女に激しく問いかける。今すぐ彼を降ろせと命令しても女は笑い続けていた。おかしそうに、とても、おかしそうに。平坦でありながらも嘲笑味があるそれに、恐怖を感じる。
「ナンで?」
「、は?」
「イラナイって!要らないって言ッた!!だから貰った!」
返さない!!そう叫んで天を仰ぐ女。白い乳が血で真っ赤に染まっている。それさえなければ扇情的な光景だったのかもしれないが、生憎白石には女がどんな艶めかしい姿だったとしても、“怖い”という心情以外何も抱きはしなかった。
「イラナイって!ヲ前がイラナイって言ったから貰ったのに!無理無理無理無理無理無理!!これワタシの!!ワタシのコドモ!!」
「そ、そんなん………」
言ってない―――――その筈だ。彼は可愛い後輩で、手のかかるが確かに部活仲間だと思っていた。
思っていた…筈だった。
「おれは…………」
なんてことをしてしまったのだと、今更悔いる。
「要らないッテ、ヲ前言った。だからワタシ貰った。ね、ワタシ悪くない。ヲ前が手放した」
「ちがう…………っ…違う!!」
少し嫌気が差していただけだった。疲れていただけだった。明日になれば元に戻る筈だった。遠山はいつも通りのワガママを言っただけだったのに、それを今回はたまたま疲れていた己が大人気なく否定してしまっただけだ。それだけだったのに、何でこんなことになったのか。本当は、本当に大切な後輩なのに。一度でも手放そうとした…否、手放してしまった自分自身に怒りが芽生える。
「っ頼む…返してくれ………金ちゃんを返してくれ!!」
叫喚したその瞬間、突如として銀の一閃が女と白石の間に駆け抜けた。思わず目を瞑ったが、ポンと軽く叩かれたその小さな手に、白石は何故か安堵した。