ユートピアでまた会おう
「勾陣(こうじん)!!」
ドン!という音と共に現れたのは金の蛇。透明感のある青緑の瞳はいつ見ても美しい。
《何用か》
「ここの机と椅子退けて!!」
《……京から呼び出されたから何かあったのかと思えば…そのくらい己が力でせぬか。まったく…これだから若造は》
「アンタ力持ちやろが!早よせェ!」
おちおち無駄話をしている時間も惜しい。急かせば、勾陣はやれやれと溜息をついて道を阻んでいた机類を吹き飛ばした。
「いや…これはぶっ壊したっていうのに近いんじゃね?」
「ごちゃごちゃ言う暇あったら走れ!!」
「ごくろーさん!!」《相変わらず神使いの荒い小娘だ》式神を破いた紫苑は木片を見つめている丸井を叩いて促した。
「くっそ…こうなったんも全部アンタの所為や…!!」
「だ、だから悪かったと思ってるって言っただろい!?」
そう、全ては丸井が原因であった。
時は今朝まで遡る。学校に到着した紫苑が下駄箱を開けてみたところ、一通の手紙が入っていたのである。白色の封筒に名前は書かれていない。なんとなく引っかかりを覚えたので、中身を見る前にラブレターではないことを察する。
封を切るべきではないな――すぐに悟った。
捨てる一択だったので紫苑はごみ箱まで行こうとした。
「おっ紫苑じゃん」
「おはよう。早いな、いつもこの時間なのか」
「良い心掛けだな。赤也に見習わせたいものだ」
丸井、ジャッカル、真田。テニス部の面子と出くわしてしまった。
「お前何持ってんだよい」
「何でもええやろ」
「まっまさかラブレターとか!?ぎゃはははは!!お前を好きになる奴とかいるんだなー!」
「ブン太、それは失礼すぎるぞ」
一発殴っても免罪されそうな案件だが、それよりも紫苑はこの手紙を早く処分したいので丸井を相手にせず通り過ぎた。「教室は逆だぞ、土御門」真田に言われ、紫苑は足を止める。
「捨てに行くんや」
「手紙をか?」
「せや」
「封を切っていないではないか」
せめて読んでやれ、と述べる真田の目は姿も知らぬ差出人を想っていた。成程どうやら丸井の言葉を真に受けたらしい。本当にこれがラブレターだと勘違いしている。
「…これ多分ラブレターちゃうし」
「そうなのか?ならば……ッ果たし状か!!」
「いや何でやねん!」
「俺ナマの“何でやねん”初めて聞いたぜ」
「桑原、つっこむとこはそこちゃうねん」
それに“何でやねん”は関西人なら誰でもよく使う、と一言添える。
「…ちょっと嫌な感じしてな。これ、あんま関わらんほうがええと思う」
「えー。でも読むだけ読んでみろよ。もしかしたらお前の勘違いかもしれねーじゃん」
丸井の無責任な発言に青筋が立つが、そこは怒りを堪えた。丸井は鈍感そうだし分からないだろうと判断したからだ。それに紫苑も式を操れるとはいえまだまだ半人前。“もしかしたら”という場合もあり得る。
「しゃあないなぁ…」
「おっしゃ!じゃあ開けようぜ!」
丸井は紫苑の手中にあった手紙を抜き取って勝手に封を切った。
「丸井!お前が封を開けるな!」
「いってェ!!」
「これは土御門のものだろう!!」
「……ん?どうしたんだよ土御門」
ジャッカルの不思議そうな声に紫苑は顔を上げた。
「読んでみ」丸井と真田の掛け合いの間にざっと文面を読んでみたのだが、よく分からなくて困ったのだ。
「“放課後、旧校舎の前で待ってます”……何で旧校舎?」
「知らん」
「旧校舎かぁ…あそこ薄暗くてちょっと怖いんだよなぁ」
「放課後とか絶対行きたないわ」
「分かる」
「ちょっ…お前らなに二人で話進めてんだよ!俺にも見せろよい!」
仕方がないので丸井に手紙を渡す。何だかんだ真田も気になるのか、ひょっこり手紙を覗いた。
「これは……女子の字ではないか?」
「え?そうなん?」
「なーんだ、ラブレターじゃないのかよい」
しかし女子からの呼び出しとは…あまり良い予感はしない。行くのか?とジャッカルが心配そうに訊ねてくる。本来なら無視したいのだが、いかんせん紫苑は女子から呼び出されそうな心当たりがあった。――主に目の前にいる彼らが心当たりの大半だが。
「行って誤解解いてくるわ」
「え、紫苑お前呼び出される心当たりあるわけ?」
「多分九割以上アンタらが原因やと思うけどな」
そう言えば三人はバツの悪そうな顔をした。
「紫苑、俺ついて行ってもいいぜ」
「いやあかんやろ。うちは相手逆上させるような真似しいひん。アンタは来るな絶対に」
「でもよォ……」
「大丈夫や。せやからアンタらは部活行っとき」
そう、話したのが今朝のこと。
「アンッタはホンマに……うちの邪魔をしてくれるなぁ!!」
「だからごめんってば!!」
「ごめんで済んだらケーサツ要らんねんボケェ!!」
何故かこの馬鹿(丸井)は放課後、旧校舎まで来たのである。そして彼はいつまで経っても来ない差出人に対し“もしかしたら旧校舎内にいるんじゃね?”と推測し、紫苑を無理やり引っ張って旧校舎に足を踏み入れたのである。
―――そして、現在に至る。
「アホや!!ホンマにアホや!!アホアホアホアホ!!」
「あんまアホアホ言うな!傷つくじゃねーか!!」
「やかまし!!誰がこいつらと戦うと思てんねん!!」
「そっそれは……悪いと思ってる」
本当に申し訳なさそうな顔をする丸井を一瞥し、紫苑は立ち止まる。「騰蛇(とうだ)!鬼魔駆逐 急々如律令!!」一瞬にして化物を灰塵とする騰蛇の力に賞賛の拍手を送る余裕すらない。二人は安全な場所へと再び走り出した。
ドン!という音と共に現れたのは金の蛇。透明感のある青緑の瞳はいつ見ても美しい。
《何用か》
「ここの机と椅子退けて!!」
《……京から呼び出されたから何かあったのかと思えば…そのくらい己が力でせぬか。まったく…これだから若造は》
「アンタ力持ちやろが!早よせェ!」
おちおち無駄話をしている時間も惜しい。急かせば、勾陣はやれやれと溜息をついて道を阻んでいた机類を吹き飛ばした。
「いや…これはぶっ壊したっていうのに近いんじゃね?」
「ごちゃごちゃ言う暇あったら走れ!!」
「ごくろーさん!!」《相変わらず神使いの荒い小娘だ》式神を破いた紫苑は木片を見つめている丸井を叩いて促した。
「くっそ…こうなったんも全部アンタの所為や…!!」
「だ、だから悪かったと思ってるって言っただろい!?」
そう、全ては丸井が原因であった。
時は今朝まで遡る。学校に到着した紫苑が下駄箱を開けてみたところ、一通の手紙が入っていたのである。白色の封筒に名前は書かれていない。なんとなく引っかかりを覚えたので、中身を見る前にラブレターではないことを察する。
封を切るべきではないな――すぐに悟った。
捨てる一択だったので紫苑はごみ箱まで行こうとした。
「おっ紫苑じゃん」
「おはよう。早いな、いつもこの時間なのか」
「良い心掛けだな。赤也に見習わせたいものだ」
丸井、ジャッカル、真田。テニス部の面子と出くわしてしまった。
「お前何持ってんだよい」
「何でもええやろ」
「まっまさかラブレターとか!?ぎゃはははは!!お前を好きになる奴とかいるんだなー!」
「ブン太、それは失礼すぎるぞ」
一発殴っても免罪されそうな案件だが、それよりも紫苑はこの手紙を早く処分したいので丸井を相手にせず通り過ぎた。「教室は逆だぞ、土御門」真田に言われ、紫苑は足を止める。
「捨てに行くんや」
「手紙をか?」
「せや」
「封を切っていないではないか」
せめて読んでやれ、と述べる真田の目は姿も知らぬ差出人を想っていた。成程どうやら丸井の言葉を真に受けたらしい。本当にこれがラブレターだと勘違いしている。
「…これ多分ラブレターちゃうし」
「そうなのか?ならば……ッ果たし状か!!」
「いや何でやねん!」
「俺ナマの“何でやねん”初めて聞いたぜ」
「桑原、つっこむとこはそこちゃうねん」
それに“何でやねん”は関西人なら誰でもよく使う、と一言添える。
「…ちょっと嫌な感じしてな。これ、あんま関わらんほうがええと思う」
「えー。でも読むだけ読んでみろよ。もしかしたらお前の勘違いかもしれねーじゃん」
丸井の無責任な発言に青筋が立つが、そこは怒りを堪えた。丸井は鈍感そうだし分からないだろうと判断したからだ。それに紫苑も式を操れるとはいえまだまだ半人前。“もしかしたら”という場合もあり得る。
「しゃあないなぁ…」
「おっしゃ!じゃあ開けようぜ!」
丸井は紫苑の手中にあった手紙を抜き取って勝手に封を切った。
「丸井!お前が封を開けるな!」
「いってェ!!」
「これは土御門のものだろう!!」
「……ん?どうしたんだよ土御門」
ジャッカルの不思議そうな声に紫苑は顔を上げた。
「読んでみ」丸井と真田の掛け合いの間にざっと文面を読んでみたのだが、よく分からなくて困ったのだ。
「“放課後、旧校舎の前で待ってます”……何で旧校舎?」
「知らん」
「旧校舎かぁ…あそこ薄暗くてちょっと怖いんだよなぁ」
「放課後とか絶対行きたないわ」
「分かる」
「ちょっ…お前らなに二人で話進めてんだよ!俺にも見せろよい!」
仕方がないので丸井に手紙を渡す。何だかんだ真田も気になるのか、ひょっこり手紙を覗いた。
「これは……女子の字ではないか?」
「え?そうなん?」
「なーんだ、ラブレターじゃないのかよい」
しかし女子からの呼び出しとは…あまり良い予感はしない。行くのか?とジャッカルが心配そうに訊ねてくる。本来なら無視したいのだが、いかんせん紫苑は女子から呼び出されそうな心当たりがあった。――主に目の前にいる彼らが心当たりの大半だが。
「行って誤解解いてくるわ」
「え、紫苑お前呼び出される心当たりあるわけ?」
「多分九割以上アンタらが原因やと思うけどな」
そう言えば三人はバツの悪そうな顔をした。
「紫苑、俺ついて行ってもいいぜ」
「いやあかんやろ。うちは相手逆上させるような真似しいひん。アンタは来るな絶対に」
「でもよォ……」
「大丈夫や。せやからアンタらは部活行っとき」
そう、話したのが今朝のこと。
「アンッタはホンマに……うちの邪魔をしてくれるなぁ!!」
「だからごめんってば!!」
「ごめんで済んだらケーサツ要らんねんボケェ!!」
何故かこの馬鹿(丸井)は放課後、旧校舎まで来たのである。そして彼はいつまで経っても来ない差出人に対し“もしかしたら旧校舎内にいるんじゃね?”と推測し、紫苑を無理やり引っ張って旧校舎に足を踏み入れたのである。
―――そして、現在に至る。
「アホや!!ホンマにアホや!!アホアホアホアホ!!」
「あんまアホアホ言うな!傷つくじゃねーか!!」
「やかまし!!誰がこいつらと戦うと思てんねん!!」
「そっそれは……悪いと思ってる」
本当に申し訳なさそうな顔をする丸井を一瞥し、紫苑は立ち止まる。「騰蛇(とうだ)!鬼魔駆逐 急々如律令!!」一瞬にして化物を灰塵とする騰蛇の力に賞賛の拍手を送る余裕すらない。二人は安全な場所へと再び走り出した。