生意気なヤツら
薄暗い廊下はどことなく、危うい気配を孕んでいる。人成らざるモノたちがここにいる証拠だ。
突然ここに引きずりこまれた仁王は、気配を押し殺しながら紫苑たちを探していた。
(二人共どこにおるんじゃ)
生憎人間以上の探査能力を有していない仁王は地道に足で二人を探すしかない。あまりに危険な道だが、紫苑たちはきっと仁王も旧校舎にいることは知らない筈だ。救助は期待できない。
「厄介じゃのう」
適当な教室に入り、少し体を休める。埃っぽかったが文句は言っていられない。
(全然知らんけど、土御門さんていっつもこんな危ないことしとるんかな)
今まで彼女がどう過ごしてたかなんて知る由もない。ただ、紫苑の友人は紫苑が“そういう”家系であることを知らなさそうだったし、彼女は誰にもそのことを言わないつもりだったのかもしれない。まあそれは、仁王との接触によって瓦解してしまったが。
紫苑の判断は正しい。下手に打ち明けて、もしこんな風に第三者を巻き込んだら無事では済まないからだ。仁王や丸井は紫苑に理解があるほうだが、理解のない者がこうして危険に曝されたら親が黙っていないだろう。
「まあ、俺の親もこんなん知ったら許さんかな」
きっと付き合いをやめろと言われるに違いない。
紫苑はそれを理解している。線引きを心得ている。自分と他者を守る為の、防衛線を。
――土御門さん、寂しくないんやろか――
あの太々しい横顔を思い浮かべる。自信家で、それでいて他を寄せ付けない空気を纏う紫苑。ただの同級生が口を挟むべきことではないのかもしれないが、それでもなんとなく、仁王は紫苑を放っておくことができなかった。
(早く行くしかないのう)
周囲を窺う。もう、あの変な気配はない。
「……行くか」
仁王は迷うことなく飛び出した。
さて、教室を出た仁王であったが如何せん手がかりはゼロ。右へ行けば良いのか左に行けば良いのか、それすらも分からない。困ったと溜息を一つ。
「…あ、そうじゃ」
何故忘れていたのだろうと苦笑して、ポケットの中に手を突っ込む。
携帯電話だ。
「おっ。使えるのう」
電波が立っていたので紫苑の携帯電話にかけることに成功する。文明の利器は素晴らしい。<仁王!?>電話越しの彼女は驚きに満ちた声を出した。
<アンタ今どこや!?>
「旧校舎の中じゃ」
<ああ、やっぱり…>
<紫苑の勘すげえな!>
「丸井は大丈夫なんか?」
<平気や。それより合流すんで>
切羽詰まったそれに少しばかり面食らう。今までの紫苑ならたとえ鏡に引き込まれようとも比較的冷静だった。それなのに今回はどういうわけかひたすら焦っているようであった。
「…大丈夫じゃ、土御門さん。入り口のところで待ち合わせよう」
<……その前に呪符を剥がさなあかん>
「ほーかの。俺、なんかやらなあかんことあるかの」
いや、平気―と固い返答。
<仁王!無事でいろよ!俺らすぐ行くから!>
「へいへい、期待せずに待っとるよ」
嬉しいような悲しいような、少しばかり複雑な気分を抱きながらも通話を切る。いつもなら彼女の隣には自分がいた筈なのだが…今回はそれを丸井に取られてしまった。「……ま、ええか」今はそんなことを考えている時ではない。己を叱咤して立ち上がり―――ふと、視線をある一点に止める。
「何じゃ、これ」
紫苑が使っている式にも似た札のようなものが、壁に貼られていた。
突然ここに引きずりこまれた仁王は、気配を押し殺しながら紫苑たちを探していた。
(二人共どこにおるんじゃ)
生憎人間以上の探査能力を有していない仁王は地道に足で二人を探すしかない。あまりに危険な道だが、紫苑たちはきっと仁王も旧校舎にいることは知らない筈だ。救助は期待できない。
「厄介じゃのう」
適当な教室に入り、少し体を休める。埃っぽかったが文句は言っていられない。
(全然知らんけど、土御門さんていっつもこんな危ないことしとるんかな)
今まで彼女がどう過ごしてたかなんて知る由もない。ただ、紫苑の友人は紫苑が“そういう”家系であることを知らなさそうだったし、彼女は誰にもそのことを言わないつもりだったのかもしれない。まあそれは、仁王との接触によって瓦解してしまったが。
紫苑の判断は正しい。下手に打ち明けて、もしこんな風に第三者を巻き込んだら無事では済まないからだ。仁王や丸井は紫苑に理解があるほうだが、理解のない者がこうして危険に曝されたら親が黙っていないだろう。
「まあ、俺の親もこんなん知ったら許さんかな」
きっと付き合いをやめろと言われるに違いない。
紫苑はそれを理解している。線引きを心得ている。自分と他者を守る為の、防衛線を。
――土御門さん、寂しくないんやろか――
あの太々しい横顔を思い浮かべる。自信家で、それでいて他を寄せ付けない空気を纏う紫苑。ただの同級生が口を挟むべきことではないのかもしれないが、それでもなんとなく、仁王は紫苑を放っておくことができなかった。
(早く行くしかないのう)
周囲を窺う。もう、あの変な気配はない。
「……行くか」
仁王は迷うことなく飛び出した。
さて、教室を出た仁王であったが如何せん手がかりはゼロ。右へ行けば良いのか左に行けば良いのか、それすらも分からない。困ったと溜息を一つ。
「…あ、そうじゃ」
何故忘れていたのだろうと苦笑して、ポケットの中に手を突っ込む。
携帯電話だ。
「おっ。使えるのう」
電波が立っていたので紫苑の携帯電話にかけることに成功する。文明の利器は素晴らしい。<仁王!?>電話越しの彼女は驚きに満ちた声を出した。
<アンタ今どこや!?>
「旧校舎の中じゃ」
<ああ、やっぱり…>
<紫苑の勘すげえな!>
「丸井は大丈夫なんか?」
<平気や。それより合流すんで>
切羽詰まったそれに少しばかり面食らう。今までの紫苑ならたとえ鏡に引き込まれようとも比較的冷静だった。それなのに今回はどういうわけかひたすら焦っているようであった。
「…大丈夫じゃ、土御門さん。入り口のところで待ち合わせよう」
<……その前に呪符を剥がさなあかん>
「ほーかの。俺、なんかやらなあかんことあるかの」
いや、平気―と固い返答。
<仁王!無事でいろよ!俺らすぐ行くから!>
「へいへい、期待せずに待っとるよ」
嬉しいような悲しいような、少しばかり複雑な気分を抱きながらも通話を切る。いつもなら彼女の隣には自分がいた筈なのだが…今回はそれを丸井に取られてしまった。「……ま、ええか」今はそんなことを考えている時ではない。己を叱咤して立ち上がり―――ふと、視線をある一点に止める。
「何じゃ、これ」
紫苑が使っている式にも似た札のようなものが、壁に貼られていた。