ばったりと、銀髪の彼と会ってしまった。
「……」
「……」
彼の背後には黒髪の女が居る。一見すれば普通の人間と間違えそうなはっきりとした姿だが、紫苑の目を欺くことはできなかった。
女は、間違いなく幽霊だ。
「…あー」
「? 何じゃ」
女と目を合わせないように、紫苑は俯く。
本当なら気にせず彼の横を通り過ぎれば良かったのだが、曲がり角で彼と出くわしてしまい、更には彼の背後に視線が行ってしまって無言で横を通り過ぎるのが不自然な状況に陥ってしまったのである。「…えっとごめん」取り敢えず謝っておく。すると銀髪も「あ、いや、俺も済まんかったのう。どっか怪我しとらんか?」と訊いてきた。見た目と違い、案外人の心配ができる人のようだ。
「大丈夫」
「そーか」
「アンタのほうが大丈夫なん?」
「は?」
「あっ」
つい訊ねてしまった。銀髪は目を丸くして紫苑を凝視する。
「あーあー…さっさとお祓い行ったほうがええで」
「!!」
銀髪の戸惑いなど知らず、これ以上関わるわけにもいかないので紫苑は足早に彼の横を通り過ぎた。
「ちょォ待ちんしゃい!」
「うっ!?」
が、そう簡単にはいかなかった。
銀髪は素早く紫苑の襟を掴んだ。ぎゅ、と首が締まり紫苑の口からおかしな声が出る。
「解るんかお前!」
「な、何やねん離せ!」
「そうはいかん!なあ、何とかしちょくれ!困っとんじゃ!」
「せやから祓いに行け言うたやん!」
「俺はそういうのでどこが良いトコなんか知らんのじゃ!」
「せやからって何でうちに訊くん!?」
「視えとんのじゃろうお前!じゃあその手に強いゆうことじゃ!」
「やかまし!」
確かに視えるが面倒事に巻き込まれるのはご免である。
「頼む!この通り!」
そう言うと銀髪は頭を下げる。まさかそこまでやられるとは思わず、紫苑はびっくりして固まった。
どうやら彼は相当参っているらしい。その必死さが窺えて、断るのが段々申し訳なくなってきた。
「…放課後空いとる?」小さく溜息をついて紫苑は訊ねる。
「お、おう!」
「ほんじゃ、ちょっと付き合ってや」
「分かった!」



面倒事に巻き込まれてしまった放課後。紫苑は彼を連れてカフェに足を運んでいた。穴場スポットらしく、あまり人が居ない。
「手ェ貸して」
「?」
首を傾げつつ、銀髪は素直に従う。差し出された男らしい手に、紫苑の小さくて細い手が乗っけられた。
目を瞑って、神経を尖らせる。
「……夕方」
「え?」
「この前の帰り道…一人でおったんか。で…輪っか、いや指輪…を、拾った」
「な、何で分かるんじゃ!?」
「多分それが原因や」
一言も言っていない事実を言い当てられ、銀髪は困惑する。
「あれ、言うとらんかった?うちそういう系の家系やねん」
「えええ!?じゃあ最初から助けてくれたら良かったのに!」
「はあ?そんなん面倒やん」
「……」
「…じゃ、原因分かってんからあとは自分でなんとかしィ」
「いやいやいや待て!途中で放り出すな!」
飲み物の代金を置いて立ち去ろうとする紫苑。慌てて銀髪に引き留められ、眉根を寄せた。
「何やねん原因突きとめたってんからもうええやろ」
「そこまでやってくれたんじゃから、最後までやってくれ!」
「最後って?」
「除霊!」
「…あんなあ、確かにうちは一般人に比べてそういうのの対処方法は解るけど、玄人じゃないんやで?うちかてまだ修行中の身や、そんな奴に任すよりもちゃんとしたトコ行ったほうがええって」
「じゃあおまんの家の人は!?」
「…あー…せやったらアンタが最初にうちに頼ってきたことバレるやん。そんなんバレたら絶対うちが最後までやれ言われるもん、嫌や」
「じゃあやっぱおまんしか居らん!」
再び頼むと頭を下げられる。
「…抹茶パフェ」
「は?」
「それ奢ってくれるんやったら手ェ貸したってもええで」
「……わ、分かった!!」
あまりにも軽い報酬だが、それでも構わない。こんなにも必死な彼を見ているとなんだか同情してしまった。
意気揚々と抹茶パフェを注文する彼を見、紫苑は密かに溜息をついた。