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※前ページ「冒頭(magi)」の続きのようなもの。
※一応トリップもの。
※夢主以外のオリキャラ(容姿描写あり、名前付き、変更不可)がいます。
※捏造、改変、独自設定などあり。
※夢主の名前変換は「名前」と「ナマエ」の部分で変更可。
前ページの力が尽きた場面から少し先に飛んだ、書きたいところだけの文章です。消すのがもったいなくて纏めたもの。視点が途中で変わります。原作キャラとはまたもや絡んでいません。無念。
第2夜 鏡像の魂
そこは夢と呼ぶにはあまりにもリアルで、現実と呼ぶにはあまりにも曖昧な世界だった。
「また、この場所……」
見覚えのある真っ白な空間。夢で見たあの場所と同じ。自分はいつの間にここへ来てしまったのだろうか。眠った覚えはないのに。相変わらず影のない足元を見つめながら、ぐるりと記憶を振り返る。今まで何をしていたのだっけ。二回目ともなると、不思議と落ち着いていられた。人間は適応する生き物である。
「そうだ……図書室で、」
本を返そうとして。そう何気なく続けようと口を動かし、はっとする。何故だか、今回は普通に話せるらしい。夢の中で話すという概念があるのかはわからないが。なんとなしに喉元を指先で撫ぜつつ、奥へと足を進ませる。どちらが奥かなんて知りようもないけれど、とりあえず適当に前へ前へ。そうしている内にふっと、図書室での出来事を思い出した。
学校の図書室には開かずの間がある。と言っても、ただ鍵がかかっているだけで特別なものなど何もないはずだった。けれど、その扉の先から例の鳥の声が聞こえた気がして。誘われるがままにドアノブを捻った。だって、開かないと思っていたから。
予想に反して軽い力で開いてしまった扉の奥、そこには布で覆い隠された姿見があった。なんだか意味ありげで少し不気味だったのだけれど、その時は興味が勝ってしまって。一思いに布を取り払い、覗き込んで、それから……?
「気づいたらここにいて……」
どういうことだろう。単純に怖い。怪奇現象がすぎる。まさか、鏡の中に入ってしまったなんて、そんなおとぎ話があるだろうか。それとも、恐ろしい何かが写って気絶してしまったとか。うん、後者の方がまだあり得そう。
「あなた……」
不意に、透き通るような綺麗な声が空間に響く。静かな場所だからか、前回よりもずっとよく聞こえて。反射的にぱっと顔を上げた先。そこにいたのは、やっぱり思い描いた通りの自分とそっくりなあの少女だった。
「あっ!」
「やはり、」
「「あの時の……!」」
♦︎(場面が飛ぶ上に、視点が変わります)
「え、なに……!?」
それは突然だった。ぱきり、ぱきりと白い空間に亀裂が走り、砕けたそこからは暗闇が広がっていく。世界が今、壊れようとしていた。
「第0迷宮のバランスが崩れたのでしょう。この場所が普通の人間に観測されることなど、あり得ないから……」
「迷宮ってなに……!? 観測って!?」
「説明している暇はありません。ナマエを一刻も早くここから逃さなくては。元の世界へ戻れなくなってしまいます」
神でもなく、ルフでもなく。ただの人間が干渉できる空間ではないのだ。それは、各々が使命を任されているジンもまた同様であった。
場所や空間という言葉も、本来であれば相応しい表現とは言い難い。どこにでも存在し、どこにも存在しないのだから。空気のように目には見えない、概念の塊。それほど曖昧なこの迷宮は、時空を超越した世界の狭間とでも呼ぶべきか。
「待って、逃げるならクラリスも……!」
そう言って振り返る自分と瓜二つの少女、名前にクラリスと呼ばれた彼女はそっと首を振った。口元には淡く柔らかな笑み。何かを悟ったようで諦めたようなそれは、クラリスの幼い容姿よりもずっと大人びていて、名前の胸はぎゅっと苦しくなった。
「いいえ、私はここから出られないのです。随分と前からそれが決まり……。大丈夫、死ぬことはないでしょう。私にそのような概念はありません」
「死って……そんなはず、」
「さあ、早く。あの光へ向かってください。ルフたちに導くよう頼みましょう」
「るふ? あ、この声……!」
ピィピィと前よりも鮮明に聞き取れる音と、初めて見る黄金色の蝶のような何か。群れを成すそれらが羽ばたく度にキラキラと光の粒が舞い、名前を歓迎せんと包み込む。心なしか迷宮の崩壊が遅くなっていた。目の前でひらひらと軽やかに飛ぶ彼らが果たして何者なのか。名前には全くわからなかったし、その正体が蝶か鳥かでさえ判然としなかったのに、どうしてか彼らの感情だけは汲み取れていた。
「あなた達もクラリスが心配なの……?」
「! ナマエ……ルフが見えるのですか? それに言葉も、」
「たぶん……? あ、待って、まさかおばけ的な存在??」
嘘でしょう、私に霊感なんてないよ。そう言って、ぞっと顔を青くさせる名前にクラリスはぱちりと目を瞬く。それから、ゆっくりと首を振り「害のある存在ではありません」と穏やかに囁いた。
「……しかし、驚きました。不思議なこともあるのですね。思えばルフたちがそのように好意的なのも珍しいものです。まるで、マギ様を相手にしているような……」
されるがままに肩や頭にルフを乗せ、困惑気味の表情を浮かべる名前をしばし見つめたクラリスは、徐にそっと片手を持ち上げた。瞬間、心得たとばかりに名前を囲っていたルフたちが彼女へと向かい、その中の一羽が差し出された白い指先へと降り立つ。
もたらされる幾重もの金色の光。温かなそれを浴びる銀髪と、静かに伏せられた淡い水色の瞳。不可解な生物と少女の組み合わせは確かに異様なはずなのに、同時に今まで見た何よりも神秘的で美しい光景に思えた。もしかしたら、女神というのは彼女のような存在を云うのかも、とそう感じさせるほどに。
ーーふと、クラリスの双眸が驚きに見開かれる。
「私と“同じ”? なるほど……だからあなた方の干渉を受け、またこの迷宮に干渉できたのですね」
「?」
「お気持ちはとても嬉しいです。しかし、他の世界の住人を巻き込むわけには……」
刹那、がくりとクラリスの体が傾いだ。ルフたちが驚きによって一斉に飛び立つ中、咄嗟に彼女の名を叫んだ名前は考えるより先に、ガラガラと崩れゆく足場から放り出される華奢な手を掴んでいた。ぐっと容赦なく両腕にかかる負担。夢のような空間のくせに、やけにリアルだと名前は悲しくなった。もうこれがただの夢だとは思っていない。それでも、明晰夢のように思い通りに体が動けばいいのに、と願わずにはいられなかった。
「手を離してください! ナマエまで落ちてしまいます……っ!」
「だめ! 落ちたら大変だよっ! 底も見えないし……!」
白い空間にぽかりと空いた大きな奈落。その先は真っ暗で虚無だった。まるで、クラリスを渡すまいとしているみたいで、なんとなく落ちてしまったら怪我以前にまずいことになる気がした。
「私はいいのです! それより、これ以上ここに居てはいけません……あなたの存在があやふやになってきています!」
「よくわからないけど……っ、二人で出ようよ!!」
「!」
「私、諦めないから……!!」
ぎゅうと目を瞑り、絞り出すように声を張る。唐突に訪れた急展開に混乱しながらも、決して力は緩めようとしない名前にクラリスは信じられない思いで目を見張った。彼女にとっては出会ったばかりの、ただ自分と似ているだけの他人のはずなのに。それを名前という少女は助ける選択肢しか持っていないらしい。久方ぶりに触れた誰かの優しい温もりに、クラリスは無性に泣きたくなって唇を引き結んだ。瞳を伏せ、不思議な引力に誘われるかの如く、もう片方の手を名前の手へと重ねる。
そうして、クラリスは心の中で“祈り”、“願った”。
(どうか。どうか、この子だけでも。ここから連れ出してあげてーー)
彼女は知っていたのだ。何もかもを自覚していた。
依代のない、意識だけの自分は永遠にここから逃れられないのだと。陰鬱や孤独に辟易していながら、同じくらい大きな諦念も抱いていた。だからこそ、迷うことなく名前の安全だけを“願った”。しかし。
しかし、その“願い”は奇しくも、名前のものと一致していた。互いが互いだけを想い合っていたのだ。共鳴し、呼応する“願い”を聞き入れたルフたちが、巨大な渦となって二人を包み込む。あまりの眩しさに名前は状況を把握することもままならなかった。故に、ルフと同化するように淡く輝いたクラリスが光の粒となって四散したことも、自分の片手の甲にはっきりと八芒星が刻まれた瞬間も見ていない。
すうっと溶け込んでいく八芒星の後には、何の変哲もない肌の色があった。見間違いかと思うほどに一瞬の出来事で。それは奇跡と評してもおかしくなかったかもしれない。いや、この世界ではこうも置き換えられる。
ーー大いなるルフの導きだったのだ、と。
冒頭2(magi)