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※一応トリップもの。
※夢主以外のオリキャラがいます。
※捏造、改変、独自設定などあり。
※名前変換は「名前」の部分で変更可。
マギ熱が最高潮だった頃、アリババくんの夢が読みたくて自給自足しようと衝動に任せて書き連ねた自己満足です。が、いつもの如く冒頭で止まったので倉庫行き。専門用語やアルマトラン辺りの時系列などの把握が、私の頭では理解し切れなさそうで踏み留まりました。最終章もなかなかに難しい。それとは関係ありませんが、ハニババくんはめちゃくちゃ可愛くてツボです。
以下、アリババくん夢の長編予定だったもの。彼どころか他の原作キャラとも絡んでいません。原作にも突入できてない。唐突に始まって、唐突に終わる。
第0夜 始まりは夢の中
ふと、気がつくと真っ白な世界に漂っていた。そこは見渡す限りの白、白、白……。ただ眩しいほどの白い空間がどこまでも広がっていて。いや、空間と呼ぶのも相応しくないのかもしれない。物も壁も、何も見当たらないから、終わりがあるのかさえわからなかったのだ。
まるで、雲の中にでも迷い込んでしまったみたい、と思う。何もかもがあやふやで、曖昧で。自分が立っているのか、はたまた浮いているのか。何故だかそれすらも確信がなくて、そっと足元に視線をやる。けれども、そこにあるべき影はなかった。だからと言って、地を踏み締めている感覚もない。余計に深まった謎に、緩慢な動作で首を傾げた。そもそも、どうしてこんな場所にいるのだろうか。
『……私には何も、できませんでしたから』
不意に、呟くような少女の声が聞こえた。はっとして顔を上げると同時、真っ白だった空間がぐにゃりと歪み、くすんだ灰色に変わっていく。おかしい。先程までは周りに人影なんて少しもなかったのに。自分しかいないと思い込んでいた世界に差し込まれた、誰かの声と不可思議な変化。とても現実では考えられない現象なのに、割り切って夢と感じ取ることもできなくて。
自分が発した言葉ではないとわかっている。けれども、どうしてかこんなにも胸が苦しい。なんだか奇妙な心地だった。悲しみや切なさをたくさん抱えたような、とても大きな後悔。ちっとも身に覚えはないのに、どこか知っているようにも思えて。ひどく震えているその声音に、感情に、この空間も自分も呼応しているのかもしれない。なんて、普通ではあり得ない感覚。
動揺を抑え、痛みで軋む胸元をぎゅっと掴む。辺りには誰もいないから、啜り泣く声を頼りに奥へと進んだ。不思議と恐怖はなかった。それよりも早く、そんなことないよと言ってあげたくて。あなたのせいじゃない、と伝えなければいけない気がして。事情は全くわからないけれど、それでも何かに突き動かされて、言葉を押し出そうとした瞬間のこと。
はくり、と意味もなく唇が震えた。ぎょっとして喉元に手を当てる。音を全く発してくれなかったのだ。
『どこにでも存在し、どこにも存在しない。そんな場所で永遠に独り……きっと、これが私への罰なのですね』
こちらに気がつかないままに重ねられる悲痛な独白。だんだんと暗く淀んでいく空間に焦り、大きく息を吸って声を出そうと何度も挑戦するが、どんなに頑張っても言葉にはならなかった。自分の無力さを痛感してぐっと拳を作る。その間にも胸の痛みは、留まることを知らずに増していく。ほんの少し同調してしまったとか、そういうレベルではなくて。
『“第0迷宮”……なんて、皮肉なものです』
希望という希望を、全て見出せなくなってしまったみたいな。暗く錆びついた絶望が、おいでおいでと私の心までもを塗りつぶしていく。これではまるで、本人の持つ負の感情をそのまま受け取ってしまっているようではないか。
『何ものも干渉できないというのに、一体誰のための“迷宮”なのでしょう』
暗闇の奥で、自分と同い年ほどの女の子が肩を震わせている。頼りなく蹲り、今にも消えてしまいそうな儚さを纏う彼女の表情は窺えなかった。それでも、顔を覆う両手の隙間から、頬を伝う雫が一瞬で過ぎ去ったのが見えたのだ。もしかしたら、悲壮な雰囲気がそう思わせた幻視だったのかもしれないけれど、やっぱり放っておくことなどできなくて。
泣かないで、と必死に祈りを込めた掌は、ただ空虚を掴むのみ。もう少しなのに、彼女との距離が上手く縮まらない。
『そもそも私は“ジン”では……ああ、いけませんね。“ルフ”たちがいないと独り言になってしまいます』
先程から何の話をしているのだろうか。聞き馴染みのない単語がいくつも右から左へと流れていく。でも、今はそれどころではない。台詞の意味なんて理解できなくても構わないから、とにかく彼女を励ましてあげたい。相変わらず声は出せなかったけれど、それでも諦めきれずに重い足を進めた。目一杯に腕を伸ばす。息苦しい胸を反対の手で押さえながら、再び息を吸い込んだ。
「だいじょうぶ! 私がいるから、もう泣かないで……っ!」
『!?』
吐き出した空気は今度こそ音を纏っていた。自分で叫んでおきながら喋ることができた事実に驚いていると、目の前の彼女の肩もびくりと大げさなくらいに跳ね上がる。どうしよう。声が届いたのは嬉しいけれど、震えて掠れた言葉は格好なんてついたものじゃない。急に恥ずかしくなって、視線を逸らそうとした間際。ばっと弾かれたように、彼女がこちらを向く。意識が逸れたおかげなのか、空間は最初に見た時と同じ白い世界に戻っていた。
やっと気づいてもらえた、そんな風に安堵したのは一瞬のことで。直後、目が合った私とその子の顔は、全く同じ驚愕の色に染まる。
「『……私?』」
そう、文字通り“全く同じ”顔がそこにあった。
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「ーーっ、はあ……」
突如、意識が覚醒して勢いよく飛び起きた。悪夢でも見たかのように、ひどく速まっている鼓動。落ち着こうと無意識に深呼吸を繰り返しながら、胸元の服をきゅっと掴んだ。なんだか気分がすこぶる悪い。心の中に黒い塊でも抱えてしまっているみたいだ。一体なんだと言うのだろう。絡みつく気持ち悪さをどうにかしたくて、ぼんやりとした思考のままに傍のカーテンを引いた。
途端に差し込まれる暖かな陽光に目を細める。数羽の鳥たちが電線から飛び立っていき、そして……。そして、その手前で窓に薄らと反射する自分の姿。瞬間、猛烈な既視感によって定まらなかった焦点が正常になり、あっという間に現実に引き戻された。
そうだ、さっきの女の子。自分とそっくりで、けれども髪や目の色が違うあの子はどこへ行ったのだろう。はっとして辺りを見回すが、そこに広がっていたのは真っ白の空間ではなくて、見慣れた自分の部屋だった。飛び起きた場所も何の変哲もないベッドの上。変わったところは何一つない。そこでようやく思い至った。先程の出来事はただの夢だったのか、と。
「……ゆめ?」
なんだ、そうだったのか。いや、でも本当にそうだろうか。だって、ただの夢と言うにはあまりにも奇妙すぎる。夢の中で自分とそっくりな人物に出会うなんて、一体どんな深層心理だったのか。今までに見たことのないタイプの夢のせいで、どうにも心に引っかかっている。閉鎖的とも開放的とも言えないような、不思議な世界。泣いている少女。悲痛な声。思い出すだけで今もなお、何故だか涙が滲んでくる。まだ夢と現実の境が曖昧なのだろうか。
ぐに、と徐に自分の片頬を摘む。当たり前のように鈍い痛みを訴えるそこに、やっぱり現実かと損をした気分になった。
「名前、起きてる?」
「うん、今行く!」
下の階から呼びかける母の声に今度こそ気持ちを切り替え、ベッドを抜け出す。身支度を軽く整えてから、部屋を出ようとドアノブに手をかけた時のこと。ふと、ピィと鳥が鳴くような声が随分近くで聞こえた気がして振り返った。けれども、そこには何もない。
「あれ……?」
幻聴だろうか。それとも、窓の外の鳥と勘違いしたのか。おそらく後者であろうと予想を立てながら、再度急かすように私を呼ぶ母に慌てて部屋を後にした。
第1夜 導かれるは「 」
「ーーでね、そこでその子が魔法を使って……って、聞いてる名前?」
「え? あ、ごめん……ぼうっとしてた」
「いや、いいけど。なんか朝からそんな感じじゃない? 体調悪いなら保健室行く?」
「ありがとう。でも、大丈夫」
もうすぐ放課後だから。そう付け足した言葉に、友人は仕方なくも納得したような表情で頷いた。「無理はしないでね」と念を押してくれた彼女は、渋々といった様子で自席へと帰っていく。その背を見送りながら、誰にも気づかれないようにそっと息を吐き出した。
友人の言う通り、今日はなんとなく気分が優れなかった。それも朝からずっと。何が原因なのかさっぱりわからない、とまでは言わないけれど、一番あり得ると思った今朝の夢は不調の理由とするには少し弱い気がした。というよりも、誰かに打ち明けたところで理解も解決も得られるとは思えなかったのだ。夢の現実感なんて、きっと当事者にしかわからないのだから。最悪、夢の内容に怯える小さな子供だと笑われてしまいそうで。
果たして、夢がそこまで人体に影響を及ぼすのかは不明だが、周りに心配させてしまうのは申し訳ないので、残りの授業をなんとか乗り切ろうと意識を集中させる。胸の辺りでもやもやと燻る何かを見ないふりで誤魔化しながら、どうか明日には治りますようにと心の中で祈った。
結局、かき集めたなけなしの集中力も、教室内に入ってきた教師による「自習」の一言で見事に霧散してしまったのだけれど。
♦︎
「本当に平気なの?」
「大丈夫だよ。熱があるわけじゃないから」
「だとしてもさ……ああもう! 一緒に帰れたらよかったのに」
「全然平気だって! むしろ心配かけてごめんね」
へなりと眉を下げて謝ると、友人はぶんぶんと勢いよく首を振って否定してくれた。あたたかな気遣いにほんの僅か体が軽くなった気がする。けれども、放課後は用事があると言っていた彼女をこれ以上自分の都合で引き止めるわけにもいかず、いまいち踏み切れない様子の背中を押して少々強引に帰宅を促した。
「ほら、早く帰らないと用事に遅れちゃうよ?」
「わかってるけどさぁ〜……ねえ、やっぱり本を返すのなんて来週でよくない?」
「返却期限が今日までなんだよね」
「昨日の内に返しとけよぉ〜〜……!」
ずりずりと押されるがままに昇降口まで来てしまった彼女の口から恨めしげな響きが漏れていく。校舎の外が見えたことで諦めたのか、はたまた時間が差し迫っていたのか。がっくりと肩を落とした友人は、大人しく靴を取り出すや否や「終わったらまっすぐ家に帰るんだよ」なんて親みたいなことを言うものだから、おかしくて思わず笑ってしまった。
「じゃあ、また来週」
「うん、またね」
手を振り合い友人と別れた後、目的の図書室がある三階へ向かう。その途中の廊下でなんとなく窓の外を見やると、先程まで晴れ渡っていた空に灰色の雲が厚く重ねられていて。しまった、と思ったのは今日は傘を持っていないからだった。覗き込むように窓へ近づいて、そのくすんだ色を仰ぎ見る。雨が降ってくるまでは少し時間がありそうだ。用事を早く終えれば、本降りになる前には帰れるかもしれない。
そうして、急がなきゃと体を反転させた時だった。
ーーピィ……。
「え?」
ふと、聞こえた鳥のような鳴き声。それは間違いなく今朝のものと同じで。
この後、図書室にてトリップする予定でしたが、ここで力尽きました。
冒頭(magi)