危険物






胡座をかき少し猫背になりながら何かを真剣に解体バラしてる松田を見つけ、その背中に自分の背中を預けるようにすとん、と腰を下ろした。

「重い」

不機嫌そうに文句を言われたが、退けとは言われないので無視する。
集中しているらしい松田は時折何かを呟きながら相変わらず機械弄りに夢中だ。

携帯、ラジオ、ゲーム機、バイク、車…

ふと、これまで解体してきた大小様々なブツを思い浮かべる。
萩原いわく、バラせるものは何だってバラしたい性分、らしい。萩原のお姉さんの携帯をバラして死ぬほど怒られたって聞いた時は、お姉さんには申し訳ないけどめちゃくちゃ笑った。
危ない奴、松田への印象は初めましてから今まで一貫して変わらない。

カチャカチャと機械を弄る音と背中越しに伝わる体温と振動に瞼が重くなり、かくっと首が落ちる感覚にはっとする。
相変わらず集中してる松田は気付いていないらしく何も言われない。

「有紗」
「んー…?」

薄く靄の掛かったような頭でうとうと船を漕いでいると、ふと背中越しに名前を呼ばれて腑抜けた返事を返した。

「起きろ」
「…はい」

預けていた体重を戻して霞を振り払うように欠伸をひとつ。ついでに身体をぐっと伸ばすと幾分頭も視界もクリアになる。
背中にいたはずの松田に腕を引かれて腕の先を見上げると、想像よりもずっと近い位置に顔があって一瞬息が詰まった。一見不機嫌そうな瞳も、不機嫌じゃないと分かるようになった位には仲良くなったんだなぁと少し嬉しくなった。
こっち、と腕を引かれるままに松田の隣に座るとその手にはつい先週、それこそこの松田とこいつの幼馴染である萩原に水をぶっかけられて水没した携帯が握られている。

「電源つけてみろよ」

そう言って携帯を握らされてまさか、と松田を見つめるとちょっとだけ気まずそうに視線を逸らされた。
すこしドキドキしながら電源ボタンを長押しすること数秒。先週は沈黙していた真っ黒い画面がピカッと光った。

「つ、ついた!」

眩しい程に光ってる携帯を翳して喜びに浸る。何たってこの携帯には思い出が詰まりに詰まってるんだ。
床に散らばる工具をせっせと片付けている松田に見えないようにこっそりメール画面を開く。
どんどんスクロールして削除ロックしてある1通のメールに辿り着く。
よかった、消えてない。
その事実だけで胸がいっぱいになる。
視界の端でまだ工具を片付けている松田を確認して、そっとメールを開いた。


『俺も好き』


胸のいっぱいが溢れ出してぎゅっと苦しくなる。
苦しいのに幸せで、そんな幸せが伝わればいいなと思って自分より大きなその背中に抱きついた。



危険物なきみが好き








洒涙雨