01
「おい、ナマエ。…寝てるのか?」
「《ごめん、寝てた》」
「…幽霊でも眠るのか」
「《そうみたい》」
じめじめと湿気が蔓延る地下牢で、ナマエはそっと目を覚ました。
眠っていたせいだろうか。頭がまだぼんやりとしている。
さっき見た夢はなんだったんだろうか。なんだかとても懐かしい感じがした。
起きた今でも未だに夢を見ているような感覚だ。
ぼーっとしながら宙に天の川のようなキラキラした粒子で返事を描くナマエに、この湿気たっぷりの地下牢の主であるセブルス・スネイプは呆れたようにため息をついた。
「ぼーっとしているならマグゴナガルの手伝いをしてきたまえ」
「《あぁ、もうそんな時間だっけ》」
「ピーブズの邪魔なら幽霊の貴様でもできるだろう」
「《セブルスは?》」
「これができたら行く」
「《はーい》」
どうやらスネイプが一生懸命混ぜている薬入りの鍋はまだ完成には至らないようだ。
ぐつぐつ。ぼこぼこ。
そんな不気味な音を立て、とても飲みたくはないような色をした液体を煮込んでいる鍋をちらりと見て、続いて地下牢唯一の時計を見るとたしかに新入生がやってくる時間がもう間も無くと迫っている。
じゃあ先に行くね、と字を浮かび上がらせるとこれまたキラキラした粒子を空中に残してナマエは空へと溶けていった。
今頃は新入生のいる大広間へと姿を現しているのだろう。
きらきら輝く粒子が床へ落ちていく様を見ながら、何回見てもやはりナマエは幽霊らしくないとスネイプは自身がかきまわす鍋へと視線を戻した。
「《マグゴナガル先生》」
「あらナマエ。ちょうどいい所に来たわ。新入生が逸れないように見守っててくれないかしら」
「《了解》」
地下牢からあっという間のスピードで廊下に姿を表すと、そのタイミングを見計らったかのようにマグゴナガルがバタバタと慌ただしくやってきた。
猫の手ならぬ幽霊の手も借りたいほど人手が足りていないようだ。
新入生を見守るという任務を得ると、ナマエはあまり目立たないように遠くの天井から新入生を見ている事にした。
実は毎年やってくる新入生を誰よりも楽しみに待っているのはナマエだったりする。
今年の新入生は皆小さいなぁと毎年変わり映えのしない感想を抱きながら、移動中の一年生をふくふく笑って眺めていると、頭に傷のある男の子がこちらに気づいたのだろう。
一瞬目があった。
だが緊張からか、すぐにサッと視線をずらされてしまったが。
それすらも微笑ましいとニコニコ見守っているとマクゴナガルを先頭にした一年生達は大広間に足を踏み入れた。
初めて見る空飛ぶロウソクに皆がぽかんと口を開けていた。
そうして天井の魔法に見惚れていると、マクゴナガルが一年生の名前を読み上げ始めた。
組み分けがはじまったらしい。
一人、また一人と帽子をかぶり各寮へと受け入れられていく。
『ナマエ、君と同じ寮になれて嬉しいよ』
「《?》」
組み分けを見ていると、ふとどこかでそんな声が聞こえた。
キョロキョロと周りを見渡して見るが空にいる幽霊は自分だけで学生たちにも聞こえていないようだ。
幻聴か何かだろうか。
少し不安になって、ナマエはしかめっ面のスネイプの隣に瞬間移動のように現れた。
そして寄り添うように隣で思うようにふよふよと浮いている。
そこには席があるわけではないが、スネイプも特に何かを言うわけでもないのでナマエはいつもそこを陣取っていた。
やっぱりセブルスの隣は安心する、と宙に腰掛けて組み分けが終わってホッとした様子の一年生を見つめていると、ふいにダンブルドアが立ち上がった。
「おめでとう!ホグワーツの新入生、おめでとう!歓迎会を始める前に二言三言言わせていただきたい。…ではいきますぞ。そーれ!わっしょいこらしょいどっこいしょい!以上!」
相変わらず不思議な挨拶だ。
ナマエは音の鳴らない拍手をしながら内心苦笑いをした。
そしてダンブルドアの合図で机にこれでもかという大量のご馳走が現れると、誰もが皆そのご馳走にかぶりついた。
そんな様子を見てナマエはニコリと笑うと、天井に向けて半透明の杖を掲げた。
そしてその杖先からは、ナマエの得意技であるキラキラした粒子が噴水のようにあふれていく。
その粒子は空高くまで飛んで上がると、今度は雪のようにゆっくりと空を舞いながら大広間へと降り注いだ。
「うわぁすごいや。これも魔法?」
「これはあいつにしか使えないけどね」
「あいつ?」
「スネイプの隣にきらきらした可愛いのがいるだろ?あれがナマエだ」
「幽霊で喋れないけど、魔法が使えるんだ」
「オマケに俺達と同じ制服」
「ナマエは昔ホグワーツの生徒だったらしいよ」
双子がナマエを指差すと、向こうも気づいたらしい。ひらひらと手を振っている。
「僕さっき目があったよ」
「!そりゃ羨ましい」
「ナマエは気さくな奴だから話しかけたら応えてくれると思うよ」
「へぇ」
ハリーは隣にいる黒い蝙蝠のような人も気になったが、それよりも半透明の幽霊を興味深そうに見つめていた。