10
まるで長い眠りから目が覚めたかのようなだるさだった。
果たして幽霊になってからこんなに目覚めの悪い朝があっただろうか。
かちこちに固まった身体をぐっと伸ばしてみれば、まだ自分は幽霊らしい。
身体の向こう側が透けて見える。
はてさて、ここはどこだろうか?というかなんで自分はここにいるんだ?
ナマエがふと目を覚ましたのは図書室の傍の廊下だった。
朝日が差し込んで、遠くの方で鳥の鳴き声が聞こえる。
人気もない事から、今が爽やかな朝だという事が分かる。
学生はきっとまだ夢の中だろう。
そういえば、自分はたしかクィレルに魔法をかけられたんじゃなかっただろうか。
透ける自分の身体を改めてみてみるが、幽霊としての自分の身体にはなんの影響もないようだ。と、なるとまずは行く所は決まっている。
*
スネイプの私室まで姿を飛ばすと、広いベッドに一人スネイプが眠っていた。
顔をのぞきこんでみると、随分顔色が悪く、目の下の隈もひどい。肌もあれているし、髪もボサボサ。まさに死にかけのような姿で、少しだけ本当に起きるのか心配になった。
次に部屋を見渡すと、こちらもかなり散らかっている。
本の山は崩れ、足の踏み場があまりない。
だが鍋の周りだけは相変わらず綺麗だ。
これは起きる前に掃除をしなければならないだろう。
杖を一振りすると部屋のあちこちで勝手に紙類はまとまり、本は本棚へと戻っていく。すぐ床が見えるようになるだろう。
続いて心地いい目覚めのためにとティーセットに魔法をかける。
「…うるさい……なんだ…?」
「《ごめんね。起こしちゃった?》」
バサバサと空を飛ぶ本と紙に、カチャカチャと食器が当たる音はスネイプが目を覚ますのには十分だったらしい。
一時的に魔法を解くと、室内は一気に無音と化した。
「……静香?」
「《おはよう》」
唸りながら目を開けたスネイプはかなり不機嫌そうな顔だ。
だが、目の前をふわりと飛ぶ半透明の姿と、粒子で描かれた言葉に目を見開いた。
上半身を起こし、ナマエを凝視した。
「こ…の馬鹿幽霊がっ!!どこに消えていたんだ!!」
「《あっ…大丈夫?》」
一発殴らないと気が済まないと空を浮く静香の脳天めがけて放った拳骨は、半透明の身体を通過して見事にからぶった。
が、通り過ぎたナマエの身体は幽霊特有のぞわっとする冷たさはなく、ふわりと暖かい。
それが、この半透明が幻ではないと実感させてくれたような気がして、ス湧き上がった怒りが小さくなっり、代わりになんとも言えないむず痒い気持ちがスネイプの胸を支配した。
「《なんか心配させたみたいでごめん。姿消しの呪文かけられちゃって…そうだ、クィレル!!》」
「やはりあいつに消されていたのか。…クィレルなら昨日に死亡した」
「《え??》」
「お前が呪文で消されてる間に賢者の石がクィレルに盗まれそうになった所をポッターが止めたのだ」
「《えぇぇぇ》」
日付を聞けば、あの図書室で消されてしまった日から数日は立っていた。
だからちょっと見てない間にセブルスの顔色がこんなに悪くなっていたのかとナマエは妙に納得してしまった。
部屋の片づけはいつも丸投げしていたから、きっと今回も放置していたのだろう。
部屋をよくよく見れば試験の解答もあるし、本当に自分は数日間消されてしまっていたようだ。
一人だけ時間を飛び越えてしまったようで、なんだか実感が沸かない。
再度魔法で一人分の紅茶を淹れると、寝起きのスネイプの手元にそっと置いた。
「フッやはり紅茶はお前が淹れたものがいい」
「《ふふ、光栄です》」
「一日は長い。これからじっくり話してやろう」
「《うん。よろしく)」
そしてナマエはスネイプの足元に寝転ぶと、朝日が差し込む部屋でここ数日あった事を順番に紐解いていった。