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図書室は鍵が閉まっていたが、幽霊のナマエには関係がない。
扉を通り抜けて明かりもない図書室に入ると、その不気味さがまた恐怖を煽る。
さっさと目的のホグワーツに関する本を探して帰ろう。
そう意気込んで、埃をかぶっている本棚を一つ一つ確認していく。
そして一番奥にひっそりとたたずむ本棚の前でぴたりと足を止めた。
誰も寄り付かないのだろう。一番埃が積もっている。
そこはホグワーツの歴史に関する本が集まる本棚だ。
ホグワーツの歴史から始まり、生息する植物や動物まで様々な本が出版されている。
ただの城だというのに本棚が埋まるくらい本が発行されているのだから、本当にこの城は不思議でいっぱいなのだろう。
だが、今はあるキーワードについて調べるのが先決だった。
たしか秘密の部屋、だっただろうか。
まずはそのキーワードについて調べようと魔法で「ホグワーツの事件全集」を引き抜くとぺらぺらと杖で捲った。
もしかしたら同じような事件が過去に起きていたかもしれない。
秘密の部屋というキーワードだけに注視してページを捲って探していると、ふとあるページで杖が止まった。
「ナマエ・ミョウジ」
まさか自分の名前が本に出てくるなど誰が想像しただろうか。
思わずページを捲る杖をぴたりと止めた。
名前があるページはホグワーツ内でおきた事件の被害者の一覧にあった。
該当ページを捲ると、失踪事件に巻き込まれたようだ。
ドキドキと脈打つ鼓動の音がやけにうるさく聞こえる。
逸る気持ちを抑えて、文字を追った。
【ホグワーツ失踪事件】
失踪者:ナマエ・ミョウジ
スリザリン寮 五年生
××年10月31日を境に姿を消す。
マートル・エリザベス・ウォーレンの事件に続き起きたこの事件は、ホグワーツ城の中ではあまり認識されていない。
最後に姿を見たというミョウジの友人、トム・M・リドルは、姿を消す理由に全く心当たりがないと言った。
彼はどこに消えたのか、今でも知る人はいない。
トム・M・リドル。
夢で見たトムとは、この友人のトム・リドルで間違いない。
僕の最後の姿を見た人。
たしか黒髪で赤い目だった。
そういえば…あの薔薇も赤かった。
そしてマートル・エリザベス・ウォーレンはきっと嘆きのマートルの事だ。
何か関係があるのだろうか。
秘密の部屋の事をすっかり忘れ本にのめり込んでいると、図書室の外で何か引きずるような音がした。
ずるり、ずるりと重たい物を引きずるその音は地を這うように響く。
一気に本から意識が戻る。
このざわざわとした嫌な感じは、まさか。
本を地面に落とした事には気もくれず、息を殺して廊下へと飛び出した。
「おや、まだ生徒が外にいたのか」
「《…誰?》」
「いや、ふふふ。なんて幸運なんだろう僕は」
廊下には男子生徒が一人たっていた。
薄暗くてよく見えないが、その印象的な赤い瞳と整った顔立ちは、どこか見覚えがある。
彼は何がおかしいのか、笑っていた。
暗い廊下と不気味な存在と相まって、より一層不気味さが増すこの男子生徒は普通の生徒じゃなさそうだ。
「《生徒なら送ってくけど…、違うみたいだね》」
「ナマエ、僕の事覚えていないのかい?」
「《…?》」
「全然?」
「《!?》」
こちらの警戒などおかまいなしと言わんばかりに、男子生徒は長い脚でナマエとの距離を縮めると、ナマエの背中に手が回る。
だがナマエの身体がその手を透かす事に気が付き、一瞬驚いたような顔をしたがそれでもニコリと笑った。
そしてまるで恋人がキスするかのように、顔と顔の距離もぐっと近づいた。
透ける身体とはいえ、顔がこんなに近い事にナマエは驚き、そして恥ずかしかった。
彼は目の前で見れば見るほど芸術品のようだ。
そんなものが突然目の前に来れば、恥ずかしくもなる。
いや、恥ずかしい以外の何物でもない。
ナマエはすっと身を引いて逃げようと考えたが、一瞬脳裏にある人物が浮かんだ。
そういえば、生前でもこんな距離感の奴がいた気がする。
…そうだ、さっきも見た
「《…トム?》」
「!ナマエ、やっぱりナマエは僕の事を覚えててくれたんだね」
「《どうしてトムがここに…》」
確実に自分と同じ幽霊ではない。
身体は透けていない。
けれど、見た目はあの夢で見た時と同じ若さ。
それにこの悍ましい雰囲気。
何かがおかしい。
一体何が。
考えるために伏せていた視線を持ち上げると、リドル越しにナマエは黄色い何かと目があった。
「ごめんね。ナマエ、また少しだけお別れだ」
その黄色い何かは、見た事もないほど大きな瞳だった。
もしかして、あれは。
それに気づいた瞬間、ナマエの手が呪文を放とうとするよりも早く、手は思うように動かなかくなっていた。
そして足も次第に固まっていく。
まるで石になったかのようだ。
「大丈夫。今度はすぐ会えるよ」
リドルは堅くなっていくナマエの額にキスを落とすと、やがて完全に石になったナマエを傷つけないようにそっと地面に横たえた。