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「…?」
バシャバシャと水が跳ねる音。
重たい物を引きずる音。
時折固いものを破壊する轟音。
それらが絶え間なく聞こえる。

ふと意識が浮上すると、音は聞こえるのに視界は暗いままだ。



一体何が、僕はどうしたんだろう。



やけに重たい瞼を持ち上げると、薄暗く、高い天井が見えた。
じめじめとした湿気が鬱陶しい。

周囲は何かに囲まれているようだ。
天井だけが四角く切り取られていて、周りを伺い見る事ができない。

何が起きているのか、確認しようと起き上がってみようと試みても、床がやたらとふわふわしていて力が逃げる上に身体全体に力が入らない。



なんだか随分身体が重い

「うぅ…」

おまけに声も満足に出なかった。
出たのは随分ひどいうめき声のようなもので、誰かを呼ぶ事もできなさそうだ。
どうしたものかと思ったが、どうやらすぐ傍に人がいたらしい。

四角い景色の中を覗き込むように赤い瞳が二つ見えた。

「ナマエ!目が覚めたのかい?」
「…ト…ム…?」

間違いない。
昔の記憶に残っている、同級生で妙に世話焼きなで、いつも一緒にいてくれたトムだ。じゃあこれは夢か。それとも幻か。










全く姿の変わらないリドルにあまり頭が回らないナマエはそれが本物か偽物かすら判別がつかなかった。
起きたばかりでゆっくりと瞬きをする瞳が赤い瞳を捉えると、その赤い瞳は綺麗な三日月形になった。

それは学生の頃からリドルがいつもナマエと距離を取る時にしていた表情と同じものだった。

「トム…」

またどこかへ行くのか。

そう言いたくても口は動かない。
リドルは何かを言いたかったナマエの気持ちを読んだように、横たわるナマエの手を取りキスをした。

「ナマエ、少しの間目を瞑っていて」
「え」
「バジリスクが来る」

そう言うや否や、さっきから聞こえている様々な音が徐々に大きくなってきた。

何かを破壊しているのだろうか、凄まじい爆音を連れてきたのは水の上を跳ねるような音だった。
ハリーがバジリスクの攻撃をかいくぐり秘密の部屋へ戻ってきたのだ。


瞼の重さも相まって、ナマエは言われた通り目を瞑っていると、何かが空を切った事が分かった。
ブォンという風切音と共に強風が駆け抜けていく。
その風と同時に、フォークスが掴んだ古びた帽子をハリーが受け取ると、祈るような気持ちでそれをバジリスクに向けた。

【小童を殺せ!鳥にかまうな!臭いだ、嗅ぎだせ!】

鋭い蛇語でリドルが指示をすると、戻ってきたバジリスクは、闇雲に匂いのする方へ身体をしならせた。
まるで見えているかのように正確にハリーを狙っていた。

だが、それは一瞬の事だった。
ハリーは帽子の中から現れた剣を、大きく開いたバジリスクの口の中に剣を突き刺した。
見事なまでに脳天を通り越し、バジリスクは暴れて倒れ込んだ。

それと同時に倒れた衝撃で、太い牙が一本ハリーの肘に突き刺さった。
かなり深くまで突き刺さっているのか、血がだらだらと腕を伝って流れていく。
途端物凄く熱く、気持ちの悪い何かがハリーの身体の中を一気に駆け巡っていった。

「バジリスクの独が身体を貫く速さはたいしたものだろう!もうじき汚れた血の母親の元に行かせてやる」

高笑いでもしそうなほど興奮した声だ。
事実リドルはこれまで以上におかしくて仕方なかった。

「ナマエ、もうすぐ僕と君は永遠になる」

そっと箱の中のナマエにもう一度手を伸ばし、今度は小指同士をゆっくりと絡ませた。

それは子どもの頃に戻ったようで、なつかしさと同時にどうしようもない悲しさを感じさせた。

するりと離れていった小指が、ナマエには最後の別れのように思えて仕方がなかった。

「たかが日記にやられる気分はどうだ?」

ナマエの横たわる棺を背中に、リドルは言った。
恐怖すら感じさせる笑顔で、血を流すハリーを見つめている。

ハリーはぐっと痛みに耐えると、傍に落ちていたあの黒い日記に目をつけた。
真っ白いページが開かれたそれは、この薄暗い部屋の中では異質に見えた。

そして何を思ったのか、ハリーは自分に刺さっていた牙を抜くと日記の真ん中へと大きく突き刺した。

「ああぁっ!!何をする!!!」

まさに青天の霹靂だった。
日記に牙をさした事でリドルの身体にも同じように大きな血がにじんだのだ。

「やめろ!!よせっ!!」

リドルの叫びが部屋中に響き渡った。
だが、その叫びは遅かった。

ハリーが何度も牙を突き刺すと、日記には血が染み込み、リドルの身体は幽霊のようにあちこちから薄くなっていく。

「ナマエ…!!僕は」
「…トム?トム、…」

透明になっていく姿で、リドルが最後に見たのは棺の中で笑うナマエだった。
へたくそな笑い方が、こんな時に昔の姿と重なって見えた。

「…な…んだ…」
僕と同じ、幽霊じゃないか。

その声は出なかったが、パクパクと動いた口を見てリドルはナマエに手を伸ばした。
だが伸ばした手はその肌に触れる事はなく通り抜けていく。



やがて風船がはじけるような破裂音が響き渡ると、リドルの身体は宙へと消えていった。