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「…エネルベート(活きよ)…起きたまえ。ナマエ」
「…もう朝?」
「もう夜だ、馬鹿者め」

ばしんっ

「あいたっ」

パッと痛みに反応して目を開けると、四角い視界の中を覗き込むようにしてセブルスがこちらを見ていた。

その顔は呆れたような、ホッとしたような、なんだか複雑そうな表情だ。
スッと伸ばされた手を取ると、軽々と身体が起き上がり、なんだかデジャヴを感じた。

「あれ、僕…」

周りを見渡してみると、どうやら僕は棺のような箱に入っているらしい。

道理で視界が遮られていたわけだ。

箱をまたいで外へ出ると下は水浸しだった。
履いていたスラックスが一気に水をすって足元がひやりと冷たい。
なんだか水に浸るというのは、随分久しぶりな気がする。なんでだろうか。

「身体に異変はないか。」
「身体?うん、幽霊だしそりゃなんともないけど」
「…お前、今の自分の姿が分からないのか?」
「身体?」

どこも痛くないし、身体は動く。

グーパーと手を動かしてみせると、またセブルスはため息をついた。
そしてまた手で軽くだがぱしっと頭を叩かれた。

結構痛い。

「あれ、痛い?」
「手も透けていないだろう」
「あ、…本当だ!!」
「全く寝ぼけているにしても気づくのが遅いだろう」
「触れる!うわー!本当だ?どうして?」
「人の話を聞きたまえ」

そうだ、痛いのも水に浸るのも身体があるっていう証拠だ。

セブルスに言われた通り手を空にかざしてみても、その手は向こう側の景色を映すことはない。
顔に触ってみると湿気でしっとりしたほんのり暖かい肌に触れた。
そういえば声も出ている。
自分の声を聴いたのも一体いつぶりだろうか。

身体がある。

普通の事かもしれないが、何十年と身体がキラキラと透明に光っていたのだ。
違和感を感じずにはいられない。
けどそれを上回るくらい何かに触れて声を交わせる事はとても嬉しい事だ。

「セブルス!」
「…なんだね」
「セブルス!初めて僕、君の名前を声にして呼べたよ。それにほら、触れられる」

そっと顔に触れると、肌の質感や顔の凹凸が手から伝わってくる。
僕より体温は低いのだろう、少しひんやりとしている。

ずっと長く傍にいたのに、こうして触れられたのは初めてだ。

声だって感動で上擦る。

「あぁ、我輩もお前に触れられる」
「うん」
「お前は、そんな声だったのだな」
「うん」
「身長も、いつも浮いていてわからなかったが…思ったより小さいな」
「感動の場面でそれは言わないでよ…」
「…ナマエ」
「っ」

それはどきっとほぼ同時だったと思う。
黒く大きなローブにぎゅうと抱き着くと、そのローブで包むように大きな腕が僕の背中に触れた。指先から伝わる低めの体温と、かすかに聞こえる心音が、僕の心を熱くさせる。

そして息が止めるほど強く抱きしめると、ようやくお互いがそこにいるのだと認める事ができた。











「って事は僕が幽霊になったのもこうして身体が若いままなのもトムのせいか」
「まぁ…そういう事になるな」
「トムっていつも肝心な事は僕に教えてくれなかったんだよ。だからトムが消えたのはきっとバチだよバチ」
「…」

そんな事を闇の帝王に言えるのはお前だけだとスネイプは心の中でそう思った。

あの後秘密の部屋で身体が戻った事を存分に喜んだナマエはこれでもかというくらいはしゃいだ。
手始めにスネイプのあちこちを触り、自らに触れて欲しいとねだりにねだった。

次に水につかってみたり、石に触れてみたりと何かに触っては大喜びだった。
まるで何も知らない箱入り娘のような様子に、スネイプもまぁいいかと甘くなってしまった。


そんな事をしている間に、かなり時間は立ってしまっていた。


フォークスに連れられてホグワーツ城へ戻った時にはもう朝日が見えかけていた。
生徒や絵画達は寝静まり、ホグワーツは一段と静かだ。

「僕の事を本当に思っていたなら傍に置いてくれればそれで良かったのにね」

ナマエはまるで世間話をするように、リドルの事をそう言った。

その瞳には少し悲しみも混ざっており、さっきまで散々はしゃいでいたとは思えないくらい下を向いていた。
やはり親友とも呼べる存在を目の前でいなくなるのを見たのだから当然だろうとスネイプはある少女の事を思い出して何も言えなかった。

リドルはナマエに異常なまでに執着していたとハリーは言っていたが、きっとナマエも心のどこかではリドルを大切に思っていたのだろう。

「そういえば、僕生前の記憶が戻ったみたいなんだよね」
「そうなのか」
「うん。だからね、こんなベタな事言いたくはないんだけど僕の中でリドルは生きてるからいいんだ」

それに僕自身一回幽霊になっちゃったから、その時にもういろんなものは断ち切ってるよとナマエはふふと笑った。

「それにトムには少し感謝してるんだ。だってトムが僕を幽霊にしてくれなかったらセブルスに会えなかったから」
「…そうだな」
「でしょう?もちろん生身の身体に戻れてうれしいけど、僕結構セブルスの背後霊やるの好きだったんだ」
「…今後も好きにすればいいだろう」
「幽霊じゃないけど?」
「そんな事は我輩にとってはどうでもいい事だ」
「へへ、そっか。そうだよね。じゃあ今度こそ正式に助手にでもなっちゃおうかな」
「…ナマエ、お前は正式にホグワーツ卒業していないだろう」
「あっ!!そうだった。…校長に相談しなきゃだね」
「馬鹿者め」
「ひどいなぁ。その馬鹿者はこれからずっと君の傍についていくんだからね!」
「…」
「せめて何か言ってよ!」