不仲な子ども達


「あぁナマエ今日も麗しいね!」
「《…やぁ、えーっとジェームズ、シリウス、リーマス、ピーター?》」
「正解!俺達の名前覚えてくれたんだな」
「《毎回絡まれでもしたら嫌でも覚えるでしょ》」



吐息が白くなるほどの寒さから季節は移り変わって春になった。

ホグワーツから出られないナマエは、そのぽかぽかとした陽気にそそのかされて腔内で一番日が当たる中庭で今にも眠りそうだった。のは少し前の話である。

その穏やかだった顔が、今は少し影が差している。

たった今、目下でニコニコしている四人組にたたき起こされたのだ。
と言っても実際に叩かれたわけではなく、わっと大きな声を出されてうとうとしていたナマエは大いにびっくりした。

「《それで、何か用事でも?》」
「ない!
「シリウスがナマエと喋りたいって言ってたよ」
「リーマス!余計な事を言うなよっ」
「《ふーん?何を聞きたいの?》」
「べ、別にねぇよ!」

じゃあなんで起こしたんだ…、とナマエは絶賛不機嫌モードだ。

用事がないと分かると、また眠気は襲ってくる。
ふぁと大きなあくびをした。
幽霊だから直接触れるわけではないのだが、何せ春なのだ。
幽霊だって気持ちがよくなる。

眠いし静かな所にでも行こうか、と次の安眠の場所を求めて廊下を見やるとぞろぞろ歩く黒いローブの中に、一際黒い蝙蝠のような姿を捉えた。

「《セブルス。授業終わったの?》」
「ナマエ」

さっきまで眠そうにしていた顔から一転して四人を中庭に起きざり、ナマエはスネイプの元へはしゃぐようにして現れた。

突然姿を見せた半透明の幽霊に、周囲の生徒はビクッと大げさに驚いていたが、スネイプは特に気にした様子もなく宙を見上げた。

「お前は…最悪な奴らと仲良くしてたようだな」
「最悪な奴ら?」
「それって僕らの事かな。スニベリー」

ニヤニヤ、まさにそんな表現が正しい笑みを浮かべてやってきたのは、さっきまでやいやいと騒いでいたジェームズとシリウスだ。

その姿は遠目からでも分かったらしい。

スネイプは顔をこれでもかと顰め、和やかだった廊下は一気に一触即発の雰囲気になってしまった。
そんな中で静香だけが首をかしげている。

「エクスペリアームス!」
「プロテゴ!!」

次の瞬間同時にジェームズとスネイプが杖を取り出し、お互いに杖先を向けた。
ジェームズの杖先から出た閃光は、防御呪文の前にかき消される。

「うわ、何?」
「いつもの奴だよ!危ないぞ」

周囲にいた生徒達は自主避難をしたり、野次を飛ばしたりとざわついた。

「《ちょっとどうしたの?》」
「お前は知らないだろうが、こいつらは最悪の人間だ!!」
「おっと黙りな、スニベリー。ナマエは危ないから離れた方がいいぜ」

その周囲の反応に気をよくしたのか、見ていただけのシリウスも杖を取り、後ろにいたリーマスが呆れたようにため息をついた。

「エクスペリアームスッ!!」
「《プロテゴ》」
「静香!?」
「《インペディメンタ(妨害せよ)》」

シリウスの放った呪文がスネイプに向かって飛び出た瞬間、見ていたナマエがふわりとスネイプの前に降りると、その手には半透明の杖が握られていた。

その杖を一振りすると、当たるはずだった閃光を消し去り、続けざまに飛び出た閃光は火花をあげながら目にも止まらぬ速さで真っ直ぐにシリウスに向かっていった。

その素早さはまるで手だれの魔法使いのようで、ただのぼんやりした幽霊だと思っていたリーマス達は目を丸くした。

「《なんだ、セブルスが言ってたのってジェームズ達の事だったのか》」
「ナマエはスニベリーの味方なの!?」

何か言いたげだが、妨害呪文で動けないシリウスの代わりに、ジェームズがかばうように前に出てそう言った。

「《別に誰の味方とかなかったけど…君達を見てたら勿論セブルスの味方って断言するね》」
「…ふん。行くぞ、ナマエ」
「待てよ!!!エクスペリ「《エクスペリアームス》」

スネイプがローブを翻し、後ろを向くと不意をつこうとしたジェームズの杖はナマエによってはじきとばされた。

杖がカランと床に落ちた音がやけに大きく響く。
見ていたリーマス達が慌ててジェームズとシリウスに駆け寄ると、二人は悔しそうな顔を浮かべていた。

「《そういうのは卑怯って言うんじゃないかな》」

立ちすくんだ二人の前にやってきたナマエはニコリともしなかった。
普段の明るい印象とのギャップが激しく、その無ともいえる表情には冷たさすら感じる。

そして、手にしていた半透明の杖を、二人の前にこれ見よがしと順番に突きつけると、その杖はシリウスの心臓を捉えた。
早まる心音に、たらりと垂れる冷や汗。
シリウスはその時初めてナマエに恐怖を抱いた。

だが、魔法を発する事なくその杖はスッとシリウスの身体を通り抜けていく。

「《まぁ冗談はこれくらいにしておいて…、僕は幽霊だけど君達より強いからね》」

せいぜい僕の前では気を付けてね、と今度はいつも通り笑った。









「お前、あいつらと仲がいいんじゃなかったのか?」
「《ジェームズ達?うーん、セブルスとの方が仲良しだよ》」
「…」
廊下を離れた二人は森と通じる出入り口の壁に寄りかかって青々とした木々を眺めていた。
時折木からは鳥が飛び立ち、鳴き声が聞こえる。

さっきの騒がしさとは真逆の静寂さに、スネイプはようやく落ち着く事ができた。

「《ジェームズ達はいつもセブルスにあんな感じなの?》」
「忌々しい事にな。あいつらに会うとろくな事がない」

苦虫をかみつぶしたような顔を見る限り、本当によくある事なんだとナマエは苦笑した。
そして何故スネイプが幽霊なんかに呪文を教わろうとしたのかも同時に理解した。

「《ねぇまたあんな風になったら僕の名前を呼んで。すぐ助けに行くから》」
「…いい」
「《じゃあ勝手に行くからいいよ。なんならセブルスの背後霊にでもなろうかな》」
「なんだそれは」
「《だって僕幽霊だし》」

名案だ!と言わんばかりに手をぽんと叩くと、よっぽど気に入ったらしい。

ふっと浮き上がり、スネイプの背後に回るとそっと肩に手をおいてほほ笑んだ。
それは背後霊というよりは守護霊のようだったのだが。

そんな光景がまさかこの先何年も続くなんて事はこの時二人は全く思ってもいなかった。