マルフォイ家のクリスマスパーティーU


人混みをのぞくために少し背伸びをしても相変わらず。
幽霊だった頃の透ける身体が今ばかりは恋しい。


もう一層帰ろうか。

なんて後ろ向きな気持ちでいると、人混みの中でわずかに金髪の老人と目があった。
どこかドラコに似た、そして記憶の中の友人を老けさせたらこんな顔だろうという想像にピッタリな。

「ナマエ?」
「…アブラクサス?」
「あぁナマエ、ナマエじゃないか!!!」

穏やかな瞳がカッと見開かれると、一直線にナマエの元までやってきたのは当主であるルシウスの父、そしてナマエとリドルの先輩であるアブラクサスだった。

美しかった金髪は少し色素が薄くなり、顔には皺が刻まれている。
だがその笑い方や仕草は変わらないようだ。
大きく手を広げ、ナマエの身体をすっぽり覆うと頬に挨拶のキスをした。

「父上、どうされたのですか」
「ルシウス!私のナマエが来てくれたんだ」
「あぁナマエ。よく来てくれた。歓迎しよう」
「やぁお招きありがとうルシウス。アブラクサスは、ちょっと離れてくれないかな」

後を追ってきたルシウスに手をあげて挨拶をすると、ルシウスはわざわざ少しひざを折って頭を下げた。
だが父であるアブラクサスを見るとひくりと口の端が引きつっている。

大の男が青年相手に抱き着いたまま離れない、更にそれが自分の父親であるならば正常な反応と言っていいだろう。

「本当にあの時のままなんだな。懐かしい」
「アブラクサスは、歳をとったね。しわくちゃだ」
「そんな事を私に言うのはリドルと君だけだよ」

いい加減鬱陶しくなってきて背中をぽんぽん叩くと、渋々と言った様子でアブラクサスの身体は離れていった。
そして次にルシウスとあいさつ代わりに軽くハグをすると、ちゃんとハグができる事に驚いていた。

何せルシウスがいた間はずっと幽霊だったのだ。
それが急に身体を取り戻しているのだから驚かない方が無理というものだろう。


「ナマエは今日どうするんだ?もちろん家に泊まるだろう?」
「いや、人混みで気持ち悪いしもう帰るよ」
「何を言うんだ。まだ会ったばっかりじゃないか」
「吐くぞ」
「ナマエの物ならなんでも受け止めよう」
「…でもまぁやっぱり帰るよ。本当、久々の人混みに疲れちゃったしさ」

どうしてだろうか。
アブラクサスが物凄く落ち込んでいるように見える。
いや、事実落ち込んでいるのかもしれないが。

「冬休み中に今度また遊びに来るって」
「本当か?」
「うんうん。だからそんな顔しないでよ」
「約束だからな」
「約束するよ」
「それでは破れぬ誓いを」
「それは嫌」

どこにただ遊びに行くという約束に破れぬ誓いを立てる奴がいるんだ。

相変わらず考えの読めないアブラクサスの行動に、ナマエは懐かしさを感じていた。
ちゃんと遊びに来るよ、と念押しをするとさすがに破れぬ誓いはやめてくれたが、少し残念そうだ。

「おや。…ナマエ、どうやらもうお迎えが来たようだ」
「お迎え?ってセブルス!どうしてここに?」

突如現れたスネイプは相変わらず大きい黒蝙蝠のようなローブで、眉間にしわを寄せてむすっとしていた。
きらびやかなダンスホールには少し不似合いで、悪目立ちさえしている。

「机の上にこれを置き去りにしていただろう。全く、一声かけてから行きたまえ」
「あぁ、うっかり。でも良いタイミング。人酔いしちゃったから帰ろうと思ってたんだ」
「全く、姿を戻してから油断しすぎだ」

手に戻ってきたのは送られてきた招待状のうち一枚だ。
たしかに机の上に置きっぱなしにしてたかもしれない。

「ごめんごめん。…あ、アブラクサス。この人はセブルス・スネイプだよ。僕の…うーん、先生?ご主人様?なんていうのかな、この関係性?」
「ご、ご主人様だと…?」
「…ホグワーツで魔法薬学の教授をしております、セブルス・スネイプです。ナマエとは同僚です」
「あ、それそれ」
「父上、同僚だそうですよ。ご主人様ではありません」
「そ、そうか。なら…ならいいんだが…」

「それじゃあアブラクサス。遊びに来る日はまた後で梟送るね」
「あ、あぁ。楽しみに待っているよ。そこのスネイプ君もね」
「私達も待っているよ。今度は屋敷内を案内しよう」
「ミスターマルフォイ、ナマエが世話になりました。それでは」
「またね。アブラクサス、ルシウス。ドラコにもよろしく」










マルフォイ家の面々に見送られて屋敷を出ると、外は真っ暗だが空から冷たい雪がふわふわと舞い降りてきている。
吐く息は白く、目に見えるそれが面白くてナマエはわざと大きく息を吐いた。

「ナマエ、遊んでないで帰るぞ」
「はーい。…もう結構遅いんだね、月がもうすぐ真上にあがる」

空を見上げれば大きな月がナマエとスネイプの真上にあがろうとしていた。
パーティー会場に来た時はまだまだ真上に来る気配なんてなかったのに、随分時間は早くたってしまったようだ。

サクサクと薄っすら積もった雪の上を踏みながらマルフォイ家の門の外に出るとようやく姿現しができるようになる。

「よし、じゃあ帰ろう。行け!セブルス!」
「…何故我輩に抱き着くのだね」
「なんとなく」

ひしっとスネイプに抱き着くと、少しだけ嫌そうな顔をされたが離れろと言わないあたり許してくれているのだろう。
腕に力を入れ、離れないように更に密着すると、なんの前置きもなくパチンと音がしたかと思えば管の中を通っている様な姿現し独特の感覚に襲われた。
ぐるぐると視界は周り、少しだけ気分が悪くなる。

だがその感覚も一瞬の事だ。

次の瞬間またパチンとはじけた音がすると、そこはスネイプの私室ではなく漏れ鍋だった。

ホグワーツ城に姿現しをする事はできないので、漏れ鍋から暖炉で戻るのだ。

「「ホグワーツ城」」

さっさと手慣れたフルパウダーでホグワーツ城へと戻った二人は、今度こそスネイプの私室に戻ってきた。








「セブルス、一緒に寝よ」
「自分の部屋に戻ったらどうかね。隣だろう」
「いいじゃんクリスマスくらい!それに僕はこっちの方が落ち着く」

着替えもそこそこに、スネイプより先にベッドに潜り込むとナマエはニヤリと口角をあげた。
スネイプがこの部屋にいるのと同じくらいナマエもこの部屋の住人だったのだ。
隣の自室より圧倒的にこちらの方が心休まる。

ベッドでごろごろと勝手に寝転んでいると着替えたスネイプがこちらを見下ろしていた。

「端によりたまえ」
「えっいいの?」
「今年は何もやれていないからな。これで我慢しろ」

言われた通り端によると、いくらか低い体温が広くはないベッドに入ってきた。
身体は完全には大人ではないが、ナマエとスネイプがベッドに並ぶとやはり少し狭い。
だがベッドから追い出さないのだから、きっとこれがクリスマスプレゼントという事なのだろう。

そう解釈してナマエはぴたりとスネイプの腕にしがみついた。

「ありがとう」
「早く寝ろ」
「はいはい。おやすみ、セブルス」