09


「ナマエ、調合の手伝いを…」

途中まで言いかけて、スネイプはぐっと口を噤んだ。
もう呼んでもあの半透明のきらきらは現れない。


クィレルの横で消えゆく粒子の後を見たあの夜以降、ナマエはとんと姿を現さなくなった。



ついいつもの癖で呼んでは、落ち込む自分にスネイプは嫌気がさしていた。
あの半透明の幽霊に対して、不安と怒りと落ち着かない心に、いろんな感情がごちゃ混ぜになっている。
それを吐き出すかのように、スネイプは大きなため息をついた。


ホグワーツにいる間、学生の頃も教授になってからもナマエは傍に当然いるものだと思っていたが、こうしていなくなるとあの騒がしさも自分には必要だったのかもしれない。

いや、ナマエの事ばかりを考えていておいけない。
賢者の石、ダンブルドアの事。
頭を悩ませる事はいくらでもあるのだ。

頭からナマエの事を少しだけ離すと、薬の調合から試験問題の作成とこれまで以上に仕事にのめり込んだ。
仕事をしている間だけは悩みを深く考える事はないのだ。







「セブルス、最近根を詰めすぎじゃありませんか?」
「…ミネルバ、試験の採点で頭が痛い回答が連発しておりましてね」
「そうですか。それは残念ですね。でも試験の採点も、…考えすぎも身体に毒ですよ。少しはお休みなさい」
「ご忠告どうも」

試験が終わり、先生達は各々の試験採点に忙しい頃。
偶然廊下で通りすがりのマクゴナガルにも心配されるほど、スネイプは酷い顔をしていた。

だが本人には全くと言っていいほど自覚がなかった。
顔はやつれ、目の下のクマもひどい。

スネイプはマクゴナガルに言われて、そういえば最近水しか飲んでいないとようやく自分の不摂生に気が付いた。
栄養もなく、手はここ最近ずっと試験の採点をしていた。
そして試験の採点結果に対しても頭が痛いのもまた事実だった。

だがその痛みを癒すような紅茶を淹れる者はいない。

「…早く出てこい、馬鹿幽霊め」

あの幽霊がいれば、こんな事にはならないのに。


ふらつく身体と痛む足を引きずりながら自室へと戻ると、クリスマスプレゼントにと送った小さな机の上にある赤い薔薇が目に留まった。
それはナマエがたしかにそこにいた事を現しているように思えて、スネイプはしばらくその薔薇を見つめていた。