イギリスより


「ナマエ!!日本に帰るって本当なの?」

引っ越し作業も残る所ソファとテーブルのみとなった頃、彼女たちはやってきた。

「やぁハーマイオニー、ロン。帰るって言っても仕事だけどね」
「変わらないだろう!君は相変わらず仕事人間だな。信じられないや」

学生時代からの友人であるハーマイオニーとロン。
見た目こそ大人びたものの、変わらぬ物言いにナマエは微笑んだ。
引っ越す事を前もって伝えなかったせいかプリプリと怒りながら律儀にもお菓子を持ってきたハーマイオニーにお礼を言い、二人をソファに勧めた。

引っ越し間際とは言え、お客様はもてなすのがポリシーだ。

トランクに仕舞ったティーセットを取り出し、杖で一振りすれば、意思を持ったかのようにティーセットが紅茶を注ぎ、お茶請けにともらったお菓子を広げれば、ロンはたちまち喜んだ。

「ハリーも来たがってたんだけど…」
「わかってるよ。ハリーは誰よりも忙しいからね」
「最近じゃ僕達も中々会えないんだ」
「そっか」

ホグワーツにいた時はいつも3人でいたから変な感じがする、と笑うと釣られてハーマイオニーとロンも笑った。
ハリーの事、日本の事、仕事の事。
友人と会えば話は尽きないものだが、時間は早く過ぎ去ってしまう。
紅茶がすっかり冷めきった頃、順番にハグをして2人を見送った。

「もし日本に来た時は案内するから」
「必ず行くわ!」
「今度はハリーも一緒にね」
「楽しみにしてる」

そして今度こそ残った家具とティーセットに魔法をかけてトランクに仕舞い込む。飛行機の搭乗時間を確認すると、あまり猶予はなさそうだ。
トランクを部屋から運び出し、ギィィと重い音を立てるドアを閉めると、後には紅茶の残り香だけがあった。









「あーっ疲れた…」
飛行機でイギリスから日本まで9時間。
久しぶりにマグルの乗り物に乗ったせいか、思ったより長時間のフライトに身体は疲れていたらしい。ぐっと背伸びをすればどこかの骨がポキッと鳴った。

トランクを受け取り、到着ゲートを通り抜けると、ふと鼻をかすめた匂いに足を止めた。
懐かしいこの匂い。そう、この香りはたしか

「…醤油」

そう、醤油の匂い。
空港は各国の匂いがすると言う。
あぁ、本当に日本に帰ってきたんだ。
しかし醤油の匂いで実感するなんて、とナマエが一人笑うとタイミングを見計らったかのようにポケットに入ったスマホがブルブルと震えだした。

「げ、ジン…」

スマホの着信履歴にはあまり出たくない相手、ジンの名前が表示されていた。一瞬取る事を迷ったが、取らないと後がうるさいのは目に見えていた。タクシー乗り場に向けて歩きながら、通話ボタンをタップするとすぐに不機嫌そうな声が聞こえてくる。

『遅い。鳴ったらすぐに取れ』
『はいはいごめんなさい。何か用?』
『…てめーに仕事だ。』
『はぁ?今日本に来たばっかりなんだけど』
『うるせぇ。詳細はメールを送る。お前ならすぐ終わるだろう』
『…OK』

ブチッと通話が切れた音の後、メールが届いたのはすぐの事だった。

メール内容は取引相手の始末。場所は幸いにも空港からさほど離れていなかった。
ジンの言う通り、すぐ終われば丁度日が落ちるくらいには終わるだろう。

「はぁ」

思わずため息もつきたくなる。黒の組織の人使いの粗さは薄々気づいてはいたけど、まさか来日早々回ってくるなんて。
憂鬱な気持ちでタクシーを捕まえると、指示された場所を伝えて目を閉じた。

こうしてナマエの日本での組織潜入任務がスタートした。