本気の本気
「ナマエさん!デートに行こう!!」
「上鳴君、私仕事中なんだけど」
「えー、ナマエさんと話せるの今しかないじゃん」
「えーじゃない。大体デート誘うなら同じクラスの子誘いなさいよ」
私を口説くなんて10年早いわ!と冗談交じりに言うと上鳴君は渋々オムライスの乗ったお膳を持って人ごみに消えていった。
今は12時を回ったところで食堂には雄英の生徒達が食券を持って列をなしていた。カウンター越しに新しく食券を受け取ると、大急ぎでご飯を炒めている先輩であるクックヒーローランチラッシュに聞こえるよう「チャーハン追加で!」と声をあげた。そして私も自分の持ち場で漬物を等間隔に刻んでいく。
お昼時の食堂、特にカウンターを隔てたキッチンは戦場だ。次々舞い込む注文に目が回る。そんな時必ず声をかけてくるのがあの上鳴君である。名前は知らない。いつの間にか話しかけてくるようになった彼は、私が仕事中でもおかまいなしにいつもデートに誘ってくる。この非常に忙しい時に。もはや嫌がらせかとも思う。
「あの、すみません。お願いします」
「はーい、チャーハンね。先輩もう一丁チャーハン追加です」
「分かった」
「ちょっと待っててね」
今日はチャーハン人気だ。なぜだろう。
ちょっとロックな雰囲気の女の子から食券を受け取る。ふと食堂を見渡すと、もう列に並んでいる人も食券を買っている人も少なくなってきていた。ようやくキッチンも落ち着けそうだ。
「あの、すみません。お姉さんていつも上鳴に話かけられてません?」
「上鳴君?あ、クラスメイトの子?」
「はい。耳郎響香って言います」
「そっか、クラスメイトか」
「上鳴うるさいでしょう?すいませんアホで」
「あはは。全くこんなに可愛いクラスメイトがいるならクラスメイトをデートに誘えばいいのに」
「え、デートに?」
「うん。こんな年増と遊んだって何も出てこないのにね」
びっくりしたような表情の響香ちゃんに私は思わず苦笑い。今こそ平然と流せるようになったが当初はとてもびっくりしたものだ。それはもうお皿をひっくり返したり水をこぼしたりその日は散々だった。
学食のバイトをやっているような私からすれば高校生とても眩しい存在だ。なんていうか、若い。それが「デート行きませんか?」だ。そりゃドキッとしなかったわけではない。けどそれを真に受けるような人間でもない私は上鳴君が飽きるまで言わせているのである。
「上鳴っていつもご飯誘ってるんですよ」
「やっぱり?だよねー!」
「でもデートに誘ってるところは見たことないです」
「ご飯とデートって一緒じゃない?」
「上鳴的にはちゃんと線引きがあるんだと思いますよ」
「はい、チャーハン完成〜」
「あ、先輩すみません!響香ちゃん、ご飯食べて午後もがんばってね!」
「はい。ありがとうございます」
先輩からチャーハンを受け取ってお膳に配置してきょうかちゃんに渡すと律儀にもぺこりとお辞儀をしていった。上鳴君とは違って礼儀正しい子だ。
と関心してる場合じゃない。今度こそ学生もいなくなったようだし洗物をしなければ。食洗機に入れるだけだけどこれもまた体力を使うのだ。張り切って腕まくりをしていると、自分のまかないを作っている先輩が不思議そうな顔をした。
「今日はミョウジさんもう上がりだよね、たしか」
「えっ」
「出勤してる人多いから洗物は別の人がやってくれてたと思うけど」
「わ、本当だ。よく見てなかった…」
「ミョウジさん普段から働きすぎだし、おばちゃん達が休めって」
「皆さん優しすぎません?」
壁に貼り付けてあるシフト表を見るとたしかにいつもより人が多い。張り切ってした腕まくりを下げると、ご厚意に甘えて早上がりさせてもらう事にした。
と、言っても急に空いた午後にもちろん予定などない。
さて、どうしたものかと鞄をもって屋外へ出ると、外はとてもいい天気だ。
「ナマエさん!!」
「上鳴君?なんでここに」
ぐっと背伸びをしていると、本日二度目の上鳴君が小走りで建物から出てきた。たしかもうすぐ授業は始まるはずだが、まさかサボリではないだろうか。
ちょっとした疑念を持っていると、上鳴君はそれを見越したように午後は自習だと言った。
「ランチラッシュにナマエさん午後休みだって聞いて飛んできたんだ!!間に合ってよかった」
「先輩…」
「お願いします!デートに付き合って下さい!!」
「…昼ご飯まだなの」
「え?」
「上鳴君はもう食べただろうけど私はまだお昼食べてないの」
「じゃ、じゃあ!!おいしい所知ってるんで、その」
「うん。そこに付き合ってくれる?」
「え?本当に?」
「うん。ダメ?」
「全然そんな事ない!!…や、ったぁーー!!!!」
両手を空に掲げる上鳴君、なんだかこうしてみるとすごく可愛い。
いや、食事に行くのは今回限りだ。天気が良くて勿体ないからだ。うん。
『上鳴的には線引きがあるんだと思いますよ』
なんて響香ちゃんは言っていたけど…、これはただの食事。デートではない。
「俺幸せすぎてアホになってるかも」
「あはは、何それ」
絆されてなんかいない。たぶん。