ぐうたら降谷とお世話係


「降谷さん、例の資料です」
「あぁ、ありがとう。じゃあこっちの資料を共有しておいてくれ」
「分かりました!」
「降谷さん、この事件なんですが…」
「まだ犯人は捕まっていないんだったな。捜査はどうなっている?」
「それが…」

エリートが所属する公安の中でも、更にエリートと称されるのが我らが降谷零である。
女性たちからはもちろん、男性からも頼りにされる、カリスマ性があるお方だ。
庁内の誰しもが降谷さんは完璧な人間だと認識していた。私ももちろん例外ではなく、この世の中に完璧な人なんて本当にいたんだ、なんて思っていた。

が、それは家の外のみの話である。





「もう、ぐうたらしないで下さい。掃除の邪魔ですよ」
「家くらいいいだろ」
「退いてからそういう事はして下さい」

家では常にジャージでゴロゴロする人と、スーツをパリッと着こなしたあのエリートと誰が同一人物だと思うだろうか。
掃除機をかける手を止めて、じっと顔を見てみるとやっぱり昼間はあのエリートイケメンなんだよなぁ。と思ってしまう。

「どうした?」
「イエナンデモ」

ある日風見先輩から「お前降谷さんと同じマンションだろ?世話係、任せたぞ」なんて言われた時は頭がどうかしたのかと疑っちゃったけど、今ではちょっと役得かもしれないなんて思ってしまう。

だらだらしててもカッコいいなんて、神は二物も三物も降谷さんに与えすぎだ。

そんな事を言うと調子に乗りそうだから、ぐっと飲みこんで掃除機を動かすと、床に転がる降谷さんに攻撃した。掃除機がブィ〜と鈍い音を出すが気にしない。

働かざる者食うべからずだ!

「邪魔です〜!そこにいるならごはん作って下さいよ」
「腹減った?」
「はい!!私今日はエビチリがいいです」
「お前本当に辛い物好きだな…」
「降谷さんの作るエビチリ本当においしいですから!!」
「〜分かった。材料あればな」
「やった!」

掃除機攻撃をやめると、渋々といった様子で立ち上がり冷蔵庫をあさりだした。

どうやら今日の夕飯は好きなものになりそうだ。

ルンルンの気持ちで掃除機を片づけ、続いてお風呂掃除、洗濯と溜まりにたまった家事を終えていく。もちろん洗濯は降谷さんのものである。
彼女でもないのにパンツ洗ってあげるってお母さんかお手伝いさんかと自分の不思議な立ち位置に笑ってしまう。






「ミョウジ、飯できたぞ」
「はーい。あ、エビチリ!!良い匂いですね〜」
「手洗ってからな」
「お母さん」
「じゃない。ほら、早く」

手を洗い食卓へ行くと先に降谷さんが座っていた。
このおかしな風景ももう見慣れてしまった。降谷さんの反対の席に座り、いただきますと呟くと今日のメインディッシュであるエビチリへと手を伸ばした。

プリプリでほどよい辛さのエビがおいしい。

「は〜降谷さんて本当お料理上手ですね。天才ですか?」
「まぁな」
「そこは謙遜して下さいよ」
「事実だろ」
「ま、そうですよね〜。女性が皆ほっとかない訳です」

何せ仕事もできてカッコよくてお料理上手なんて完璧人間に惚れないわけがないですもんね。と庁内で女性たちがささやいている誉め言葉を並べてみる。

「ミョウジも」
「はい?」
「ミョウジもそう思ってくれてるのか?」
「え?まぁそうですね。かっこいいと思いますよ」

まぁ掃除嫌いで家でぐーたらしてる姿も私と風見さんしか知らないけど。
それも含めてかっこいいな〜と思ってしまうのだから、だいぶ絆されているのだろう。

「そうか」
「あれ、降谷さん顔赤くないですか?エビチリそんなに辛いですかね」
「そうだな、辛くしすぎた」
「あはは、おっちょこちょいですね〜」

再度エビチリを口に入れると、ピリリとした辛味が食欲をそそる。そうしてまたごはんを食べ、幸せだなぁなんて思っていると降谷さんは「水」とキッチンの奥へと引っ込んでしまった。


(もしかして降谷さん辛いの苦手だったりして)
(…くそ、無意識ほど恐ろしい物もないな)