指先から春


「このクリームをまず手にもみ込みます」
「おう。量はどれくらいだ?」
「このくらいかな。じゃあ見よう見まねで一緒にやってみよ」

だらりとした時間が流れる昼休み。
ご飯を食べ終えて、前の席に座った影山と机を挟んで向かい合わせになるとスッと差し出された手にチューブの口をそえた。少し押し出せばハンドマッサージにちょうどいい量が出る。自分の手にも同じようにクリームを出して、普段しているように伸ばし手にもみこむ。
影山にもちゃんと見せるように、手順を口で説明するとぎこちない動きで同じようにクリームを伸ばした。

「そうそう。で次はハンドマッサージね。今日は私がやってあげるから覚えて」
「分かった」

クリームで少しベタつく影山の手を握り、にぎにぎと親指で押していく。
するといつもムスッとしているか、怖い顔をしている影山がちょっとくすぐったいようななんとも言えないような表情をしていてちょっと面白い。その表情がもうちょっと見たくて、手のひらだけでなく調子にのって腕の筋肉までマッサージしてみた。
手の平も大きくて男の子らしいとは思ったが、腕はかなり筋肉質だった。特に利き腕は少し発達していてより念入りに力を入れる。

「どう?気持ちよかったでしょ」
「あぁ。俺もやってみていいか?」
「ん?いいよ」

おずおずと聞いてきた影山にスッと手を差し出すと一瞬でパァッと明るい顔をした。影山は結構分かりやすいのかもしれない。

差し出した手は、最初は恐々と大きな手で包み込まれ、力を入れ過ぎないように気を付けてくれているのかやわやわと握ってくれている。

「もうちょっと強くていいよ」
「おう」

そう言えば、少しだけ指先に力が入って手の平をマッサージし、するすると指先は腕の方まで伸びていく。
さっき私がやったマッサージを真似ているのだろう。本当は手の平だけなのだけど、今更なんだか言い出しにくい。男の子らしいゴツゴツとした手が二の腕までくるとさすがにむずがゆい。

(あぁそっか)

さっき影山が恥ずかしいような、もどかしそうな顔をしていたのが分かった。
これは結構やられてる側は恥ずかしい。普通のマッサージだけど、同い年の男女でやるようなものではないのかもしれない。
異性の手というのはなんだかドキドキするのだ。

(今思えばさっきの自分はかなり大胆…)

この距離の近さとふれあいに、一回ドキドキを覚えてしまえば意識してしまうもので。

「…どうだった?」
「結構なお点前で…」

訳の分からない返事を返してしまうのも、この胸の高鳴りのせいだ。



(影山side)

これは、結構すごい事をされているんじゃないだろうか。

ハンドケアを教えてくれと手が綺麗だったミョウジに頼むと、ミョウジは天然なのか、ニコニコしながら小さな手で俺の手の平から二の腕まで全体的に腕のマッサージをしてくれた。

これは俺にハンドケアを教えるためのデモンストレーションなのだが。

中々他人に腕をマッサージしてもらう事なんてのはほとんどない。
しかも同い年の女子にやられる事などもっとない。そのせいか触れ合った場所がとにかく熱い。本当に熱でもあるんじゃないだろうか。気のせいか心臓も何かに捕まれている様な感覚さえする。

「どう?気持ちよかったでしょ」
「あぁ。俺もやってみてもいいか?」

いつも通りを装ってそう言ってみれば快くその白魚のような手が差し出され、できるだけ無心で腕にのマッサージに集中した。

(ダメだ、このままだと良からぬ事を考えそうだ)

ハンドクリームの良い香りがする中、マッサージのために手にふれると思ったより小さくて驚いた。強すぎると痛いだろうから、できるだけ弱い力で手を握ってみる。
力加減を聞くともう少し強くしても大丈夫らしい。手の平から続いて肘、そして二の腕まで指をすべらせると、その触れた指先がふと止まった。

(なんというか、やわらかい)

そういえば誰かが二の腕は胸の柔らかさと一緒だといっていなかったか。
そんな事を思い出すとボッと顔が赤くなった気がした。

くそ、こんな時に思い出さなくたっていいのに。
二の腕に触れている指先から伝わる何かが心臓をバレーの試合の時みたいに一層高鳴らせている。少しだけミョウジの様子を見れば、ミョウジも恥ずかしそうに顔を染めて俯き加減に視線をそらしている。更にそれで俺の体温があがったのは仕方のない事だと思う。

ただの昼休みだったはずが、この後俺にとって欠かせない時間になるのはもうすぐ後の事だ。