花々しく誘惑


if招き猫がヒーロー科だったら
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「む、ミョウジ君がまだ来ていないようだがどうしたんだ?」
「うーん。先行っててって言ってたから置いてきちゃったけどまだ来ないね」

雄英高校 演習場A。
ビルが立ち並ぶこの演習場にAクラスの面々はヒーローコスチュームを着て集まっていた。個性を活かしたそれぞれのコスチュームは、赤青黄色とそれはもうカラフルで目立つ。だが、もうすぐ授業が始まるというのに一人見当たらない人物がいた。

その彼女は授業をサボるような人でもないし、遅刻などするタイプでもない。
一体どうしたのだろうかと心配すると、隣で一緒に首をかしげた麗日が飯田にキラリとした眼差しを向けた。

「そうだ、飯田君ちょっとエンジンで探してきてよ!エンジンならすぐ行ってパッて戻ってこれるでしょ!」
「なんだと?!…いやこれも委員長の責任か?」
「うんうん!私が行っても足遅いし。オールマイト先生にはうまく言っとくから」
「分かった。必ず授業開始までに戻ろう!」
「頼もしいよ飯田君!」

こうして麗日のおだてに乗った飯田は足のエンジンをふかして校舎にUターンしていった。



困った。非常に困った。
背中のファスナーがあげられない。
ぐっと手を伸ばしてみるものの、先ほどから空ぶってばかりだ。

お察しの通り次の授業はオールマイトの戦闘訓練。
どうにか一人でコスチュームを着る事はできたけど、難関である背中のファスナーが一人であげられないのだ。変に強がらなきゃよかったと思っても後の祭りだ。背中がぱっかりと開いた姿では外に出るにも出られない。

「うーん…どうしよ…」

こうして悩んでいる間にも時間は刻一刻と過ぎている。
授業までもう10分は切った。
本当にいかないと怒られるどころか、もしかしたら除籍もありえるかもしれない。いや、オールマイトだから相澤先生レベルにはならないと信じたいのだけど。

(仕方ない…)

こういう時の私の個性だ。

手で拳を作り招き猫のようにくいくいっと動かすと、空気中にキラキラと細かな黄色い粒子があふれてきた。それは目に見える幸運の粒子であり、私の個性が行使された証だ。
来たる幸運を待っている間も必死に背中のファスナーに挑戦したが、やはりファスナーはあがらない。ここまでくると設計ミスなのか自分の身体が堅いせいなのか色々理由を勘ぐってしまう。

疲れた手を下におろしてはぁ、とため息をつくとふいに更衣室のドアがコンコンとノックされた。

(来た、天の助け)

「ヒーロー科A組飯田天哉です!!ミョウジ君いるか!?」
「!?」

なんと幸運を発揮して助けに来てくれたのは飯田君らしい。
女子じゃない事に返事をしようとした喉がカチンと固まった。

助けて欲しいのはやまやまなのだが、中々今はきわどい恰好だ。時間に余裕があれば迷いはしないが、授業の開始時刻も迫ってきている。絶対に遅刻などしない飯田君がわざわざ来てくれているのも気がかりだ。

(どうしよう、男子にファスナーあげてもらうの?いや、飯田君は信用できるけど…大丈夫?いやでもやっぱり)

「ミョウジ君いないのか?」

ぐるぐると閉めてもらうかどうか悩んでいると、ドアがガチャッと音を立てて開いてしまった。
それはもちろん自分で開けたわけでもなく風で開いたわけでもない。

「あ」

ドアを開けたのは普段とは違う、王道ヒーローらしいコスチュームを着た飯田君だった。思わず飯田君をガン見してしまい、シーンと静まり返った空気の中、視線があう事3秒間。

「!?し、失礼した!!!!」
「あっ待って飯田君」

すぐにドアを閉めようとした飯田君を反射的に呼び止めると、ビクッと身体を揺らしてこちらを見ないように視線を下にして止まってくれた。その紳士的な気遣いにホッとするのもつかの間。今はとにかく時間がない。ヒーローたるもの時間厳守だ。

「飯田君、時間ないから少し手伝って」
「手伝い?というかいたのなら返事をしてくれ…」
「それはごめん。あのね、背中のジッパーがあがらなくて困ってたんだ」

手っ取り早く要件を伝えると、先ほどよりも大きく肩が揺れた。フルフェイスのコスチュームで、どんな表情をしているかは分からないけど、きっと困った顔をしているのだろう。
何せ大のつくほど真面目な飯田君だ。さっき更衣室を開けた事にも罪悪感を感じていそうだ。

「お願い。時間がない」
「いやしかし着替え中の女性を見てしまっただけでなく手伝うなどもっての外でぶつぶつぶつぶつ…」
「飯田君、緑谷みたいになってる。本当に遅刻しちゃうからほら」

時計をちらりと見れば時間はもう後5分だ。今ダッシュで行けばギリギリ演習場まで間に合うだろう。

もう飯田君の自問自答を待っている暇はないのだ。
すぐ傍に近寄ってもぶつぶつと考え事をしているようで全く反応がない。それをいいことにドアに手をかけたままの飯田君の身体を更衣室に引き込んでくるりと背中を向けた。

「は、や、く!!」
「わ、分かった。これも人助け、ヒーロー活動の一環だ…」

背中ががっつり開いている私だって恥ずかしいのだ。
巻き込まれないように髪を持ち上げてファスナーの開いた背中を見せる。

(あげてもらったらすぐにいかないと)

そんな事を考えていると、ようやく決心がついたのかゴホンとわざとらしい咳払いの後に恐る恐るといった手つきでファスナーがゆっくりとあげられた。ファスナーがあがると全体的にぴっちりとしていたコスチュームが更に身体に張り付くようだ。念のためにくるりと鏡の前で回ってチェックをすると、特に変な所は見当たらない。

「よし。ありがとう、助かったよ」
「いや礼には及ばん。ミョウジ君、次は誰かにちゃんと手伝ってもらうように」
「気を付けます…」

というかこれはもうコスチューム制作会社に文句をつけるしかあるまい。一人で着れないコスチュームなどもってのほかだ。

「あとは…いや、やはり何でもない」
「何?なんか変な所ある?」

中途半端にごまかされると余計に気になる。
言い淀んだ飯田君をじっと見つめると、動きがあきらかに鈍くなった。まるでブリキのオモチャのようなぎこちなさだ。

「それより!ミョウジ君の衣装は露出が激しすぎるぞ!もっと慎みを持って」
「あ、そろそろ本当にいかないと大変」
「何っ遅刻はいかん!急ぐぞミョウジ君!!」

話をあからさまに切り替えると、よっぽど飯田君にとっては授業の方が重要だったらしい。すぐに踵を返して演習場に向かって走って行ってしまった。その速さに思わずぽかんとしてしまったが、私も飯田君と授業開始時間は変わらない。慌てて更衣室を閉め、演習場に向かうと飯田君がまた緑谷のようにぶつぶつと小言を漏らしていた。


(俺はなんて事をしてしまったんだ!女性の着替えを見てあまつさえ触れるなど!!)
(うわ!飯田君がデク君化してる!?)