誘惑のスイートタイム
魔法薬学の授業が行われるのは皆さんご存じの地下牢である。
地下牢はとにかくじめじめしていて薄暗い。居心地も抜群に悪く、一般的な感覚からすれば授業以外では近寄りたくないというのが生徒達の本音だろう。加えて地下牢の支配者はあのセブルス・スネイプ教授であって、すこぶる印象が悪いのだ。意味もなく滞在しようものなら容赦なく理由を付けて点数を引かれる事だろう。
だが生徒、いや人間の中にも物好きという部類が何に関しても少数派がいる。
地下牢で溶けたアイスクリームのようにだらりと机に突っ伏しているナマエもその内の一人だ。机の上に広げられた教科書やノートにはみみずのような字がののたうちまわっていて、何かに抵抗したような形跡が残っていた。
「あ〜〜ひんやりして気持ちい〜ね〜」
「…ここは休憩所ではないぞ。休むなら部屋に戻れ」
「えぇー…」
ぶーぶー文句を垂れるナマエにスネイプは呆れ交じりのため息をついた。
自分しかいなかった地下室に突然姿を現したかと思えば、勉強なのか趣味なのか本を読んでは羊皮紙にカリカリ羽ペンを走らせ、放っておいたらこのありさまだ。
どうせ普段使わない頭を使ったせいで頭がオーバーヒートでもしているのだろう。だから頭を冷たい机に当てては「あ〜」なんて気の抜けた声を出しているに違いない。
普段ならばパコンと叩かれるものだが、あまりにもあきれてものが言えない。勉強するにも休むにも部屋に戻った方が効率がいい事は誰の目に見てもあきらかだ。
「部屋に戻ったら一人じゃん。つまんないし」
「つまってもつまらなくても戻れ。全く…ここは神聖なる魔法薬学の教室なのだ」
「…じゃあチューしてくれたら帰る」
冗談交じりに目を伏せながらそう言うと、スネイプはあからさまに動揺したのか足をガンッと机の端にぶつけた。見た目より痛かったらしい、ぐっと痛みに耐えるように眉間に皺をよせている。それが面白くてふふふと笑うと鋭い睨みが飛んできた。ナマエはまたひやりとした板に顔をくっつけ、つーんと顔を背けた。
「チューしてくれたら帰る」
「二度も言わんでも聞こえている」
「じゃあ返事してよ」
「…断る」
「えー」
「そもそもここは教室であってだな、先生方や生徒も来る」
「じゃあ人避け!」
云々とつらつら理由が延べられる前に、サッとポケットから杖を抜き取って一振りすればあら不思議。地下牢唯一の出入り口にはきらきらと青い光が降った。その光りはスッと空気の中に溶けていく。パッと見は何も変わりはないが、この呪文をかける事で誰もこの部屋には近寄りすらしないのだ。
そもそもこんな所に来る人など限られてはいるのだが。
これでスネイプの憂いは取れただろうとニンマリ笑うと、返す言葉が見つからないのかゴホンッと大げさな咳払いをした。
「…はぁ、すぐに戻りたまえ」
「はーい」
笑顔のナマエとは対照的に改めるとやりにくいのか、スネイプは愛しいような、むず痒いような少しの葛藤を含んだ顔をしている。それでも、何かを決心したのかいつもよりぎこちない手で朱色に染まった頬を包む。その手は地下牢と同じく冷えていて、無駄な肉がなく角ばっている。それがまた熱い顔にはちょうどよく、ナマエが気持ちよさそうに目を細める。それを狙い澄ましたかのように、そっと冷たい唇が瞼に落とされた。
「…これでよかろう」
「へへ、イケない事しちゃったね」
「!?」
教室という生徒や先生にとっては神聖である場所で、瞼とは言えキスをされた事にナマエは興奮して胸がゾクゾクした。人避けがしてあるとはいえ、私室以外で初めてこんな事をしてしまったのだ。ちょっぴり後ろめたい気持ちもあるが、それよりもこの激しく脈打つ心臓が癖になりそうだった。
頬に触れていた冷たく無骨な手に、自身の手のひらを重ねるとじわじわと熱が移っていくような気がする。逃がさないようにギュッとその手を握り、頬を寄せる。吐き出された自分の息が熱を持ったように熱い。
「ねぇもっと頂戴」
「戻るという約束はどうしたのかね」
「瞼じゃ足りない」
「…困ったものだな」
「セブルスも共犯だからね」
イエスかノーか、その言葉をこぼす前に今度はお世辞にも血色がいいとは言えない唇に自ら唇を寄せた。あわさった唇を離さないように無我夢中で押し付ける。ひやりとした唇の中もてっきりぬるいのかと思えば、想像以上に熱くてとろけそうだ。確実に身体の中の酸素を吐き出してお互いの唇を貪ると、段々呼吸も浅くなって、脳も身体も熱くて熱くてたまらなくなった。
「ね、いっぱい教えてよ。先生」
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誘い受けみたいになってしまった…。
リクエストありがとうございました!