切島と福引
「ありがとうございました〜。こちら福引のチケットでございます」
「福引?」
「商店街で今福引やってるんですよ。うちからも景品出してるのでよかったら引いてみて下さいね」
「あざーっす!」
レシートと一緒に手渡された福引券と書かれた券を握りしめ、切島はご機嫌でスポーツショップを出た。
今日は休日。
クラスメイトの皆も思い思いの休みを過ごしている事だろう。鍛錬をしたり、だらだらしたり。趣味を楽しんだり。
この男、切島も普段はランニングから始まり筋トレ、格闘の練習など一日身体を動かす事についやす人間であったが、今日は商店街にて買い物をしていた。ランニング用の靴を探しにやってきたのだが、最初の店でお気に入りのシューズを見つけられたのは運が良かった。更に福引券をもらえたのは予想外のラッキーだ。何が当たるか分からないワクワク感が切島はたまらなく好きだった。
福引券を握りしめてさっそく商店街の福引コーナーへ行くと、やはり近所の主婦や学生たちが並んで列をなしている。例にもれず切島も列に並ぶと、徐々に景品が見えてくる。
一等はベタだが豪華なハワイ旅行だ。二等は商店街のお買物券。主婦は手堅くこちらがねらいかもしれない。三等には選べる五千円商品セット。
「プ、プロテインがある…!」
選べる景品の中には、さっきの店員が言っていたスポーツショップの提供だろう。様々な味のプロテインセットが入っている。しかもまだ誰にも選ばれていないようだ。これはもう三等を狙うしかないだろう。ぐっと手を握りしめて福引券に皺が寄った。
「はーい三回ですね〜。回して下さーい」
「おっし行くぞ!」
「どうぞー!」
そしてついに切島の番だ。大きなハンドルを回してガラガラとひとつひとつ玉をはじき出す。そして連続で三回回すと、受け皿に出てきたのは白が二つと黒が一つだ。白ははずれだと分かるが、黒は果たして何等だったか。
「おしい!ポケットティッシュ二個と五等のお菓子セットです!」
「あ〜くそ〜」
でもお菓子が当たっただけまだマシか。
やけにハイテンションな司会者からポケットティッシュとお菓子の詰め合わせをもらう。タダでもらった福引券なのだから、文句は言えないのだが悔しいものは悔しい。はぁと吐き出す空気は残念みに溢れている。だがこれでもう商店街での用事も終わった事だし、さっそく帰って新しい靴でランニングでもするか。と気分を切り替えると福引の行列の中に見知った顔がちらりと見えた。
見間違いでなければあれはミョウジだ。
(私服も可愛いな…って違う!ミョウジが福引ってずるくないか!?)
目をこらして見てもやはりあれはミョウジである。
運を操る個性などこの世にはきっとミョウジの一族くらいしかいないだろうレア個性だ。(テレビでも見た事がないし聞いた事もない)きっとこの場にいる人はまさか運を操れる人が混じっているなんて思ってもいないだろう。
(いやでもまて、ミョウジが個性を使って良い賞を取ろうとしてるとは限らないし)
個性を使っていなければこの福引は平等だ。
なんとなくグレーなものをみてしまった罪悪感からか、切島は立ち去れずその場でハラハラと福引の行方を見守る事となってしまった。
「はい、お嬢さんは二回ね」
「はい」
ガラガラとハンドルを回して福引を引く。緊張の一瞬という奴で、関係のない切島がごくりと息を呑んだ。そして二つの玉を出しおえたのだろう、ハンドルから手が離れた。切島からは出た玉の色は分からなかったが、すぐに担当のお姉さんがベルを盛大に鳴らしたおかげで何かが当たったのだとすぐに理解できた。
(いやいやまさかミョウジに限ってそんな)
「あ、切島君。良かった、まだいたんだね」
「うぉっ?!ミョウジ!?」
「やっほ。さっき見かけて声かけようと思ったんだけどタイミング逃しちゃってさ」
はははと笑う彼女の手には大きなビニール袋。さっきまでは持っていなかったそれはきっと福引で当たった何かだろう。妙に重たそうにして、今にも落としそうだ。いてもたってもいられず、代わりにそのビニール袋を持ってやる。妙にガサガサと音がするそれを覗いてみると一瞬切島の頭が固まった。
「それね、さっき当てたプロテイン」
「えっミョウジが!?」
そう、中身はあのプロテインだ。まさか華奢な彼女がプロテインを飲むという事はつまりムキムキになるのか!?と嫌な妄想が脳内に浮かぶ。いやいや、そんなまさか。でもこのプロテインはそういう事か、と腕に抱くプロテインが一気に重く感じる。
「何言ってるの。私は飲まないよ。切島君が欲しいかと思って」
「俺に!?」
「?うん。あ、個性は使ってないから大丈夫だよ」
個性使っちゃったらもらってもらえないでしょ。とにこりと笑うミョウジは純粋な笑顔だ。
そんなミョウジを一瞬でも疑ってしまった切島は一気に顔が赤くなった。自分のためにこれを当ててくれたという嬉しい気持ちと、一瞬でも疑ってしまった自分が恥ずかしい。
「ミョウジッごめん!ありがとな!」
「おぉっ!?」
感謝と恥ずかしさから思うように言葉が出てこず、たまらず切島は空いている手でミョウジを抱きしめた。想像以上に小さな身体はすっぽりと腕の中に納まる。
「切島、その恥ずかしいんだけど」
「あっ、悪い!つい嬉しくて。ありがとなミョウジ!これ欲しかったんだ」
「だと思った。私の強運に感謝だね」
抱きしめた瞬間はなんとも思わなかったのに、腕の中でもぞもぞと喋る彼女に自分の行動が恥ずかしくなった。パッと手を離すと抱きしめたせいで想像以上の至近距離にドキッと胸が高鳴る。慌てて身体を一歩引くと、ミョウジも恥ずかしそうにするものだから切島もまたボッと頬を赤くした。
そうして二人で顔を赤くしていると、「そうだ」と切島が自身のビニール袋からお菓子の詰め合わせを取り出した。それはさきほど福引で当てた景品だ。
「俺ばっかもらって悪いし…これお菓子の詰め合わせだけど」
「いいの?」
「おう。もらってくれ。景品で悪い」
「へへ、ありがと。私このお菓子好きなんだよね。」
やっぱり私強運だね。
そう笑うミョウジに、キリシマもへへと笑った。
俺も負けじと今日はラッキーデーだ。