欲に焦がされて


「ったくあの医者め。大袈裟に包帯なんか巻きやがって…」
「まぁでも大事に至らなくて良かったな」

包帯でグルグル巻かれた尾形は不満そうに腕を見る。たしかに怪我の割には大袈裟な見た目ではあったが、ナマエはそれを見て胸をなでおろす一方新たな不安に胸を痛めた。

茨戸一でひっそりと営業していた医者に見せた所、肩の傷口は見た目よりも浅かったらしい。包帯で巻かれてはいるものの、すぐに治ると太鼓判を押された。

今回は治ると言われても、何かと危ない橋を渡ってばかりのこの尾形だ。この先の旅路が心配でしょうがなかった。ニシン番屋からくすねてきた包帯の出番がない事をひそかに祈るしかない。

心配するような目つきで隣を歩く尾形をちらりと見て、未だに人っ子一人いない大きな通りを並んで歩く。二人の後ろには黒い影が大きく地面に伸びていた。

「この後どうする?」
「今から出発してもすぐ夜になるだろう。今日は茨戸で一泊してから行く」
「了解」

空を見れば日はもうかなり西に傾いている。尾形の言う通り出発してもすぐ空は橙になり濃紺に染まるのだろう。
茨戸から小樽までは、一度来た道だ。どれほど遠いかというのは身に染みている。今から馬で行ったとて、さすがに夜までには頑張ったって着くわけがない。そもそも、もう暗くなるというのに獣がうろつく森にわざわざ入る理由もなかった。

抗争の影響がなかった茨戸の通りを歩き、目についた雰囲気の良さそうな宿に入る。そこでは女将には泣いて歓迎されてしまった。どうやら日泥と馬吉の抗争のせいで客が全く来ず商売あがったりだったようだ。

たしかにあんな抗争があってはいくら宿場町と言っても人が寄り付かないだろう。思い出してみれば茨戸に来てからチンピラしか見ていなかった。チンピラがこんな宿に泊まるとも思えない。

「さぁさぁどうぞ!」

満面の笑みで案内された部屋は二人で泊まるには随分広く、良い部屋だった。気を利かせてくれたのか既に部屋の真ん中には布団が敷かれている。

「貸し切りって奴か」
「久々の布団だ!…幸せ…ふかふか…」
「……」

ナマエはさっそく部屋の隅へ荷物を置き、全ての装備を外して身軽になった。そして敷かれた一組の布団、そのふかふかの上に倒れ込んだ。
布は冷えていて肌と擦れるたびに冷たいが、それでも頬ずりせずにはいられない。何せ小樽から逃亡してからまともな家で休んだのは片手で数えられるくらいだ。布団とはずいぶん久しぶりの再会だった。

幸せを噛みしめるように目を閉じると、部屋の端でゴソゴソ音がした。きっと尾形が装備を外しているのだろうと高を括ってごろりと仰向けになる。布団から空気が抜ける間抜けな音と同時に、布擦れの音も聞こえてくる。
ゆっくりと目を開くと、顔には暗い影が被っている。

「…ん、なんだよ。布団ならそっちが空いてるだろ」

寝転ぶ姿を見下ろす様に、顔の脇に手を置いて覆いかぶさった尾形は、自身の身体をナマエの足の間に滑り込ませている。
まるで押し倒されたようなその構図に、やられた側は何かを察したのか面倒くさそうに目じりをあげた。

「何……、まさかとは思うけど…ヤろうなんて思ってないよな」
「そのまさかだ。いい加減溜まってきた。…丁度貸切なんてお誂え向きだろう?」

いくら声を出しても大丈夫だと暗に言う尾形は、それはもう楽しそうに笑っている。既に身体のどこかのスイッチが入ってしまったようだ。

さらりと落ちてきた髪の一房をいつものように撫でつける。ただそれだけなのに、色香のような何かがあふれ出ているように見える。一瞬その無造作の仕草にごくりと喉を鳴らしてしまったが、ナマエは「嫌だ」と自分の意思を譲らない。
久々の布団が目の前にあるのだ。今日はしっかり休みたい気分だった。

「そういう気分じゃない」
「じゃあそういう気分にさせてやるよ」

そういうや否や、尾形はナマエの手を上から縫い付け、形のいい唇に自身の唇を押し付けた。最初は触れるだけだったが、少しずつ何度も唇の角度を変えると、わずかに開いた隙間を逃さず舌を差し込んだ。小さな隙間をこじあけて入ってきたザラザラとした舌が、矢継ぎ早にナマエの舌を探し当てると軽く吸い上げ、絡みついた。
ひどく熱い舌とまじりあう唾液が、性へ、欲へと忠実になれと語り掛けているようだ。

「ふぅ…ん…」

静かな部屋の中でぐちゃり、ぴちゃりと唾液のまじりあう音が響く。それが否が応にも耳に入り、感覚も聴覚も侵されているようだった。
必死に強くなっていく食い、食われの攻防を繰り返す最中、視線があう。黒々とした瞳を欲に染めた尾形は、目を細めてその唇を離した。その間を銀色に光る糸がつないだかと思えば、それは尾形の口からちらりと覗いた赤い舌でぷつりと切られる。

「口づけただけでそんな顔するなよ」

それがまた色っぽく、男ではあるがまるで遊女のようだと、浅い呼吸を繰り返しながらナマエは思った。口づけで失った酸素を取り込むように、胸を上下させているとじんわり汗が滲み、視界もぼんやりする。心なしか薄っすらと涙の膜が張られているような気もした。

「そんな顔ってっ…どんなだよ」
「誘ってる顔だ」

下敷きになっているナマエを尾形はニヤリと口角をあげて見下す。むさぼるような口づけに顔を赤くして息をあげているナマエが、今嫌だと言った所でやめる男などこの世にはいないだろう。先ほどまで合わさっていた唇から、短い呼吸と共に吐き出された熱い息が更に興奮を煽る。

「どれ、こっちはどうだ」

ナマエを抑えていた手を離し、軍袴の上から撫でるように股間に触れると、びくりと大袈裟に身体が揺れた。狭い軍袴の中で布を持ち上げる未だ見ぬそれを、尾形が喜ばない訳がない。

「馬鹿、やめろっ」

布越しに触れただけだというのに、ビリビリと背筋に快感が走る。意思とは裏腹に芯を持つそれを擦ったりわざと触れないよう太ももを撫でる尾形の手は確信犯だろう。じわじわと燻る熱を弄ぶようなそれはひどくもどかしい。とろけかけの脳が更に快楽が欲しいと言っているのが自分でも分かった。

もっと、もっと欲しい。
そうは思っても素直に欲しいなんて言えない。ナマエは捻くれた男だった。一度嫌だと言った物は嫌なのだ。かすかに残っている理性を振り絞ってキッと睨みつけると、それはフンと鼻で笑い飛ばされた。

尾形にとってはそんな睨みは可愛い物だ。なんの効果もない。むしろ欲情への材料にしかならなかった。

「随分苦しそうだな、ここ」
「お前のせいだろっ…くそっ触んなぁっあっ」
「責任は取ってやるよ」

そう言うと素早く軍袴の釦がに手をかけ、乱暴に外された。抵抗する暇もなく脱がされると、家屋の中とは言え寒い空気にさらされた肌がかすかに粟立つ。それでもナマエの布に隠された陰茎は、道中一度も吐き出される事のなかった分、どろどろの熱を溜めていた。それを尾形の手のひらが布の上から触れ、続いて最後の壁であった褌を取り払う。

下だけが晒された自身のその状況に、羞恥心から沸騰したように頬を染め上げた。

「尾形ぁっ」
「煽るな」

己の名前を呼ぶ声は本人は無意識なのか普段よりもずっと甘ったるい、痺れる声色だ。
その証拠にナマエは抵抗することをやめたのか、手を離しても大人しく布団に寝転んだままで、ただただ次に来る快楽を待っているように見えた。それは艶やかで美しく、思わず息を呑むほどだった。

ただ、その光景は自分以外の人間も見た事があるのだと思えば怒りも沸いたが、自分以外にはこうも穏やかに受け入れた人間はいないのだと思った。何故なら行為が好きではないのだろうナマエは、たとえ上官だろうと襲われれば殴った経歴の持ち主だ。それが文句を言いつつも、こうして受け入れているのだ。この下手くそな感情表現と要望に、尾形は異常なまでの感情の高ぶりを感じていた。

この羞恥に溺れる表情も、とろけるような甘えた声も、全部全部自分だけのものだ。

すぐに犯したい衝動に襲われたが、それでも無理やり己の欲望を満たそうとはせずに感情をぐっと押し込んだ。己のゴツゴツとした指の一本に唾液を纏わせると、露わになった窪みへとゆっくり挿し込んだ。そこはしばらく外からの侵入を許していなかったのだろう。中は、きつく、指を押し返す。
ナマエも入ってきた異物に顔を顰めた。

「きついな」

そうは言いながらも押し入れられる指は止まらない。やわやわ解されながら奥へ入ってくる指に身体が震えた。そしてゆっくり沈められた指は、最後には奥まで入ることができた。するとぴたりと手が止まり、入口に指がもう一本添えられた。つぷ、と二本目の指が入ると一度ほぐれたそこは狭いなりにするりと受け入れられた。

「それ、もういい…」
「ん」

指を抜くと、熱に浮かされたように尾形は自分の軍袴の釦を外した。露わになった褌から自身を取り出すと、それは既に太く、血管を浮き上がらせながらそそり立っている。先口からはぬめりのある液体がこぼれて伝い落ちていた。表情こそはいつもとあまり変わりはなかったが、尾形も尾形なりに限界が近かった。

入口へと当てがい、小さな音を立てて先端が飲み込まれたのを確認してからゆっくりと腰を進めた。先に解しただけあって少しきつくはあるが、着実に前へ前へと進んでいく。自身の陰茎で押し広げられていくナマエの身体に、尾形は優越感を感じずにはいられなかった。

「はッ…きつい、力抜け」
「できな…いっ、ンっ」

遠慮なくずぷりと沈んでいく尾形の太い肉棒にナマエは息ができなかった。陰茎が沈み、押し広げられていく感覚が怖くなって、何かに縋りたくて思わず手を伸ばす。その先には覆いかぶさるように尾形の屈曲な身体があり、無我夢中で腕を回した。汗ばんだ身体が布越しに密着し、ふわりと汗の匂いが香る。

その唐突な甘えたに尾形は胸をぎゅっと掴まれたようだった。同時に腹の底からせりあがるような欲と喜びに突き動かされ、思わず勢いをつけて深くまで突いた。

「っあァ!!」
「ハァっ我慢ならん。動くぞ」
「ちょっンっ、待てってあッ、ダメだっ」

制止も聞かず、ゆるやかに腰を引くと狭い壁がぎちりと軋む。それでも腰を再度ゆるゆると奥まで入れ、また引いたりを繰り返していくと、慣れてきたのか動きが円滑になってきた。漏れる声もより高くなっている。
背中に回るナマエの手は襲ってくる快楽に耐えるようにぐっと力が入っていた。身体が引き寄せらると自然と顔の距離も近くなり、耳元で聞こえる嬌声が可愛くて仕方ない。

「ナマエっ、」
「尾形っ!…ハァッ、…んッ!」
「こんな時くらいッ、はッ、名前で呼べ」
「あッ、百之助っひッ!?アァッ」

自分の名前を耳元で言われると、尾形はたまらなくなって自身を一番深い所まで抉るように一突きした。そしてちょっとした悪戯心で、奥を弄ぶように腰をぐりぐりと押し付けると、あきらかに今までとは違った反応を見せた。試しにと探ってみると、それがどこか把握できるのにそう時間はかからなかった。わざとコツンと当てると小さな悲鳴が漏れる。

「ここか?」
「あっやめッ!はぁッんー!」

ナマエは全身を駆け巡る恐ろしいほどの快楽に、思わずぎゅっと目を瞑ると視界の情報がなくなった分、他の神経が余計に研ぎ澄まされる。自身を貫く肉棒の快楽に加え、ガツガツと身体をむさぼる音と二人の息遣い、嬌声だけがやけに大きく聞こえた。

「はッ」
「んっふぅ」

お互い頭も身体ももう、どろどろに溶けるほど熱い。ナマエが求めるように太ももにギュッと力を入れると、挟まれた尾形の身体はピクリと反応して一物もまた大きくなる。
そして腰を打ち付けられると、尾形と自身の腹に挟まれ、ナマエの陰茎は擦られて、突かれると同時に甘い刺激を繰り返された。

「もうッ、ふぅっ、百ノ助ッ」

あまりにも強すぎる快楽に、たまらず目じりにたまった涙が赤い頬の上をほろりと一筋流れる。それがひどく愛しく思えて、尾形は腰の動きを遅くしてその涙を舐めとった。不本意にもその泣き顔に、尾形の肉棒は更に熱を帯びる。一度緩まったその振動は、更に強さを増してただただ欲望のままに、一段と激しく交わった。

「っはぁ、ナマエっ好きだッ」
「!?」

尾形のぽろりと零れた言葉に、驚きからフッと力の抜けた瞬間、力強くナマエの良い所をガッと音が出るほど強く突き上げた。ぐりぐりと押し付けると、一度引き、また遠慮なくぶつけ、執拗に押し付けるのを繰り返す。

あまりの刺激にナマエは意識が飛びそうだった。
視界がチカチカして、声を抑えるなんて器用な事はできない。ストッパーの外れた頭はもうプライドも何もかもかなぐり捨てて自身の奥から何度もせり上がる欲に素直だった。

「あぁあッ、ッ!んあッもうダメだッ」
「はッ、逝けよッ…!」

尾形の下で嬌声をあげていたナマエの手に力が入ったかと思えば、太い陰茎を咥える根本が今まで以上に締め付けられた。その身体はふるふると痙攣している。全身を駆け巡る快楽に目じりは下がり、口は半開きだ。背中が弓なりになって艶かしい曲線美を描いている。
しかしナマエが身体をヒクつかせている間、ギュウギュウと締め付けられるその抵抗に逆らって容赦なく何度も何度も突き上げた。ナマエが逃げないようにとさらに身体を密着させ、陰茎をより深くまで犯す。

「くッ!あァ、出すぞっナマエ!!」
「あッはあッ!うんッ」

尾形がぐと一番奥まで突くと、そこで陰茎を大きく痙攣させた。ビクンビクンと脈打つ先口から、ナマエの奥にびゅっと熱が吐き出される。この逃亡劇の中で溜め込まれ、濃縮された精液が溢れんばかりに注がれていく。その熱さに、逝ったばかりの身体をまた震わせてナマエはそれを受け止めた。

「うっ…ぐッナマエッはぁ」
「ふぅ…ッ」

精液を出し切ると、尾形はまじまじととろけたナマエの顔を見た。色に溺れたその顔は可愛くて愛しくて、身体中が火照るようだった。

「はッ…ふぅっ…」

ナマエは尾形の身体に回していた手をほどいて、目を隠すように顔に乗せた。下半身をさらけ出している事も恥ずかしかったが、それよりも今の顔を尾形に見られたくはなかった。

乱れた息を整えるように大きく呼吸をするナマエと尾形は未だに繋がったままだ。ゆっくり、ゆっくりと栓を抜くように自分の肉棒を抜くと、抜かれた後もたらりと白い液がしたたり落ちた。やがて栓を失った、ヒクつく穴からはゴプッといやらしい音を立てて吐き出された精液がこぼれた。
むせ返るような雄の匂いと羞恥的な美しいその光景に、尾形は欲を吐き切った自身がまた芯を持ち始めた事を無視できなかった。

短い息を徐々に長い息へと切り替えていくナマエの不完全燃焼な陰茎に手を伸ばすと、まるで鳥の羽で触れるように優しく、軽く指先で触れた。

「な、に」
「責任とるって言っただろ」

ナマエは乗せた手を少し退けて、そちらを見ると未だに足の間を割るように鎮座する尾形が抑えきれない笑みを浮かべている。太い指で、ナマエのそれに触れると、ほんの少し触っただけでも感度が上昇した身体には大きな刺激だ。せっかく治まりつつあった火がまた燃えあがりそうだった。

「…も、好きにしろよ」

そうやって尾形に判断を丸投げして、自分はなんてずるい奴なんだろうかとナマエは自嘲した。結局途中からよくに飲まれたのは自分も同じなのだ。きっとこんな考えもこの男には見抜かれているのだろう。またも音を立ててあふれ出るその白濁に、不快感を覚えながらも嫌じゃないと思える自分の気持ちはまだ素直には言えないが。

くっくっと喉を鳴らして笑う男の手に手を伸ばすと、傷ついたゴツゴツした手が重なる。自分よりもひやりとしたその手に身体を委ね、ナマエは静かに快楽の中へと身を沈めた。

*

「…腰痛ぇ」

じわりじわりと痛みが押し寄せる腰を撫でると、ナマエは目を鋭くして尾形を睨んだ。
当の本人はあさっての方向を向いて知らんぷりだ。
腰痛の元凶は言わずもがなこの男であり、睨まずにはいられない。

「せっかく馬で行こうと思ったのにこれじゃ飛ばせない」
「ゆっくり行けばいいだろ。急ぎでもあるまいし」
「そうだけど、あんまり待たせるのも良くないだろう」
「どうせ爺さん達はまだついてねえよ」

やはり徒歩と馬では圧倒的に馬の方が早い。昨夜までは馬でも借りて行こうと計画していたが、腰がこれだと腰に響く。かと言って歩いた所で痛みは変わらないのだが。

「はぁ」

腰も重けりゃ気も重い。

「ほら、荷物貸せ。行くぞ」
「ん」
「はぁ。悪かった。でも後悔はしてねぇ」
でも昨日はよかっただろ。

なんてそっと耳元で囁くと、ナマエの顔がほんのりと赤くなったが、次の瞬間には眉間に皺が寄っている。それとこれとは話が別なのだ。いざという時使い物にならなければ困るのは尾形もナマエも一緒である。

「うるせぇ馬鹿」

そう吐き捨てて力の入っていないグーパンチを尾形にお見舞いした。

それは全く痛くもなく、ただのポーズであったのだが。それがなんとも可愛く思えて尾形はいつもより量が多い物が軽く思えるくらいには気分上々であった。




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視点がころころ変わってすいません。
男主裏夢はファンタジー。