寝かせる
「苗字」
「あ、風見さん。昼間に会うなんて変な感じですね」
「そうだな。今日も残業するのか?」
「えぇ。その予定ですが風見さんは…隈すごいですね、どうしたんですか?」
「…四轍目だ」
「寝て下さい」
資料室で今日もデータベースの更新と整理に追われていると、風見がひょこりと現れた。
会っているのはいつも夜中だったから分からなかったが、今の風見は苗字の目から見てもかなりひどい顔をしていた。主に隈だ。はっきりくっきりと目の下に疲労が浮かんでいる。心なしか頬もやつれているようだ。
「いや、今日は降谷さんが登庁する日なんだ…。夜までに、資料を作って渡さないと…」
「ちょっと意識朦朧としてませんか!?あぁもう言わんこっちゃない」
喋りながら風見の目が一瞬白目を向いていたような気がする。四徹もすればそりゃ意識も飛ばしたくなるか、と疲労困憊の風見をとりあえず自分の椅子に座らせると冷房対策にと持ってきていたブランケットをかけた。
「風見さん、今日お探しの資料は?それをまとめておけばいいんですね?」
「あぁ…今回は米花ビルが爆発した時の…」
「分かりました。椅子で悪いですけど寝ててください」
本来なら仮眠室行きだが、あいにく風見はそこまで持ちそうにない。
強制的に持っていたアイマスクをつけさせると、視界が真っ暗になったせいか机に突っ伏したまま動かなくなった。幸いにも苗字のいる部署は、皆暇そうにしているもののお喋りではない。静かな環境は寝るのにうってつけなのだ。文句を言う人もいない。風見が寝たのを確認してから、資料室に行き、寝ている風見の分の仕事に手をつけた。
*
「あ、降谷さん。お疲れ様です。予想より随分早い登庁ですね」
「苗字。風見を見てないか?」
夜、残業する人も少なくなってきた庁内で苗字は警備企画課のフロアへとやってきた。そこには今日もパリッとしたスーツを決めた降谷が、自分の席で座って作業をしている。そっと近づくと、この前よりも机の脇に積まれている資料の山が増えている。きっと風見が四轍して集めている資料だろう。
「風見さんなら四轍して昼から爆睡してます。代わりに一応資料まとめておきました。ないよりはマシだと思いますが、風見さんより出来は悪いかもしれません」
本当に倒れそうだったので風見さんを怒らないで下さいね、と付け加えて苗字は資料の上に更に紙ファイルをひとつ乗せた。更に高くなった資料タワーに降谷は少しうんざりしたような顔を見せたが、すぐにいつも通りのキリリとした表情になった。
「何かと手伝ってもらってすまないな。後で見させてもらおう」
「いえいえ。それじゃあ俺はもう行きますが、降谷さんも四轍なんかしないで下さいよ。隈、うっすらですけど見えますよ」
青い目の下に風見ほどとは言わないが薄らと浮かんでいる寝不足の証拠に、苦笑いをして指さした。きっと自分では気づいていなかったのだろう、降谷も苦笑いをして資料に視線を戻した。一瞬で切り替わるその集中力はさすがとしか言いようがない。邪魔をしないように静かに部屋を出ると資料室へと戻ってきた。いまだに机で寝ている風見をかわいそうだが起こしてやらねばならない。
「風見さ〜ん起きろ。降谷さん来たよー」
「ハッ!?降谷さんが来た?!」
「資料はまとめて渡しておきましたから、今夜はちゃんと寝て下さいね」