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「警備企画課の降谷だ。苗字、ひとつ頼みがあるんだが」
「お疲れ様です。また何かあったんですか?」
「いや、ちょっと気になる事があったんだ。とにかくこちらまで来てもらえないか?」
「分かりました。すぐ行きます」

相変わらず自分以外は無人のフロアでパソコンの画面を眺めながら手を動かしていると、ふと脇に置いてある内線用電話が鳴った。こんな時間に内線がかかってくるなんて、電話を取らなくても相手は分かるのだが。電話の向こう側で珍しく降谷が焦っているような気がして、苗字は足早に警備企画課のフロアへ向かった。

「降谷さん、お呼びですか?」
「苗字。呼び出して悪いな。パソコンを少し見て欲しいんだ」

ひょっこりと中を覗いて見れば、またも風見は席を外しているようだ。降谷は自分の席に苗字を座らせ、自分は近くから椅子を持ってきて一緒に画面を見られるように横に座った。画面には何の変哲もないブルーの背景といくつかのアイコンが並んでいる。パッと見ただけだとただのデスクトップ画面だ。

「このフォルダの中身なんだが、前に見た時と場所が違っているんだ」
「場所ですか。他には?」
「他は変わった形跡はないんだが、どうにも引っかかるんだ。風見が勝手にいじる訳はないし、」
「何か不審なメールを開いたとかは」
「あるわけないだろう」
「ですよね」

件のフォルダを開くと、なんの変哲もないのだが降谷にとっては自分が最後に使った記憶と相違があるらしい。普通の職員なら自分がやったのではないかと疑いたくなるが、降谷がそういうのだから、間違いはないのだろう。少しの間一緒に過ごしていると、このエリートがいかに優秀な人間なのか、いやでも分かるのだ。
手始めに内蔵されているセキュリティソフトを開き、異常がないか順次確認していく。その間二人は無言だったが、苗字は特にその静けさが気まずいとは思わなかった。

「もしかしたら誰かが降谷さんのパソコンをいじった可能性がありますね」
「やっぱりそうか」
「風見さんはそんな事しないでしょうし…、このフォルダ内には一体何が?」
「…俺が追っている組織の人間に、警察内部の人間が情報を漏らしている可能性がある。このフォルダには状況証拠と疑いのある人物のリストが入っていたんだが」
「となると犯人ですね」

だがデータが消えたわけではなく、順番が入れ替わったとなると何がしたいのかよく分からない犯人だ。

「このまま追跡を頼めないか?」
「もちろん。お任せ下さい。あ、でも」
「責任は俺が持つ。苗字はただ俺に頼まれたって言えばいい」
「助かります」

それならば心置きなく働かせてもらおうと降谷の席に座り隅から隅までパソコン内部を確認して回る。
すると犯人は随分うっかりさんなのか素人なのか。パソコンには疎く、かつ時間があまりないような状況でデータをいじったようだ。パソコンの起動時間や、データを編集した時間などはそのままだ。犯行の時間が分かればアリバイの確認ができる。更にいじられたデータを戻せばそれが更に強固な証拠となるだろう。これらをリストアップされた人物と照らし合わせれば犯人逮捕まではすぐそこだ。

「…ふむ。犯行時間は昨日の夜の十時ですね」
「昨日は風見も早々に帰したからな…、期待はできないが防犯カメラを見てみるか」
「もし編集をしてるなら違和感があると思います。とにかく行きましょう」

警備企画課から防犯カメラの映像を見るセキュリティ室までは距離が近い。足早に廊下を駆け抜け、その部屋までやってくると降谷は責任者に話を通す。普段は立ち入る事のないセキュリティ室は、苗字にとっては物珍しい。いくつものモニターとそれを監視する人間が座る椅子が何脚か置いてある。その中に見知った顔がいる事に、苗字はパチパチと瞬きをした。

「先輩、何してるんですか?」
「おぉ苗字。久しぶりだな。何って俺もこっちの課に移動になったんだよ。今日は日直。んで、お前なんでエリートと一緒にいるわけ?」
「うーん、ちょっと色々あって」

いくつものモニターを目の前に、紙パックにストローを突き刺しズズズと中身のない音を立てる男はサイバー課にいた時毎日見た顔だ。それが移動していたなど、自分の事で手一杯で苗字にとっては寝耳に水状態だった。だが知り合いがいなる話が早い。

「苗字、知り合いか?」
「サイバー課の先輩です。降谷さん。どうでしたか?」
「OKだ」
「よし、先輩それ貸して下さい。なんなら仮眠室で休んできていいですよ」
「なんだよ久しぶりに会ったと思ったら扱いがひどいな!」

まぁいいけどよ、とぶつくさ言いながら席を譲ってくれるあたりはやっぱり良い先輩だと思う。責任者の手でモニターにアリバイを確認するため時間を設定すると暗い画面の中で、何人かが残業をしている。

「おかしいですね」

一通り映像を見て、苗字は首を傾げた。一見何の変哲もない防犯カメラの映像だが、ひとつのモニターに映る廊下から歩いていれば遅くとも一分以内に階段にこの人が映っていなければおかしい。しかし映像はずっと無人の階段の映像を流している。

他に不審に動画の切れ目がないか解析ソフトにかけると、ある課が入ったフロアから警備企画課までの道のり全てがおかしい。そしてワンフロアを映した防犯カメラでは、疑惑リストにあがったリストの内残業をしているのが一人。

「後は証拠があれば大丈夫でしょう。後は任せても」
「あぁ。…この恩はちゃんと返すさ」