休む


「あの、すいません。これ落としました、よ?」
「っ!?」
「…あれ」

久々の休日。たまにはどこかに出かけてみようか、なんて普段とは違う事を実行したせいなのか。苗字と降谷は道端でばったりと出会ってしまった。
苗字は非番ながらシックな装いだったのだが、降谷は普段の雰囲気とは全く真逆のラフな格好にスーパーのビニール袋をいくつも抱えていた。その手に持ったビニール袋から零れ落ちたであろうオレンジをそっと降谷の抱えるビニール袋に戻し、さてどうしたものかとその顔を伺い見た。

「どうもすいません。助かりました。」
「いいえ、お買いものの帰りですか?」
「はい。バイトの買い出しで」

これは知らんぷりを続けた方がいいのだろうと判断し、それとなく聞いて見るともしかして、いやもしかしなくても潜入中のようだ。いつものキリッとした表情とは違って今はとても柔らかく笑う。声色や口調も違い、まるで別人だ。全く理由を知らない人が見ればきっと降谷なのかどうかすら疑問を抱くだろう。

(それにしてもアルバイトしてたのか)

昼間はアルバイトと公安としての捜査、夜は庁舎に戻って資料集めなど尋常じゃない忙しさを想像して苗字はゾッとした。前に風見は四轍をしていたが、この人は一体何轍しているんだろうか。

「よろしければそれ、ひとつお持ちしましょうか。今日は休みで暇なんで」
「そうですか?それじゃあお言葉に甘えようかな。そこの喫茶店、ポアロっていう所なんですけど」
「じゃあそのビニール袋もらいますね。さ、行きましょう」

驚くほどの好青年っぷりに苗字も少し微笑んだ。喫茶店で働いているならばきっと女性に大人気な事だろう。
申し訳なさそうにビニール袋を差し出すその手から、受け取ると中身がぎっしり入っているせいか袋ひとつでもかなり腕にずっしり来る。

「結構重いですね」
「ふふ、あなたも鍛えたらどうです?」
「…精進します」

それを降谷はいくつも持っているのだから、苗字には言いかえす言葉もない。帰ったら筋トレをはじめようか、なんて思いながら重いビニール袋をぶら下げて後ろをついていくと、バイト先の喫茶店は本当にすぐそこだった。ほっとするような木目調の店内に、女性が一人エプロンをして接客をしている。

「あ、安室さん!おかえりなさい!荷物、重かったでしょう。ごめんなさい」
「大丈夫ですよ、梓さん。手伝ってもらいましたから」

接客を終えた女性は降谷の持つビニール袋を持って大げさに驚いて見せた。後ろで見知らぬ男がもう一つビニール袋を持っているのだから、それは驚くだろう。降谷に従ってビニール袋を置くと、ようやく重さから解放された腕が随分軽く感じる。

「さてと、持ってきてくれたお礼にサンドイッチでも振る舞いましょう」
「ありがとうございます、安室さん」



「この後のご予定は?」
「暇なんで帰ろうかと。ふ、…安室さんは?」
「僕も今日はこの仕事が終わったらフリーなんです。どうです?一緒に食事でも」
「いいですねぇ。よろしければ俺の知り合いが店をやっているのでそちらで是非」


「あら、安室さんて男性にもモテるのね」