まだ見えない空を見る

「いつも神出鬼没で、私達の青春を駆け抜けて行った」

明日香がそんな言葉を口にしたのをぼんやりと聞いていた。

ほんの数分前まで間違いなくそこに十代は存在していたのに。

ほんの数分前までそこを照らしていたはずの太陽は今、完全に姿を隠してしまった。

彼は太陽のようであり月のようでもある、不思議な存在だった。

どちらもそこに存在しているのに突然いなくなる。

そこに確かに存在している筈なのに誰にも認識することができなくなる。

眩しいほどの輝きを放っているのに気がついた時にはそれは光を失っていた。

誰にも気付かれる事もなくただ静かに軽やかに月の影に身を潜めた。

そうして月になって雲に覆われた彼を皆が見失ってしまう。

光を失った私の前に広がるのはただただ暗い闇。


「名前、一緒に来るか?」

彼は私に砂糖菓子なんか目では無い程の甘い誘惑を目の前に差し出された。
それはなんと耽美で刺激的な誘惑であろうか。
しかし彼の心を読み取ってしまえた。
その心を払いのける事が出来る程私は幸福な女ではなかった。
愛の名の元に貴方と共に旅立てたらどんなに幸福であったであろう。
彼と離れたくないと心が泣いた。

それで私の心がいけない、と強く訴え気付けば首を横に振ってしまった。

「そっか、名前、本当にありがとう。···またな」

彼は私の答えを分かっていたかのようにあっさりと別れの言葉を口にして、私に最後の口付けをくれようとした。
しかしそれはほんのこぶし一つ分空いた所で止まり、そのまま私の髪を一房掬いあげそこに唇を落とされた。

そうしてどこか安心したような表情で微笑んだ。

彼は残酷な人だった。
誰もが焦がれる太陽のようであった彼。
いっそ出会わなければ良かったと思う反面、彼に出会えた事がこんなにも幸福だったという事を思い出させる。
自身を不幸になどさせてくれなかった。
嘘でも彼に共に行かないかと声をかけられた私は幸福でありそれを本心ではないと気付いてしまった私は不幸であっただろう。

触れられた私の全てをその太陽の熱で燃やしつくしてしまいたいと思った。
きっとわたしは髪を切るだろう。
最後に彼に触れた所など残しておいたりしたらそこから私は熔けてしまうだろうから。

これから先縁があれば恋人も作るだろう。
結婚して子宝にも恵まれるかもしれない。
きっとそれらを慈しみ、愛することにこなるだろう。




それでも、それでもきっと最期の瞬間想い浮かぶのは貴方の事なだろうとなんとなく分かっている。

どうかそんな私を許さないでほしい。

そして私は地に堕ちてもう一度、何度でも届かぬ太陽に恋い焦がれたい。

いつか私が月になる日を夢見て何度でも太陽(貴方)に焼き付くされよう。

貴方の一部になれる

その時まで

さようなら、愛しき人