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転校初日、普通はドキドキするんだろうけど俺は少し違った。
複雑な事情がある。
目の前の光景をどこか冷めた目で見ていた。

「林 透(はやし とおる)です。よろしくお願いします。」

俺の挨拶に、周囲からパチパチと拍手がなる。
事務的な雰囲気だ。
この高校は全寮制でレベルが高い。著名人も多く輩出している。それなのに自由な校風が売りだ。
そのため生徒も真面目一辺倒という雰囲気でもない。
対する俺はど真面目で地味なタイプ。
真っ黒い髪と目、中々日焼けしない白い肌が以下にもインドアって雰囲気の人間だ。
自分でも客観的に見て、ここにいる人達とは合わないなと感じる。
きっと自分に興味を持つ人間たちもいないだろう。

「林くんは今日からこの二年三組の仲間になりー」
「すみません!遅れましたー‼︎」

担任が説明をしているところを遮り、明るい声が室内に響いた。

「天道‼︎寮から教室まで10分だってのに遅れるなよ。」
「えー、15分はありますよ〜」
「もー、お前という奴は…」

教室に入って来たのは、金髪の派手な生徒だった。
自由な校風とはいえ、金髪は目立つ。
それに加えて、彼は美形だった。
垂れ目がちな目元の涙ぼくろと、ニット笑うたびに見える八重歯が印象的。
そしてなにより、この生徒が入ってきてクラスの雰囲気がガラリと変わった。
明るくなって、笑い声が聞こえる。
きっと、人に好かれる奴なのだろう。
顔も良くて、明るくて、人気者的な?

「あれ?先生、この子…」
「…」

やっと気づいたらしい。
天道は俺をじっと見つめる。

いや、てか…見過ぎだ。
俺は居心地が悪くなり目を逸らした。
変な奴。

「先生、俺の席はあそこですか?」
「あぁ、そうだ。天道、ちょうど良いから案内してやれ。」
「はーい。」

天道の視線は苦手だ。
キラキラし過ぎて眩しいからか?
キラキラというか、ギラギラしている気すらする。

もやりとした感情が芽生えたが俺は深く考えるのも面倒で、さっさと席に向かった。

その日は当たり障りもなく1日が過ぎた。
問題が起きたのは翌朝からだ。

「田中、おはよう。」
「……おはよう。」
「?」

この学校の寮は2人一部屋だが、俺のルームメイトである田中が朝から妙によそよそしい。
というか、怪訝?
態度視線に負の感情が含まれている気がした。
思い当たるところは何もない。

同じクラスなのに、関係が拗れると面倒だな。

「…田中、なにか」
「じゃ、俺、先行くから。」
「あ、うん。」

何かあったか?そう言おうとするも、さっさと行ってしまった。
怒ってる?
俺の頭の中ではクエスションマークが飛び跳ねる。

そしてクラスに行くと、その違和感は更に強くなった。

「おはよう。」
「………おはー」

皆、なんでそんな目で見る?
明らかにクラスの皆がよそよそしい。
ま、向こうから近づいて来ないならそれで良い。楽だし。
そう思い俺が次の授業の教科書を読んでいる時だった。

「おはよー!」

またあの明るい声が教室に響く。
天道だ。

「ねーねー、天道、聞いてよ。」
「なになに?」

早速入り口付近にいた田中が天道を呼び止める。
ヒソヒソとこちらをチラチラ見ながら話している。
いいけど。その態度には腹が立つな。

「ーえー!まじで?」

で、なんだ?
天道の大きな声がきこえる。
人の話を盗み聞きなんてしたくない。
しかしよく通る天道の声は嫌でも聞こえてしまう。
今朝の田中の態度から苛々しているんだ。
俺は首鳴らして顔を上げると、チラリと天道の方をみた。

「それって、相部屋の奴が犯人しかないだろ!」

なんだ?犯人?

「やっぱり⁈天道もそう思うよな⁈」

天道の言葉に田中が食い気味に頷いていた。
そしてその周りにいる奴らも、何やらうんうんと一同に頷いている。

「そう思うよ。だって、朝起きたら田中のPCが壊されてるってさ、寮室がオートロックだから、鍵持ってる奴しかできな……え、て、田中の相部屋って…」

なるほど。

一瞬、クラス全員の視線が俺に向いたのを感じた。
そして奇妙に、時間がぴたりと止まる。

田中のPCが壊されて、俺がその犯人だと思われているのか。
そんな事、するわけないだろ。
田中がPCを持っている事自体、今知ったレベルだぞ。

よし、それなら…。
さっきから俺も苛々していたんだ。
皆の注目も浴びている所だし、ここで一発バシッと…

「田中ー」
「まーまー、一旦落ち着こうよ皆!」

俺が立ち上がり口を開いたところで、天道がパンパンと手を打った。

「まだ、決まったわけでもないしさ。こういうのは、良くない。良くないよ〜。」
「んー、まぁ…な…。」

天道の声に渋々と田中が頷く。
それに釣られて周囲の意識が俺からそれた。

なんか…。

「…」

引っかかるものはあるが、もうこの話には触れてはいけないと言う無言の圧力を感じる。
俺も口を閉じて再び席に座った。

その後は最悪だった。
そもそも俺は他所者で、得体の知れない存在だ。
疑われて、変な憶測が広まるには充分な存在だった。
結局それから1週間が過ぎても、俺は犯人のままだった。

———-

「……はい。そうです。はい。…気をつけます。」

真っ暗な中庭の街灯の下、電話を終えると俺はため息をついた。
定時報告も大変だ。
それに俺は今、虐められてるんだぞ!
あー、全てに腹が立つ…。
学校でも、部屋でも。心が休まる場所がない。
ほっとかれるのは楽で好都合だと思ったが、誹謗中傷の対象になるのは疲れる。

…もう、こんな事には関わりたくなかったのに…。

「やな事思い出したっ!くっそ〜っ、はぁぁぁあああーーーー‼︎」
「ため息すっご!」
「‼︎」

天道!
あまりに急な登場に、俺は軽く飛び上がる。

「あははは、猫チャンみたい。」

しかし当の本人である天道は呑気に笑っていた。

「…天道」

そして俺はそんな天道の笑顔を見て、不覚にも安心していた。
まさか俺が天道に?自分でもそう思うが、敵意ない視線を向けられたのはいつぶりだろう。

あれ?俺、もしかして結構きてる?

「林くん、なんかあったの?」
「……知ってるくせに…。」
「え?」
「あ、いや。ごめん。」
「?」

折角『普通』に接してくれたのに、嫌な対応をしてしまった。
俺は慌てて謝った。
最近やさぐれてるからって、声をかけてくれた天道にあたるわけにはいかない。

「林くんって、独りが好きなの?」
「…嫌いじゃないよ。」
「ふーん。だから、いつも独りなの?」
「…」

本気で言ってるの?この人。
もしかして嫌味か?それにしては、相変わらずキラキラした笑みを浮かべている。

俺はぽかんと天道を見返すが、天道は相変わらずニコニコしている。

「俺…嫌われてるから。」
「え?」
「天道も聞いたろ。俺が、田中のパソコンを壊したとかさ。」
「…あぁ…」

流石に超能天気な天道も気づいたらしい。
笑顔を引っ込めて、すっと気まずい顔になる。

「……林くん」
「やるわけないだろ。」
「…うん。」

語尾が自然と強くなる。
もう言われもない罪を責められるのは散々だ。
天道が僅かに息を呑む気配がしたが、結局は頷いてくれた。
心なしか、頷くその声が優しかった。

「…林くん、俺は…他の奴が、根暗とか、陰湿野郎とか、林くんの事を何と言っても信じるよ。」
「…うん。俺…、そんなボロクソ言われてんのか。本当、あいつらムカつくな。」

さらりと言われた陰口が凄い。
俺の指摘に、天道が「あっ!」という顔をした。
こいつ、喜怒哀楽が出まくるタイプだな。

「あっ、やっ、…っ、ちがっ、違う違うっ!今のは…っ、そのっ!」
「…ふっ、」
「?『ふ』??」
「あははは、天道、テンパり過ぎだろ。」

美形な天道が漫画のようにアワアワと慌てるので、俺は吹き出して笑ってしまった。
派手な見た目の天道が慌てる様は、アンバランスでおかしかった。

「ははは…」
「ふ、ふふ、」
「ふふふ」

その後は2人で意味もなく笑った。
久しぶりに笑った。
少しだけ冷えていた体が温まった気がする。

「あはは、林くんって面白いね!」
「ふふ、面白いのは天道だろ。」
「そんなわけないよ。あー、笑ったぁ〜。意味分からん。」

天道はまだクスクス笑っている。
そんな天道を見て、俺もまた笑った。
あまりに陽気な奴なので苦手意識があったが、きっと天道はすこし天然だ。それ故の無邪気さで皆に好かれているのだろう。

「ねー、林くん、もしかしなくても、田中とずっとギクシャクしてる…よね?」
「…ギクシャクどころじゃないよ。すっごい嫌われてる。」
「…ならさ、俺が田中と変わって寮の相部屋になろうか?」
「?なに?そんな事、無理じゃない?」
「いや、いけるよ。寮の管理人さんって、どっからか天下りしてきた爺さんで、俺達に関心ゼロだから。皆、割と勝手に部屋交換とかしてるよ。」
「うーん…。」

田中に比べれば、自分に敵意のない天道との相部屋は有難い申し出だ。
しかし、そうして田中はどうだろう?
更にこじれないか?

「折角の申し出だけど…」
「田中もそうしたいって。」
「え?」

断ろうとすると、俺の言葉を天道が遮った。

「田中が?」
「…うん。なんか…ごめんね。田中、部屋を変わりたいとか…」
「…」

俺は口をへの字に曲げて考えた。
ま、そりゃそうなるよな。

「ねぇ…どうする?」

俺は天道の再びの問いかけに答えを出した。

———
「じゃっ、今日から宜しくね!」
「宜しくな。」

結局、天道と田中には部屋を変わってもらった。
天道は段ボールを抱えて、ニッと笑っていた。

相変わらず呑気だな。
天道を見てそうも思ったが、きっとこれが一番良いんだろう。
田中の怒りが冷めたら、また話そう。

「ちょっと、自室に戻るから、手伝える事あったら呼んで。」

天道に背を向けた時だった。

「林くん」
「っ!」

び、びっくり…。
急に天道に抱きつかれた。

「な、なに?」

いや、男同士でこんなスキンシップしないだろ。
少なくとも俺は慣れていない。
俺は振り向きつつ、やんわりと天道を押し返す。

「……これから、宜しくね。」
「…っ、うん。」

天道が俺を見てニッと笑った。

その瞬間、俺の中の穏やかな時間に、ピシリと亀裂が走る。
ゾッとするような、ソワソワするような、この視線。
あぁ、そうだ。
初めて天道にあった時と同じだ。
あの時も天道はこんな風にニッと笑って、上から下まで俺を見た。
舐めるように…。

いやいや、天道は凄くいい奴なのに、何言ってんだ俺。

「えっと…、ぁ、こ、こちらこそ宜しく。」

天道はフッと笑うと、再び部屋の整理に戻っていった。

「…俺…ちょっと買い出しに出る。」

ちょっと変な空気だ。
理由を付けて外に出たかった。

「そう?俺もここだけ片付けたら、外に出るけど…」
「じゃぁ、終わったら連絡して。先に出てる。」

きっと天道は待っていてと言いたいんだろう。
しかし俺は気づかないふりで、足速に部屋を出た。

———
「…田中…」

買い出しが終わり俺が寮の前にさしかかった時、丁度寮から田中が出てきたところだった。
よし。
良いとは言ったけど、きっと部屋替えの時多少なりとも天道と何か話したはずだ。
話しかけてみよう。

「田中。」
「……なんだよ。林。」

いや、そこまで?
田中は俺を見て、明らかに顔を歪める。
この様子じゃ、誤解は誤解のままだな。
田中の態度にこちらもつっけんどうになりそうになるが、俺は努めて愛想良くした。

「パソコンの件だけどさ、」
「あー。なに?今度は自分がやったわけじゃないとか言うの?」
「え?あ、…うん。そうなんだ。てか、今度はって、なに?」
「はっ、天道から聞いたよ。」

今度は?天道から?
というか、前より俺の事を嫌っていないか?

「お前、良かったな。天道と相部屋になれて。」
「え?」
「お前、皆と馴染めないからって天道に部屋の交換を頼んだんだろ。」
「はぁ?」

なにそれ?流石に意味が分からない。
俺が思わず貼り付けていた愛想笑いの仮面を剥ぐと、田中は更に眉を顰めた。

「言っとくけど、お前が問題起こして、天道の気を引いて取り入ったって、誰もお前の事なんか認めないからな。せいぜい、これ以上天道に迷惑かけるなよ。」
「は?だから…ちょっ、田中…っ」
「もう俺には金輪際話しかけんなよ。」
「田中!」

ダメだ。
田中は言うだけ言うと、さっさと行ってしまった。
意味がわからない。

俺が天道に頼んだ?
何だそれ?

俺はその場で立ち尽くす。

「………最悪…寮部屋の鍵忘れた。」

部屋はオートロックだから、鍵が無いと入れない。
さっき慌てて出て来たから部屋に忘れたんだ。

「はぁー…」

俺は重い足取りで寮の管理人室へ向かった。

「すみません。」
「はい?」

管理人室の外から声をかけると、めんどくさそうに奥からおじいちゃんがひょっこりと顔を出す。

「鍵を持たずに出てしまって、スペアキーとかないでしょうか?」
「あー、またか…。」
「え?」
「…」

舌打ちをして、管理人さんは再び奥へ引っ込んだ。
ざわざわと胸騒ぎがする。

『またか』?

「はい。これ、マスターキー。直ぐに返してね。」
「はい。ありがとうございます。…あの、『また』って…」
「あー。最近多くてね。毎年半年に1、2回はあったけど、先週同じ事があったばかりだったから。まだ4月だってのに…。」

先週。
田中のパソコンが壊れたあたりじゃないか。

「その時、マスターキーを借りたのって、どんな生徒でした?」
「はぁ?そんなのいちいち覚えてないよ。あ、でもー」

管理人が言いかけた時だった。

「林」
「天道…」

天道が玄関にいた。

「どうしたの?」
「あー、鍵…忘れて出て。」

天道は笑っていたが、その笑顔が嘘っぽい。

「それなら電話くれればいいのに。」
「…そうだったね。」

天道は俺の手からマスターキーを取り上げると、パッと管理人さんに渡した。
そして強引に俺の手をひき歩き出す。

「ちょっ、天道…っ!」

部屋に着くと、天道はこちらを振り返りまた至近距離で俺を見下ろす。

「林…」

なんだよ。
やっぱり、天道は胡散臭い。
俺は密かに身構え、天道の言葉を待った。

「夕飯食べに学食いく?」

しかしそのあとの天道の言葉を聞いて、がくりとよろける。
天道はニッと笑っていた。
まるで何もなかったかのようだ。
天道の空気の変わりようが激しくてついていけない。

「……いや…。俺、今夜はもう寝る。」
「そう。」

結局俺は夕飯も食べる気になれず、シャワーを浴びると直ぐにベットへ直行した。

—————-
ちゅっ…、…っ…

「…」

その夜、俺は柔い感触と衣擦れの音で目を覚ました。

「…こんな事がしたくて田中のパソコン壊したのか。天道。」

仰向けの俺の上には、天道が乗っていた。

「…」

くそっ。

さっきのセリフは、半分カマをかけたつもりだった。
しかし天道は俺の言葉を聞いて否定も肯定もせず、ただ口の端を上げて笑った。

こいつ…
やっぱり、そうだ。天道が真犯人なんだ!

俺の中で色々な疑問が解消され、すっと一本に繋がった。

「とおる……」

そんな俺をよそに、天道は再び乱された俺の服の中に顔を埋める。

「お前、何がしたいの?」

俺は、呆れと怒りで気持ちが変に冷めているのを感じた。天道を睨む。

「透…、決めてよ。」
「なにを?」

天道の声はまるで恋人に囁くように甘かった。
だから俺は、なんでこいつこんなに甘い声で話しかけてくるんだろう。
馬鹿じゃないのか。
そんな苦々しい気持ちだった。

「今すぐ俺のことを好きになって俺のものになるか、今後俺のものになるしかなくなるか。」

意味が分からない。
天道は俺の上で、何処か勝ち誇った様にニヤリと笑う。
それは、言うこと聞かないとまた嫌がらせをするって警告か?
田中の事件みたいに。

「…」

無言の俺を見て、勝手に都合よく解釈したようだ。
機嫌の良さそうな天道。
手つきだけは優しく、俺の顎に手を添え親指で唇を撫でる。

「好きだよ…ずっと、好きだったよ…」

そのままかがみ込んできた。
しかし俺はすっと、手で天道の口を塞いで進行を妨げた。

「俺は嫌いだよ。」
「…」
「天道、俺は、お前が、嫌いだ。」
「……ふっ」

区切り、はっきりと。だって俺は明確に意思を伝えたかった。
お前が嫌いだと。
天道は一瞬びっくりした顔をしたが、次の瞬間には空気が抜けるように笑っていた。

「そっか。」

天道は自分の口を抑える俺の手をとり、ちゅっとキスを落とす。

「俺、可愛がるのと同じくらい、虐めるのが好きなんだ。」

そしてまたニッと笑う。
あの嫌な笑顔だ。
そうか。今こいつが俺にやっている行為から理解した。俺がこいつの笑顔を嫌いなのは、こいつが俺を見る視線に欲情が混じるからか。

「いいから退け。」
「おっ、」

俺は天道をベットから押し出した。

「ふふっ、透、いつかきっと、透から俺に縋り付いて、俺のものにしてくださいって言う日がくるよ。」

天道はまるで俺の行末が分かったような口振りだ。
余裕ぶっこきやがって。
腹が立つ。

「田中のパソコンを壊した真犯人だけどさ」
「…」

俺の言葉に天道がピクリと反応した。

「こういう仮説はどうかな?管理人室からマスターキーを借りて夜中にこっそりこの部屋に入った。そしてパソコンを壊した。」

天道は俺の仮説を聞き、ふっと笑い首を傾げた。

「どうかな?だってこの部屋で田中も寝ていたんだろう?」
「でも皆、寝る時は寝室のドアを閉める。閉めたら音は聞こえない。」
「そうかな?」
「しかも田中って、寝ながらなんか聞いてない?」

天道はふぅん。と悠然と笑っていた。

でもこの説は有力だ。この寮は部屋が広めだ。
勉強会机が置かれた共有スペース、その隣にドア付きの寝室が一部屋づつある。
皆、パソコンや勉強道具は共有スペースにおく。田中もそうだった。
それにあの日田中の寝室からは音がしていた。
多分寝ながらスマホで映画でも見ていたんだろう。

「んー、でもマスターキーって…どうやって手に入れるの?大体その仮説って、同室の人がパソコンを壊せるって事をより有力にしているだけじゃない?」
「管理人に言えば、簡単にマスターキーを貸し出してもらえる。つまり管理人に話を聞けば犯人の事を覚えているかも。」
「いやいや〜、透、俺が前にも言ったでしょ。この寮の管理人は、いちいちそんなの覚えてない。俺らや、俺らのする事に興味ゼロだよ?」
「でも、管理人室の前には防犯カメラがある。」
「防犯カメラの映像見せてくださいって?そんな面倒な話、あの管理人が聞くかなぁ?」
「聞くよ。この問題って、管理人の責任問題にもつながるだろ。ていうか、そうやってあーだこーだ言えば、めんどくさがって映像くらいすぐ見せてくれそうじゃない?」
「てか、シロート?が、防犯カメラの映像なんか見て何が分かるんだよ?映っていたとしても、後姿くらいだろ。」
「普通はそうかもな。だけど、映っている犯人が目立つ人物ならそうもならない。例えば……金髪とか。」
「…」

ここまで言って、やっと天道は黙った。
まだ笑っているのが気にはなるが…。

「ふふ、いいねぇ〜」
「……はぁ?」

気づけば、天道は悦楽の笑顔だった。
俺はそんな天道に眉を寄せる。
本当、頭おかしい、こいつ。

「透…」

あ、思えばまた天道が近い。
そう思った時には遅かった。
天道はベッドに乗り上げ、座る俺を壁際まで追い詰めていた。
そして徐に俺の背にある壁に手をつく。本格的に逃げ場のない俺へ天道はさらに迫る。

「そう…もっと見て…もっと俺だけを見て…。今みたいに。俺の事だけ、ずっと考えて。すーーーーっと、おかしくなる位、俺の事で頭いっぱいにして。」
「…っ」

天道の息は心なしか乱れ、頬が蒸気している。
その表情は悦楽。

な、なんだよ…これじゃまるで……。

鼻先が触れる距離で天道の興奮した息がかかり、俺はぞっとした。

まるで、レイプされているみたいだ…。

そして情けない事に、反射的にシーツを握りしめて縮こまる。
案の定、そんな俺を天道が鼻で笑う。その一方で、舌なめずりしているからたちが悪い。

「っ、うるさいな!とにかく、俺は真犯人を絶対に吊し上げてやる。」

耐えられず、俺は虚勢をはって天道を押しのけベットから降りた。
そして寝室のドアを開ける。

「天道、お前ももう出ていけ。」
「まだ遊びたいのに」
「俺は寝るから。」
「俺は寝ている透とでも楽しめるよ♡」
「っ」

これまでの流れから、それは変な意味に聞こえる。
もう我慢の限界だ。
俺は天道をベットから無理矢理引き摺り下ろし、ドアの方へ押した。

「あはははは‼︎」  

天道はただただ愉しげに笑っていた。
天道と触れたところから伝わる熱と、男らしく筋肉質な硬い身体。
馬鹿みたいだが、今はそれが怖い。
だってこいつにとって俺は『対象』だ。
早く追い出して…こいつから離れたい。

「あー、そう言えば仮説の続き」

やっと自分で歩き出していた天道が、チラリと流し目で俺を見る。

「防犯カメラに犯人の背が写っていても、犯人は帽子かフードを被ってるかも。」
「!」

天道はニッと笑う。
いつもの様に八重歯を見せて。

「最近寒いよね〜。いつでも添い寝してあげるからね。」

月明かりの中で笑う天道は吸血鬼の様に美しく、不気味な程に不動の強さを感じさせた。

真犯人は天道。
天道に、勝つ方法は…?
 
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GARDEN/U N I O N/溺愛/至上主義