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さらら…
髪を誰かに解かされる。
ねっとりしており、少し不快な触り方だった。

眠い…
あれ、俺は寝てる。ベット?
何でベットで寝てるんだ?
寝る前は何をしていたっけ?

『俺の誕生日にー、彼女が、リボンつけてさ、「おめでと♡」って』
『ははは‼︎ばっか!お前ら何やってんの⁈』
『えー、良くないすか?』
『まー、羨ましいけど。』

あー、この会話。
会社の後輩の、後田とやったやつ。
で、この会話はどこでやったっけ?
なんだっけ?

『こら!無駄話やめろって!早く終わらせろよ』
『『はーい』』

そうだ。
あの日は顧客に急に納期早めろって言われて、急ぎで資料を作っていたんだ。
でも作業は会社でやっていた。
その後は…

『たく月曜日から災難ですね。』
『なー。てか、華川ー、今日までの分、プログラム修正できたー?』

そうだ。
俺は嫌々、同期の華川にプログラムの出来高きいて。

『出来てるよ。』
『すげー!華川さん、流石‼︎もー、華川さんあってのプロジェクトっすね‼︎』

後田が華川を持ち上げてキャンキャン言っているのを、イラついて聞いていたんだ。

んで、もっと最悪な事に

『華川さんのおかげで間に合い…わー!終電‼︎すみません、俺はこれでっ!』
『あ、おい』

後田は嵐のように帰って行った。
気がつくと課長も帰って、オフィスには俺と華川だけ。

『山田、終電、まだあるの?』
『えー?あぁ…ま、俺はタクるから』
『なら、俺と相乗りしようよ。』
『あー…』

で、帰る途中いきなり俺は腹を下して、一旦華川のマンションに入れてもらって。
なんやかんや、流されて泊まることになって…

て、手がうざったいな‼︎
いつまで髪触ってんだ!

俺は自分の頭を撫でる手を振り払った。

「んん〜」
「…」

そのまま寝るはずが、払った手を誰かに掴まれた。

その手にぷにっと柔らかい感触。

「ちゅっ」

ちゅっちゅっと音がする。
…ちゅ?

「何してんだ⁈」
「あぁ、おはよう。山田。」

素っ頓狂な声を上げる俺に、華川は綺麗な王子様スマイルで返してきた。
背景に花を散らすな!イラつくな…。

「そうか、あの後、華川泊めてくれたのか。ベット占領してごめんな。」
「うん。全然いいよ。」
「じゃなくて‼︎」
「?」

じゃなくて!
華川が普通過ぎて危うくながされるところだった…。

「何⁈今、何してた⁈」
「キス、してた。」
「キス⁈」

俺は不快感露わに眉を寄せる。
ただでさえ俺は華川が嫌いだ。
あまつ、何してんだって話だよ。

華川は俺と同期入社。
俺は営業。華川はエンジニア。
華川は甘いマスクで、女にモテモテ。
仕事も出来る。
そんなのと同じ課に配属されて、俺はずっと面白くなかった。
だって!俺も実はそこそこモテてきた‼︎(自称じゃないぞ!)
そこそこな人生を歩んできた。クラスカースト上位で、彼女もいる。仕事だってできる方だ。
しかしこいつといると、俺は霞む。
しかもこの華川、天然?なのか何なのか、ぼやっとしていて人当たりがいい。
いつもニコニコ人好きする笑みを絶やさない。
後輩にも好かれる。
俺の性格はキツイところがあるから、あえて言うなら後輩人気では華川に惨敗だ。
男からの支持とかどうでもいいけど。
そんなこんなで俺はこいつが嫌いだ。

「なんだよキスって。意味わかんね。」
「それは…俺が…山田を…、俺が山田を好きだから。」
「…………」

俯いた顔を赤らめて、華川は当然そう宣った。
部屋がしんっと静まり返る。
こいつ急に何言ってんの?
俺は思わず口をぽかんと開ける。
話の展開についてけない。
しかし思えば、よく華川の視線を仕事中に感じる。
今の妙なもじつきといい、嘘を言っている様には見えなかった。

ふーん…
…なんだろう、この気持ち。
悪くない。的な?
へー、こいつ俺が好きなの?
ふーん。
ってことは、俺の匙加減でこいつが喜んだり凹んだりするの?
やばいなそれ。控えめに言って…最っっっ高‼︎
俺が上じゃん!

俺はニヤケそうになるのを必死で押し留めた。

「本当?」
「本当だよ。」

含み笑いで聞く俺に、華川は真剣だった。
内心爆笑だ。
うんうん。嘘は言っていないな。

「へー。で?なに?」

意味わからんけど、勝ち戦って感じ?
俺は妙な自信に、華川のベットの上で我が物顔で偉そうにふんぞりがえって聞き返した。
早く言ってみろよ。

「付き合って欲しい。」

やっぱりそう言うやつか。

「いいよー」
「そうだよな…流石に…え?」

しゅんとしていた華川は、俺の言った言葉を後から理解した様子で固まった。
じっと綺麗な造形の目がこちらを向く。

「あ?何ビビってんだよ。だからいいよって。」

俺は華川のベットの後ろ手をついて座り、ちょいちょいと偉そうに華川を呼んだ。
どうやら華川はOKが出るとは思っていなかったようで、目を白黒刺せてる。
心ここに在らずでフラフラと俺に寄ってくる。
イケメンのアホな顔。いいねー。

「や、山田…」
「何?華川?」

いつも澄ました顔の奴が、キョドキョドしててウケる。
俺はにっこり笑ってやった。
自分よりがっちりしているが、抱きしめるくらいしてやっても…

「…ん⁈」

しかし華川は俺の想像を軽く超えてきた。
キスをしてきた。しかも口。
それは流石にふざけんなっ!

「こ、こらっ!」
「!」

俺は咄嗟に、華川を足で自分から引き離す。
華川はまたきょとんとしている。
腹立つ顔だな。

「それはダメだろ!」
「でも付き合うんだよね?」
「…っ、付き合った初日からベロチューとか、ダメっ!」
「…なるほど。」

てか、好きでもない男とキスとか勘弁。今時男同士にひくことはないけど、そもそも俺は華川が嫌いなんだ。

俺の苦し紛れの言い訳に、華川は神妙な顔で頷く。
やっぱり天然…ていうか馬鹿だなこいつ。

「てか山田、そんなウブだったの?入社してから同期の川村と付き合って三日後にやってるだろ?その後は総務課の白山と。こっちは二日目で。その次の…」
「待て待て!」

俺はさっきは自ら離れた華川に今度は飛びつき口を塞いだ。

「なんでそんなの知ってんの⁈」
「…いや。まぁ…」

歴代彼女はまだしも、何でやったのがいつとかまで知ってるの?
ちょっと引く。
え。盗撮とかしてないよな?
てか華川はいつから俺に好意を持っていたんだ?

「兎に角、キスぐらいって言うかと思った。」

そう言って、華川はしゅんとする。
顔がいいから、さっきからその庇護欲をそそる素振りが無駄に腹立つ。

「つ、付き合うけど…急と言えば急だろ?お前と俺ってそんな雰囲気なかったし。」
「…そうだよね。俺、山田に嫌われてると思ってた。」
「そ⁈」 

バレてた!
まぁ、そうか。あからさまに避けてたしな。

「そんな事ない!それは、あれだ…好きの裏返し」
「え?つまり…」
「俺も。俺も華川が好きだ!」
「!…そっかぁ〜」

華川はにへら。っと笑った。
呑気な奴だ。

「でも、証明して欲しいんだ。」
「証明?」
「そう。」

さぁここからが、面白いところだ。

「お前の気持ちが本当って証明してよ。だって、そのー、未だにお前が信じられない。例えば…俺のために、あの急に納期縮まった案件を今週中に終わらせるとか?」
「…」

俺は手を合わせて上目遣いに華川を見上げた。

「お前がそれを出来たら信じる♡」

男がこんなの媚びるの寒くて笑えるけど、こんな俺の為に華川が頑張ったらもっと笑える。
今日が火曜日。まだ朝だとはいえ、他の仕事だってある。そんな中、水曜日、木曜日の二日間徹夜しても、金曜日に終わるかは怪しい。
せいぜい頑張って苦しめ。

内心笑いが止まらなかった。
これから華川を存分に弄んでやるか。

————
「山田先輩、あの納期早まった件って、更に納期早まったんですか?」
「え?そんな事ないけど?」
「ふーん?」

水曜日の夕方、後田がコソコソと聞いてきた。
何事?

「やー、昨日の夜、華川先輩、結っ構ー、こんつめてやってたみたいで…」
「へー」

はは、笑える。
やっぱ真に受けてやっているんだ。
しかしチラリと見た華川はいつも同様、綺麗な横顔だった。
もっとあからさまにやつれたら面白いのに。
まーそれが見えるのは、金曜日あたりか?

「!」

ぼんやり見つめていると、ぎょろりと横目でこちらを見た華川と目が合った。

「  」

華川は何か口パクで言うと、ふっと笑った。
その後はすっと俺から視線を逸らし、また画面を向く。

『すき』

「…なんか、ホラー…」
「へ?なんすか?」
「何でもねーよ。」

首を傾げる後田を小突き、俺は居室を出た。

「さやかー」
「あ、遅いよ、山田!」
「ごめんごめん」

一階に降りると、怒った顔のさやかが居た。
俺はさやかに駆け寄る。

「じゃ、いこっか」
「おお。あ、そうだ、さやか、今晩泊めて〜。」
「えー?良いけど…週末じゃないのに珍しいね?」
「んー…口直し…的な」
「はぁ?何それ?まさか浮気してないよねー?」

俺の呟きにさやか笑っていた。
俺も笑った。
あー、因みに、これはさやか。俺の、彼女。
華川は一応彼氏?になるのか?
まーすぐ別れるし、どうでもいいだろ。

俺はこの時、かなり呑気だった

———
木曜日の朝、華川は見た感じそこまでいつもと大差ない。
でも時々欠伸をしているので、疲れては居そう。

「思ったよりもつまんねーな。」

俺は独りごちてコピー機を操作していた。
あ、しかも紙切れか。めんどくさー…。
俺は気怠げに備品室の扉を開けた。

「はぁ、A4用紙高い段にしかないし。ついてないなー」

俺だって身長170センチなのに。
手が届かない。
俺は背伸びして手を伸ばした。

「お、わっ‼︎」

そこで後ろから押さえ込まれた。
不意打ちすぎて、心臓がどっと騒ぐ。
なんだなんだ⁈

「か、華川⁈」
「…」

華川だった。
後ろから俺の両手の指の間に指を絡ませ、後ろから抱きついてきた。
すんっと、俺の首筋で奴の鼻が鳴る。
華川の付けている香水が鼻腔を掠める。
その香りは当たり前に男ものだ。
気持ち悪い。

「はー、山田…疲れたから…ちょっとチャージさせて。」

抱きついてチャージって、彼女かお前は!
いや、今のところ、彼女?彼氏?なんだっけか。
めんどくさい。

「いやっ、意味わかんね。てか、死ぬ程びっくりしたし!ちょっと離れ…ひっ!」

び、びっくり!
後ろから頬擦りされた。
ぞわわっと、鳥肌が立つ。
濃い見た目に反して、案外お肌きめ細やかですね!

「山田、浮気した?」
「あ?な、何のことだよ…」

華川は体が大きいからか、すっぽりと華川の腕の中に収まってしまう。まるで俺が本当に女みたいだ。
さりげなく腕を振り解こうとするも、難なく制された。
力強いな。

「…他のやつの匂いする」
「…」

犬かよ!
確かにさやかの家から出社したし、昨晩は一緒の布団で寝た。
多少の匂いはついてそうだけど…。

「した?」
「そんなんしてないし…てか、まだ『証明』期間だろ!彼氏面されると萎えるんだけど?」

別に狼狽える言われもない。
しかし華川の雰囲気が冷たくて、それはいつものぽやんとした雰囲気との差が凄まじい。
俺は虚勢を張って吠えた。

「…そうだね。証明、ちゃんとするから。山田の為に…。」
「え?…あ、あぁ…」

すると華川は、今度は打って変わって甘く囁いてくる。
どさくさで、俺の項へのキス付き。

てか、この、雰囲気がコロコロ変わるの怖い。
いやいや、そもそも…
まじで?
終わるの?

「だから終わったら、昨日みたい事はもう辞めろよ。」 
「いっ…っ」

冷たい声。合わせてぎゅっと手を握り込まれた。

「こんなの、一回わからせないと。って、俺も思うだろ。」
「あ…な、な…⁈」

俺はついていけずに、ただただ戸惑ってしまう。

「な?」
「っ…」

しかしそんな俺に、華川は追い討ちをかけるように耳元で囁く。
その声は囁きの割に、妙な有無を言わさない迫力があった。
てかこいつ、こんなオラついてたか?
さっきから、変だ。
こんな華川知らない。知らなかった。

もしかして俺…やばい?

「ちゃんと『証明』、するから。金曜日の夜は、山田んちに行っていい?」
「んっ…っ、からっ、耳元でボソボソやめろっ!」
「ふふっ」

俺が堪らずにみじろくと、華川がくつくつと笑った。

「耳弱いの?かわい。」
「っ!」

その声に顔がカァァァァっと赤くなる。

「あっち行けって!」
「おっ」

しかし俺だってこんなのに負けるか。
渾身の力で華川を押しのけた。

まぁ、大丈夫だろ。どうせ終わるはずない。
けど終わったら…どうなるんだ?

———
そんなこんなで金曜日。
俺は内心ソワソワとした気持ちで出社した。
華川の出来高が気になる。
気になるけど、知りたくない気もする。

出社してチラリと斜め後ろの華川の席をみる。
華川は机に突っ伏して寝ていた。
徹夜したのか?
まさか、終わったのか?

「っ」

考えを巡らせて見ていると、華川がピクリと動いた。
俺は慌てて華川から目を逸らし、前を向いた。

その後も、やけに背中に視線を感じた。

確信はないけど、多分華川だ。華川が俺を見ている。
なんで、華川はそんなに…。
段々と怖くなってくる。
華川は思ってたよりもかなりおかしい。異常とも言える。
そもそも、華川はいつから俺に好意を持っていた?
どこまで本気なんだ?
実はめちゃくちゃ嫌われているとか?
全部嘘だって笑われたら前ならブチ切れていと思う。だけど今は、寧ろそう言って欲しい。

「山田先輩ー、やっぱり例の件納期早まったんですか?」
「だから、早まってないって!何でそんなこと聞くんだよ!」
「?ど、どうしたんすか?」

思わず後田に八つ当たりしてしまった…。
後田がびっくりして目を見開いている。

「あ、…悪い…。すまん。何で聞くんだ?」

まさか…

「いいっすけど…。華川さんにさっきチェック頼まれてみたら、もう結構終わってて。」
「…え」

そして首を傾げながらも、後田はそう説明してくれた。
俺はその回答に固まる。
本当に…おわる…?

「あ、あの…後田…あの、佐川電工さんの件、あれも急ぎだよな?」
「え?あれは別に良くないですか?」
「良くない。調査だけでも、今日中に華川にしてもらえ。」
「えー?…まぁ、いいっすけど。」

尚も腑に落ちない様子だが、後田は華川の席に向かったようだ。
俺はその後ろ姿を見て、少しだけホッとしていた。
流石にこんだけ仕事ふられたら、終わらないだろう。

———-
「山田ー」
「さやか。どうした?」

昼ごはんを外に買いに行った帰り、さやかに飛び止められた。

「今日、泊まり行っていいー?」
「あー」

さやかは大体金曜日の夜からうちに泊まる。
その後土日は一緒に過ごすのがルーチン化していた。

けど…

『ちゃんと『証明』、するから。金曜日の夜は、山田んちに行っていい?』

頭の中で華川が囁く。

『だから終わったら、昨日みたい事はもう辞めろよ。こんなの、一回わからせないと。って、俺も思うだろ。』

まさか…

「……」
「山田?」

急に立ち止まる俺を、さやかは不思議そうに俺の顔を見る。

「…うん。勿論だろ!泊まりにこいよ。」
「うん!」

終わるはずない。
終わったからってなんだ。
大体、華川は俺の家の場所も知らない。
連絡が来ても適当な理由付けて無視だ。
華川なんて気にしてどうする。
俺はさやかに笑顔で返した。

その後はあっという間に定時になった。
チラリと華川をみると、まだパソコンに向き合っている。
はは、焦ってる。
やっぱり終わってない。

「じゃ、後田、お疲れ〜」
「お疲れさまでーす。」

俺は軽い足取りで帰路についた。
その後はさやかと合流して、外食を取った。
お酒も飲んだ気分もいい。
華川は結局頑張り損だ。それも面白い。

「山田、今日はやけにテンション高いね。」
「はは、そう?」
「もー飲み過ぎて、夜は保つのかなー?」
「あははは、夜って?」
「もー」

いちゃいちゃしながら自宅に向かう。
妙な解放感に多幸感が混じる。

「あ、自販機で水買うから待って」
「えー、水道水で良いじゃん」

さやかが自販機に走って行った。
その後ろ姿を目で追っていた時だった。

「……っ」

か、華川!
マンションの入り口に佇む華川がいた。
蛍光灯の下、腕を組み壁に寄りかかっている。

「さ、さやか!」
「なに?」
「ごめん!本当、ごめん……帰って?」
「はぁ⁈なに⁈本当、今日変だよ‼︎」

当たり前だけど、さやかは激昂する。
急に態度をコロコロ変えられりゃそうなるよな…。
俺は平謝りだ。
それより、こんな騒いで…華川に見られたら…。
チラリとみた華川は俯いている。
気づいてる?
気づいてない?

俺は何とかさやかを帰し、物陰に隠れた。華川をこっそりとみる。

「えー、まじか…本格的にホラーじゃん。…はよ、帰れや…」

ずっとここに隠れているわけにはいかない。
てか、まさか、終わったのか?
何気に凄くない?
いや、褒めてないけど。
そこまで本気だされると、逆に怖い。

「そうだ。後田に…」

俺は何故か震えている手で後田に連絡を取った。

『結局、華川って、作業終わらせたの?』

直ぐに既読がつく。
どっどっどっどっ…
心臓が苦しい。
立っているのすら苦しくて、ズルズルと座り込む。
何故こんなー

「山田」
「あ」

その時、俺の頭上が陰る、
覗き込む、華川と目が合った。

「なにしてんの?」

華川がにっこりと笑う。

「あ、え…っ」

そして俺の体を引き上げ、隠れていた壁に押し当てて立たせた。
顔が引き攣る。

「『証明』出来たよ。」
「!」
「報告しようと思ったのに、先に帰っちゃって…酷いよ。」

まじか。
え?てか…ずっと、待っていたの?
と言う前に、かぶりと華川の唇が俺の唇に重なった。

「あっ…ふ…っ!」

顎を大きな骨張った手で掴まれ、強制的に口を開けられる。
華川の大きめな舌がぬるりと口内に入ってきた。
そして歯列をなぞり、味わい尽くすように動く。

やば…っ
なにこれ…

くらくらして手を伸ばすと、がっしりとした胸板に手が当たった。
そこを縋るよう掴む。

「ふっ、…っ、んんっ、ま…っ」

気持ち良い…
こんな、溶かして甘やかす様なキス。
初めだった。
相手は華川なのに、顔が熱で蒸気する。

息継ぎの合間、体を引くと咎めるように華川の手が腰に回ってきた。
もう片方の手は後頭部に回る。
大きな手で押さえつけられ、強い力で引き戻される。
力で押さえつけられ、されるがまま。
自分が本当に女になったみたいだ。

「んっ、やめ……っ」

角度を変え角度を変え、華川は止まらなかった。
そのしつこさが、イコール華川の想いの重さの様で恐怖心が募る。

「んっ、…っハァっハァっハァっ…っ」

やっと解放された頃は、俺は息も絶え絶えだった。
せめてもと華川から体をそらしたのに、強引に体を引かれた。
不本意だが、華川の肩に頭を預けてぐたりと弛緩する。
華川が笑いながら、俺の頭を撫でてくる。
体がびくりと跳ねると、それをまた笑われた。

「…っ、あ、な」

華川の手がするすると俺の腰に回る。

「キスだけで勃っちゃったの?」
「っ!」

表情的にはにこりだけど、そんなに優しくはない。
その瞳は仄暗い色を持つ。

「実はさ」
「んっ」

華川が俺の耳に口を寄せる。
俺が耳が弱いと知っていて、わざと息を吹きかけてくる。
俺がぶるりと震えると、くつくつと笑う。

「俺も」
「!」

そしてぐりっと押しつけられた華川のものはしっかりと勃っていた。

「行こうか、山田の家。わからせてやるよ。」
「…っ」

くっと、華川が笑った。
色々と含みのある物言いだった。
きっと、さやかを見られた。
嫌だとか、馬鹿野郎とか突っぱねれば良い。
そう思うのに、許容量を超えた恐怖や混乱で身体が動かなかった。

目の前にいるのは…誰だ?
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GARDEN/U N I O N/溺愛/至上主義