<< topへ戻る / < novelへ戻る / 小説TOPへ戻る
※友野視点

その後は坂本が去っていって、俺は今後どうしようか考えをめぐらせた。
そう言えば、桜助の兄弟は何故死んだんだ?
もしかして…桜助が首に嘘の歯形を作ることと関係がある?
しかし桜助は自分の話をしない。
今思えば、話せなかったのかも知れない。
秘密まみれなんだろう。
考えれば考える程、桜助が椿説は有力だった。

そんな時だった。

「友野!とものー!」

その桜助が俺の店に入ってきた。

「桜助!良かった!あの後大丈夫だったか?」
「う、うん…。なんてか…、友野も俺の醜態を、見たんだろ…?なんか、ごめんな。気持ち悪いもん見せて。」

あー。あれか。どちらかというと、桜助が坂本に捕まったら毎晩あんなだと思うと、こちとら胸がスッとした。
しかしそんなこと言えないので、俺は努めて心配な顔で首をふる。

「そんなこと…「ていうか、その体どうした⁈」
「え?」

桜助は俺の体を指していた。
そうか。大我に色々されて、縛られた様な跡も残っていたか。
いつもは気をつけて見えないようにするのに、今日は失念していた。

「これは…あー…、」

どう説明するか。
言い淀む俺に、桜助は心配そうに詰め寄る。

「やっぱり、また危ない奴と会ってるんだろ?もしかして、今の同居人なのか?」

んー、どう答えるか。
よし。これを利用しない手はない。
俺は俯いて考えるふりをしながら、こっそりとスマホの録音機能を立ち上げた。

「実家に帰っていたんだ。」
「実家?でも、友野のお母さんは、高級ホームに入っている…え?おばさんに、何かあったのか?」
「いやいや違う。母親は元気。実は、桜助には恥ずかしくて言っていなかったけど、父親がいて…ひどい暴力を振るうんだ。」
「…え」

俺の話に桜助は面白い位に狼狽えた。
ていうか、なんで桜助は俺にこんな付き纏うんだろう?
その上毎度何故かめちゃくちゃ気にかけてくるよな。

「今迄の俺の怪我、全部父親のせいなんだ。」
「なんで…実の親がそんなこと…」
「…桜助は、Ω売りって知っている?」
「!」

そこで俺はチラリと桜助の反応をみた。案の定、桜助は酷く動揺しており俺はほくそ笑む。
この様子なら、ボロが出る日も近いな。

「そ、それが…どうしたんだ?」
「俺、Ω売りされるはずだったんだけど、相手と折り合いが悪くて戻されてさ。それが原因で父親は俺に暴力を振るうようになった。」
「そんなことが…」
「うん。俺には兄もいたんだけど、その兄も、父親のせいで…」

俺はそこで言葉を止めるて、意味深な表情で目を伏せた。
桜助の反応から勝手に想像を膨らませているのが見てとれる。
思った通りに反応するからウケるな。
そんで、やっぱりこれ、自分を重ねてない?

「ごめんな。急に桜助にこんな話…。」
「…」

桜助は神妙な顔のまま何も言わない。
もう一押し?

「あー、重たい話してごめんな。」
「…」
「はは、なんか、愚痴っちゃったな。」

ここで俺は困ったように笑った。
桜助が俺の顔を見て、苦しそうな顔をする。
桜助が俺のこの顔に弱いのは知っていた。
効いてる効いてる。

「友野…」
「…何?」

くるかくるか?

「俺と一緒に逃げよう!」
「……え?」

あ、れ?
兄弟の話とか聞き出すはずが、桜助の発言は俺の想像斜め上をいった。
素でびっくりしてしまった。

「え?な、なん、なんで?」

いやいや。
父の暴力に怯える俺を演じていたのに、桜助の発言に対する純粋な疑問が先行してしまった。

「実は、俺も大樹のところにΩ売りされだんだ。」

いや。良かったみたい。
やっぱりそうか。桜助は売られた身だったんだ。

「え⁈どう言う事⁈だって…桜助は普通に…働いているし…え?本当なの?」

とりあえず俺は驚いたフリ。
俺は桜助に詰め寄った。
桜助はこくりと頷く。

「あぁ、本当。大樹の家は親父さんが変わっているから、俺はかなり恵まれている。…でも、俺は大樹に逆らえない。」
「そうだったんだ…。」

桜助は深刻な顔で、とても嘘を言っているように見えない。

「…それって、項の嘘の噛み跡に関係あるの?」
「…うん。実は」

実は?
俺は気持ちが前のめりになる。
どくんどくんと、心臓がざわめいた。

「俺は兄のフリをしている。」
「!」

はいきた。
実際は感無量。
だけど外見はびっくり!と言う顔で言葉に詰まった。

「…俺の本当の名前は桜助じゃない。椿なんだ。」
「つ、椿…?」

まさか、本当だったなんて。
坂本の話を聞いた時は嘘だと思った。
本当にこんな事ってあるんだ…。
てかαの気に入ったΩを嗅ぎ分ける力が凄すぎてひくな
まぁ、言質としては上出来だ。
あくまでも言質だけど、これを坂本に渡せばきっと坂本の両親が動く。
晴れて桜助、もとい椿は坂本の手中に収まるわけだ。

「俺の兄が桜助。俺は弟の椿。兄は、小さい頃知らない奴にうなじを噛まれて番にされた。それを苦に自殺したんだ。」

いや、まてよ。
なんかうまくいきすぎていないか?
今迄あんなに渋っていたのに、何故急にこうもペラペラと話す?
そういえばこいつ、最初に「逃げる」とか言っていたよな?

俺の胸中に、ざわりと胸騒ぎが走った。

「ちょ、ちょっと待って、最初の逃げるって…何?何を考えてるの?」
「…最近ダメなんだ。もう大樹の言いなりでやるのも嫌だ。子供なんて…嫌だ。」
「…」

…桜助…。

舐めてんのか。
大樹如きに何やかんやされて悩むな。
本当に甘っちょろい奴だ。
大方、子供が欲しいとか大樹に言われて悩んでいるんだろ。
でも正直、だから何?って感じ。
普通に愛されて、普通のセックス中に言われたくらいだろ。
お前のメンタル豆腐かよ。
Ω男子の妊娠確率なんて低いんだから、無視しときゃ良いだろそんなん。
俺なんて、割と最初の方に性奴隷宣言させられてるぞ。
しかもヒート中に無理矢理おねだりさせられて、動画に残されてる。
あれは大我のお気に入り動画だからな。
定期的に見返している姿をよく見る。
あぁ…思い出すと気分が悪くなる。

しかし桜助は深刻な顔だった。
てか、なんで…?

「俺も一緒に?」
「うん…。あははは、勝手になんだけど、友野は、俺の兄に似てて…ほっとけないんだ。」

桜助はそう言って照れたように笑っていた。
なるほど。だから不思議と懐かれていたのか。

「兄も一人で抱え込んで、よく悩む人だったんだ。兄は救えなかったから、俺、友野は絶対助けたいな。」
「……」
「友野がいいなら良いけど、良くないなら、絶対に見捨てない。必ず助ける。」

その後は桜助(椿?)に流されるまま、逃げる手筈を打ち合わせした。
決行は3日後の23時。

「……」

ピピピピ…

ぼんやり閉店作業をしていると、またあのアラームが鳴った。
帰らないと。
大我を怒らせないように。大我を怒らせないように。大我を…

「……」

俺は店の鍵を閉めて手を止める。

ずっと一人だと思っていた。

『絶対助ける。絶対一人にしないし、見捨てたくない。』

「そんなの、無理だろ…。」

一緒に逃げて、助けるって?
あいつは、語学も堪能だから海外に行くつもりか?
そこまですれば、流石のαも追ってこれない?
俺も…ヒート期を一人で過ごせれば…。
しかし俺には抑制剤があまり効かない。
肉体的に効果はあるが、精神的な不安が解消出来ない。
無理に決まっている。
冷静にそう思った。
しかし桜助の「助ける」には妙な安心感もあった。

「………いやいや、何を考えているんだ…。そんなの、ダメだ。大我に知れたら…」

考えるだけでゾッとする。
俺は直ぐに雑念を振り払う様にかぶりを振る。

「しかし三日後って、それまでにこの録音を坂本に渡さないと……」

あれ?ていうか、どうやって知らせる?
こんなに直ぐに桜助が尻尾を出すとは思っておらず、坂本とは一週間後にこの店で会う約束をしている。
一週間後、もう桜助は居ない。

——-
遅いな…。
大我はいつも同じ時間に帰宅するし、帰宅できない時は必ず連絡がある。
今日はなんの連絡もなかったはずなのに、いつもの時間になっても大我は帰ってこなかった。

はー…、こんな格好で待たせるなら、さっさと帰って来いよ。
こちとら全裸だぞ。

俺はため息をつく。
そうこうしていると、ふわりと甘い香りが漂ってきた。

「お帰りなさい。」
「…。」

…?
なんだ。
いつもなら偉そうな「んっ」という短い返事があるのに、何もない。
俺は不審に思い顔を上げるが、顔を上げた先にもう大我はいなかった。

「?」

俺は首を傾げて大我の背中を見る。
なんだろう。違和感を感じる。
大我は鞄を放り出し、着ていたジャケットを脱いで捨てる。
それを俺はいつもと同様、慌てて拾って回る。

けどなんか…いつもより行動が荒い。
あと早足?
妙に感じながらも、何も言えずに大我のジャケットをハンガーにかけて急いでダイニング入る。

「…」

ダイニングでは、大我が既に俺のスマホを弄っていた。
遂に無許可かよ。
俺は内心毒づき、大我の向いに座った。
毎度、一応俺から手渡ししていたのに。

「…」

しかも今日はやけに長い。
はぁー、ご飯冷めてるよ、これ。
冷めてるとか言って、大我の機嫌が更に悪くなったらどうしよう。

「…ぁ、大我、もしかしてスマホの充電切れたの?切れたなら充電器「切れてねーけど?」
「っ、そ、そうなんだ。」

え?何?
態度悪っ。
余りにも長い間人のスマホを見ているから、もしかしてと気遣ったのに。大我はこちらに一瞥もくれずに、俺の言葉を跳ね除けた。
これは、八つ当たりとかされてる?

「はー」
ガタンッ
「っ!」

び、びっくりしたー…。
見るだけ見ると、大我はため息をつき乱暴に俺のスマホを置く。
大きな音が鳴り、俺はびくりと肩を揺らす。

「…」
「…」

カチャ…
漸く食べ始めたらしい。
ちらりと見た大我は箸でサラダを食べている。
それを確認すると、俺も料理を食べ始めた。

はぁー。
なんなんだよ。
…それより、桜助は今も逃げる準備をしているのか?
桜助と逃げたらどうなるんだろう。
大樹は見逃してくれそうだけど。
それよりも問題は坂本じゃないか?
…うん?かなりの問題じゃないか?
大樹から逃げると、今ある大我の加護もなくなる。
坂本にそこを狙われたら…。
大丈夫だろうか。
やはり、俺がすべきことは、坂本に桜助の話をするのではなく、桜助に…

「……」
「……」
「っ、な、なに?」

ふと気がつけば、大我がこちらを見ていた。
無表情な座った目でじっと見ていた。

「……別に。」

そして、急に貼り付けた笑顔をつくる。
目が全然笑っていないから、ただただ不気味。
本当に何?
ちょっと怖い。
何故かこっちまで挙動不審になる。
チラチラと大我を気にしながら、俺はスープを飲む。

まぁ、桜助と一緒に俺も逃げれたら、こんなのもなくなる。
……なくなる。
大我には、会えない。というか、会わなくて良くなるんだ。

「…仕事」
「え?」

するとポツリと大我が話し始めた。

「仕事楽しい?」
「…うん…?」

仕事というか、仕事を理由に毎日大我以外の人間とかかわれる。
俺にとってはある種の生命線だ。
でもだから、今更なんなんだ。

「大我、どうしたの?何かあった?」
「どうかあったように見える?」
「…」


うん、とも、いいや、とも答えられず、俺は曖昧な顔になる。
だって今迄こんな顔した大我を見た事ない。
だから、今の大我の意図が見えない。
しかし大我は尚もこちらを見つめる。

「ゆー」
「なに?」
「ソファ行こっか。」
「…うん。」

大我は料理をほぼ残している。
しかしソファに手を引かれたら、行くしかない。
俺はおずおずといった調子でソファに座る大我に近づいた。

「大我、さっきからどうしたんだ?」
「…」

無言のまま、大我は俺の手を引きキスをしてきた。

「?」

キスをしながらやんわり倒され、大我が俺の後ろをやんわり弄ぶ。
やるのか。
ご飯半端なままだし、面倒だな…。

こりゅっ

「…っ」

しかし前立腺を潰されて、身体がびくりと跳ねた。
大我のキスは柄にもなく優しくて、身体が絆されて簡単に発情し始める。

「はぁっ…」

頭がホワホワと淀み、思考が拡散する。

「ゆー…」
「大我…」

大我の笑顔は穏やかで手つきも優しくて、俺は思わず目を細めた。
まるで本物の恋人同士みたいな茶番だ。

「俺から逃げれると思うなよ。」
「……ぇ、…っ!」

そこから一転、すっと大我の目が鋭くなったと思ったら急に挿入される。

「んぁっっ!ぅっ〜っ」
「はは、早いな」

なんだやはりいつも通りだ。
大我は俺の同意もなくキスをして、ひたすらにキツイ快楽を送り込んでくる。
そんな扱いにも善がる俺を、大我は鼻で笑った。

————
後ろから規則正しい寝息が聞こえ、後頭部の髪を揺らす。
あの後、大我ははやりたい放題やるだけやると、俺を抱き抱えて寝てしまった。

「…」

俺はチラリと、横向きに寝ている自分の前、サイドボートにある大我のスマホを見る。
少し手を伸ばせば届く距離だ。

すー。すー。
大我はぐっすり寝ているようだ。

大我のスマホを見て、坂本の番号を暗記して、自分のスマホから坂本へかけて、坂本に桜助の録音を渡し、自分のスマホから坂本の番号を消す。
簡単だ。
俺はそっと大我のスマホに手を伸ばす。

「………何やってんだろ…」

そして手を止めた。
何故俺はこんな事をしているんだろう。
桜助にこだわり過ぎだ。
そうまでして桜助の足を引っ張って、どうなる?

「…」

大我は、好きじゃない。桜助も別に好きじゃない。と、思う。
ただ桜助と行ったら、何かを強要される事もなく自由に生きれる。
桜助は「遠く」に行くと言っていた。
何処だろう?
何処に行っても、きっと今みたいに緩く仕事はできない。生活のためとか言って必死に働くんだろうな。
思ったよりお金が貯まらなかったとか言っていたから、きっと桜助も働くんだろう。
何するんだろう?
はは、あの高級スーツを着た桜助が出来る事あるか?
Ωだから、お互い仕事があっても低賃金だろうな。
俺は何の仕事しようかな。
桜助は下っ端の仕事が出来ず、立ち上がりに時間かかりそうだ。
当面は俺が家事をして、家計も支えてやるか。まぁそれもいい。
俺は昔の経験を活かして、内装業とかするか?
そこそこ肉体労働。上京したての頃を思い出す。
がむしゃらにやるのは嫌いじゃない。

俺はいつの間にか、頬を緩めてこの先の事を考えていた。

「…っ」

その時、俺に回した大我の手がピクリと動いた気がした。
俺は慌てて意識を今に戻す。

「…」

すー、すー。

大丈夫、気のせいか。
大我は依然として熟睡している。

「都合いいよな…」

今まで桜助を陥れようとしてきた。
それを今更…。
急に熱が冷めるように。俺の中で何かが急速に萎んでいく。

「大我…」
すー、すー…
「…」

返事はない。
今更あれこれ考えるなんて馬鹿だ。
ずっと悪役でいた方が楽だ。

俺は大我が寝ているのを確認すると、大我のスマホに手を伸ばした。
大我のスマホは古い型で、指紋認証型だ。
俺は左手に大我のスマホを持ち、反対の手で大我の手を取った。

「…」

緊張で手が震えそうだ。
俺は静かに息を整えた。
そしてそっと大我の人差し指を、スマホに当てる。

あいた!

俺ははやる気持ちを抑えて大我のスマホのアドレス帳を開く。
あ、
か、
川口
河野


坂本!

電話番号は、080、98…

必死で番号を暗記しようとしている時だった。
スマホを持つ俺の手が、一回り大きな手で握り込まれる。

「いっ」
「何してんの?」
「っ!」

大我の低い声が、俺の後ろから響く。

「やっぱり。坂本だったか。」
「…ぁ、た、たい…が………ひっ」

弁解のために一度離れて振り返ろうとするが、凄い力で後ろから押さえ付ける。

「ふざけんなよ、お前。」

暗がりの中震える俺を、大我は冷たい目で見下ろしていた。
前へ 
10/14
<< topへ戻る / < novelへ戻る / 小説TOPへ戻る
GARDEN/U N I O N/溺愛/至上主義