7
「もう動悸はしないか?」
「…」
目が覚めると俺の部屋だった。
大樹が俺の寝ているベット脇に座っている。
小鳥が外でちゅんちゅん鳴き、空気が心持ち冷たい。朝だ。
いやいや。
今はそんな呑気なだんじゃない。
「…そ、…その節は、すみませんでした。」
大樹は俺の突然の謝罪に一瞬きょとんとした顔をしたが、次にはため息を吐いていた。
「やったのか?」
「やっ⁈してないっ!」
彫刻の様に綺麗な顔のまま、下世話な事を言うので戸惑う。
慌てて俺は起き上がり、ぶんぶんと頭を振った。
「あいつが好きなのか?」
「あのさ、それ、前も聞かれたけどー」
「好きなのか?」
「いえ。好きではありません。全っ然。全く。」
圧が凄い。
呆れた調子から一転、俺は畏まって強く否定した。
「なら何故あんな事をした?」
俺は俯いたまま、ボソボソと話し始める。
「…仕事で、良い条件で契約したくて…」
「はー…。にしてもあんな方法、正気じゃないぞ。」
「…」
「Ω性を利用してどうする。桜助はバースを気にしないと思っていたのに…。」
「…」
「大体そこまで仕事の為にして、意味ないだろ。なんでバースなんか…」
「αの大樹には分からないだろ。」
俺はいつもより低い声で言葉を発した。
「この世界でΩがどれだけ生きづらくて、成り上がるのがどれだけ大変なのか。」
大樹は口を閉じ、じっとこちらを見つめている。
俺ももうやめて良いはずなのに、転げ落ちる様に止める事が出来なかった。
実際ボロボロと感情がこぼれ落ちてくる。
止まらない。
「俺だってこんな、自分を切り売りする様な事、したくなかった!」
「…」
「だけど俺にはこれしかないだろ。これしか脳がないからー」
大樹の目も見れずに話していると、不意に手を握られた。
「桜助、ごめん。寄り添えなくて、ごめん。俺はただ……ごめん…。」
「…」
珍しく大樹の声は弱々しい。
流石の俺も、ハッとして顔を上げる。
「俺は、仕事より桜助が大事なんだ。」
「……」
おう?
そ、こまでは言われると思っていなかった。
急な告白に、俺の方がオロオロとしてしまう。
「そ…っ。それは、…あー、もー。大樹は俺の事大好きだもんな!」
「…」
「俺とのえっち、そんな気持ちいい?もー大樹のえっち!……ま、冗談はもう終わりにして。分かった俺も変なこと「違う。」
「え?」
「セックス、出来なくても、俺は桜助が好きだ。桜助そのものが、好きだ。」
「…」
流石の俺も瞠目する。
何でこの男は…こんな立派ななりで、時々こうも子供みたいなんだろう。
変な事言ってる割に、大樹は真っ直ぐに俺を見ていた。
「…大樹、ごめんなさい。」
「うん。」
俺は何故大樹を抱きしめていた。
明らかに俺より大きい大樹を抱きしめる。
変な絵になってそうだな。
「桜助」
「なに?」
そうやって抱きしめていると、大樹が呟くように話しかけてきた。
「俺を置いて、何処にも行かないでくれ。」
「…」
一瞬どきりとした。
だって俺は、もうこの場所を出て行くつもりだった。
それに気づいているのか?
俺の反応がないからか、大樹が俺の肩に顔を埋める。
「…出来れば…俺も、連れてってくれれば良いのにな。」
なんでそんな…縋るみたいに言うんだ…。
「どうしたんだよ急に。大樹…俺に何か隠していることある?その…秘密とか…」
「…」
俺の言葉に大樹はじっとこちらを見つめた。
え、なに?
だって急に、違和感が半端なかっから聞いてしまった。
しかし大樹は何も言わない。
ただ、じっとこちらを見つめる。
むしろ、この間こそが…
「ふ、それを、お前が俺に言うのか。」
「……あ、はははは…そうだな。」
そうだよね。
大樹がふっと笑い、俺も釣られて笑った。
————
「じゃ、俺はまた仕事に戻る。ゆっくり寝ておけよ。」
「うん。ありがとう。俺も直ぐに仕事に戻る。」
そう言って大樹は出口に向かっていたが、考えるように出口前で足を止めた。
「そのパーカー、未だ持っていたんだな。」
「…ぁあ、このパーカーか。」
大樹がさしていたのは、俺の枕元の赤いパーカー。
兄のものだ。辛い時や落ち着いた時、まるで子供が離さず持っている毛布の様にこれに頼ってきた。
これがあると不思議と安心する。
「……それ……、いや、何でもない。」
「?うん。」
何か言いかけて辞め、大樹はそのまま部屋を後にした。
「…」
目が覚めると俺の部屋だった。
大樹が俺の寝ているベット脇に座っている。
小鳥が外でちゅんちゅん鳴き、空気が心持ち冷たい。朝だ。
いやいや。
今はそんな呑気なだんじゃない。
「…そ、…その節は、すみませんでした。」
大樹は俺の突然の謝罪に一瞬きょとんとした顔をしたが、次にはため息を吐いていた。
「やったのか?」
「やっ⁈してないっ!」
彫刻の様に綺麗な顔のまま、下世話な事を言うので戸惑う。
慌てて俺は起き上がり、ぶんぶんと頭を振った。
「あいつが好きなのか?」
「あのさ、それ、前も聞かれたけどー」
「好きなのか?」
「いえ。好きではありません。全っ然。全く。」
圧が凄い。
呆れた調子から一転、俺は畏まって強く否定した。
「なら何故あんな事をした?」
俺は俯いたまま、ボソボソと話し始める。
「…仕事で、良い条件で契約したくて…」
「はー…。にしてもあんな方法、正気じゃないぞ。」
「…」
「Ω性を利用してどうする。桜助はバースを気にしないと思っていたのに…。」
「…」
「大体そこまで仕事の為にして、意味ないだろ。なんでバースなんか…」
「αの大樹には分からないだろ。」
俺はいつもより低い声で言葉を発した。
「この世界でΩがどれだけ生きづらくて、成り上がるのがどれだけ大変なのか。」
大樹は口を閉じ、じっとこちらを見つめている。
俺ももうやめて良いはずなのに、転げ落ちる様に止める事が出来なかった。
実際ボロボロと感情がこぼれ落ちてくる。
止まらない。
「俺だってこんな、自分を切り売りする様な事、したくなかった!」
「…」
「だけど俺にはこれしかないだろ。これしか脳がないからー」
大樹の目も見れずに話していると、不意に手を握られた。
「桜助、ごめん。寄り添えなくて、ごめん。俺はただ……ごめん…。」
「…」
珍しく大樹の声は弱々しい。
流石の俺も、ハッとして顔を上げる。
「俺は、仕事より桜助が大事なんだ。」
「……」
おう?
そ、こまでは言われると思っていなかった。
急な告白に、俺の方がオロオロとしてしまう。
「そ…っ。それは、…あー、もー。大樹は俺の事大好きだもんな!」
「…」
「俺とのえっち、そんな気持ちいい?もー大樹のえっち!……ま、冗談はもう終わりにして。分かった俺も変なこと「違う。」
「え?」
「セックス、出来なくても、俺は桜助が好きだ。桜助そのものが、好きだ。」
「…」
流石の俺も瞠目する。
何でこの男は…こんな立派ななりで、時々こうも子供みたいなんだろう。
変な事言ってる割に、大樹は真っ直ぐに俺を見ていた。
「…大樹、ごめんなさい。」
「うん。」
俺は何故大樹を抱きしめていた。
明らかに俺より大きい大樹を抱きしめる。
変な絵になってそうだな。
「桜助」
「なに?」
そうやって抱きしめていると、大樹が呟くように話しかけてきた。
「俺を置いて、何処にも行かないでくれ。」
「…」
一瞬どきりとした。
だって俺は、もうこの場所を出て行くつもりだった。
それに気づいているのか?
俺の反応がないからか、大樹が俺の肩に顔を埋める。
「…出来れば…俺も、連れてってくれれば良いのにな。」
なんでそんな…縋るみたいに言うんだ…。
「どうしたんだよ急に。大樹…俺に何か隠していることある?その…秘密とか…」
「…」
俺の言葉に大樹はじっとこちらを見つめた。
え、なに?
だって急に、違和感が半端なかっから聞いてしまった。
しかし大樹は何も言わない。
ただ、じっとこちらを見つめる。
むしろ、この間こそが…
「ふ、それを、お前が俺に言うのか。」
「……あ、はははは…そうだな。」
そうだよね。
大樹がふっと笑い、俺も釣られて笑った。
————
「じゃ、俺はまた仕事に戻る。ゆっくり寝ておけよ。」
「うん。ありがとう。俺も直ぐに仕事に戻る。」
そう言って大樹は出口に向かっていたが、考えるように出口前で足を止めた。
「そのパーカー、未だ持っていたんだな。」
「…ぁあ、このパーカーか。」
大樹がさしていたのは、俺の枕元の赤いパーカー。
兄のものだ。辛い時や落ち着いた時、まるで子供が離さず持っている毛布の様にこれに頼ってきた。
これがあると不思議と安心する。
「……それ……、いや、何でもない。」
「?うん。」
何か言いかけて辞め、大樹はそのまま部屋を後にした。