9
「本田、最近営業成績も良いからって、こんなところでも浮ついてないか?」
(ん?)
「…………え?そうなんだ…。本田くん、最近頑張っているんですね。」
(んん?)
「そうだな。部内で期待もされてるからな。今一番の有望株。期待しているから、今日も展示会に私から誘ったんだ。な?本田。」
そう言うと、黒崎はぐっと本田の肩を引き寄せた。
(?どゆこと??そんなに…最近はむしろ、深谷効果で成績が落ちていたけど…)
貶められると思いきや、いいカッコさせようとしてくれてるの?
黒崎が?
色々不意打ち過ぎて、本田は曖昧に笑う。
「へ〜」
しかし京香にとって黒崎の言葉は効果的面だったらしい。
先程と打って変わって、チラチラとこちらに笑顔を向けてくる。
「恭ちゃん、そうなんだ。」
「そうなんです。君は本田の同期なのかな?」
「はい。ていうかー、同期って言うかー、ね?」
京香は意味ありげに微笑みかけてくる。
先程までの小馬鹿にした様子とはえらい違いだ。
本当は怒るところなんだろうけど…か、可愛い!
(え?なに?もしかして、復縁?復縁の可能性…)
「なら知ってます?本田の美人の彼女」
「は?」
「え」
黒崎は突然そう言うと、ぐっと本田の着ているトップスの首元を引き下げる。
露出した首筋には、昨日黒崎がつけたキスマークがくっきりと付いていた。
京香は目をまん丸に見開き、その跡に釘付けになる。
「最近仕事も調子いいからって、凄く美人の彼女も出来て、調子付いているから、同期からも注意してやってくれる?」
「……え?び、じん…?…か、彼女?黒崎さんから見ても…?」
京香はひくりと笑い、再び視線をこちらに向けてくる。
「そうなんだ。美人で、皆に羨ましがられている。俺も羨ましいよ。な?本田。」
そして黒崎も。
「え?…ん、うん。いや、はい。恐縮です…?」
(なんの話?)
この話が全くの嘘だと言うことは確かだ。
しかし二人の視線に耐えきれず、頷いてしまった。
「…そんな…。」
「見たことありません?」
黒崎の問いに、京香はぽかんとしたまま首を振った。
「取引先のNT社で大きい案件取って、ついででそこの受付嬢、捕まえたみたいで。」
「へぇー…」
「えー!すっごい!超大手だし、あそこの受付嬢めちゃくちゃ綺麗な人ばっかじゃん!本田、やるぅー!」
相変わらず引き攣った笑顔の京香と、いつの間にか先程の先輩も加わりキャアキャアと騒ぐ。
展示会だと言うのに、状況はカオスだった。
「ではそろそろ基調公演を聴きにいきたいので、失礼します。」
黒崎は先輩たちに一言断ると、本田の手を引いた。
「…?あの、黒崎さん?」
黒崎は講演会場に行くのかと思いきや、本田の手を引きトイレに向かった。
そして個室に本田を押し込め、自分も入る。
状況が分からない。
カチリ
「うわぁっ!」
そして再びローターのスイッチを入れる。
「な、なん⁈」
抗議の声を上げるつもりが、キスされた。
どこにこの行為が始まる要素が要素があった⁈
(ま、だ、さっきの、黒崎の奇行を問い詰めないとなのに…あー、ぎもちいい…)
こんなところでこんな事されて、ここでやるのか?
「あんな女にこけにされて、ヘラヘラして…何なんだよお前!」
黒崎は苦々し気にボヤいた。
あんな女って…京香か。
しかし何故黒崎に京香の事で文句を言われなきゃならない?
助けてくれたようで、結局は嘘をついているし…。
「っ、てか、び、美人な恋人って何ですか?」
本田は不満気に眉を寄せた。
「あんなこと言われたら、今後も彼女作れなくて困ります!」
「…」
しかし帰ってくるのは、本田を上回る迫がある不満顔だった。
そして強引に本田の体を反転させ、トイレタンクに手をつかせた。
「…?…ぁ?嘘っ!ちょっ、〜っ‼︎」
(何なんだよ!)
そのまま黒崎は性急な動きで本田のボトムスを引き下げ、挿入してきた。
「ぎゅっ‼︎ぁっ、…っせ、せめて、」
入ってるの抜いて欲しい。
元からが入っていた玩具の振動と、黒崎の抜き差しからくる刺激が二重できつい。
気持ちいいが、ここが展示会場のトイレだと言うことが恐怖でしか無い。
「うっ、…ぁっ、やばっっ!いっ〜〜っ‼︎」
しかし体は快感を素直に拾ってしまう。
バクバクと、心臓が恐怖か快感か分からないもので煩く騒ぐ。
黒崎の勢いで、足が浮きそう。
タンクごと本田の体がガクガクと揺れた。
「ふっ‼︎」
(何でこんなこと…っ)
黒崎の意図は読めないが、兎に角不機嫌そうだ。
無言だが、苛立ちが激しい行為から伝わってくる。
「な、なんなんです…かっ⁈」
「…あんな、女より」
「?…っ」
「俺の方が…っ」
(え?何その……ヤキモチ…みたいな…?)
黒崎の苛立った行為や言動から、そう感じてしまう。
しかしそれはあまりにも黒崎と繋がらない感情だ。
「なっ、なん…っ!ヤキモチっ、ですか⁈」
「…」
思わず口に出すと、黒崎の動きがピタリと止まった。
「…え?」
「…」
それに驚き後ろを振り向くと、無表情で座った目の黒崎と目が合う。
あれだけうるさかったの室内が一気に静かになる。
「…ぁ!」
そんな空気感に戸惑っていると、黒崎が徐にリモコンを取り出した。
カチリッ
「…ふっ!」
振動が今迄だ一番強くなる。
本田が口を押さえて体を強張らせると、黒崎は再び律動を開始した。
個室内がまた騒がしくなった。
「本田、俺の服汚したから、ペナルティだな。今度、お仕置きやってやるから。」
「…っ!ふぁっ〜〜っ‼︎」
黒崎は本田の肩に噛みつきながら、そう囁いだ。
———-
(俺は…、黒崎が好きなのか?)
会議中、本田は話している黒崎を横目で見た。
今日も髪はぴっしりと綺麗に整い、高そうな洒落たスーツを着ている。
女性がキャアキャア言うのも分かる。
(…でも、名前呼ばれただけで赤面したり、子供っぽいところもあって…)
考えているとこっちまで頬が赤くなる。
本田は小さく息を吐き、手元のパソコンに目を落とした。
————-
「あれ?会議時間来てるのに、誰もいない?」
「本田」
「っ!」
突然後ろから抱きつかれギクリと身体が強張る。
身体が強ばるのは、抱きつかれたということもあるがよれよりも
「あー本田の匂い、久々…」
相手が深谷だからだ。
「深谷…」
名前を呼ばれると、深谷は本田の肩に埋めていた顔を上げニッと笑った。
「会議は…」
今日は全体会議だと聞いてきた。
しかしこの部屋には、会議時間になったというのに深谷と自分二人だけだ。
「あはは!順当に騙されてるな!実は場所変更になったんだよ。本田以外の人はもうそっちに行っている。本田は逃げ回るからー、こうやって呼び出したってわけ!」
「は、はぁ⁈ふざるなよ!それより、会議の場所何処だよ⁈」
本田は肩を払って振り返り、深谷を押し返した。
「ふっ、ふふっ、良く吠えるな?」
「…っ」
しかし深谷は余裕綽々と笑う。
一歩深谷が近づき、一歩本田が下がる。
「どうしたの?」
そうやていつの間にか本田の背に壁が当たった。
「俺に会うのが怖かった?」
深谷はニッと笑った。
その笑顔の奥に静かな怒りを感じてぞっとした。
身体が覚えている。怒った深谷は怖い。
「それは、本田にやましい事があるから?」
「っ!」
徐に深谷が、本田の顔の横の壁に手をついた。距離が縮まり頬を撫でられた。叩かれる前の犬の様に、本田の体がびくりと跳ねた。
「ふっ、本田、今度は黒崎と仲良くしてんの?」
「っ!」
僅かに目を見開いてしまった。
「…」
そんな本田の反応を見て、深谷は目を不満そうに細めた。
「ふんっ、やっぱりか…あの野郎…」
ぼやく。
かまかけられた。
そしてまんまと引っかかった。
「酷いな本田…。俺の代わりに黒崎使うなんて。」
「か、変わりに使うなんて」
「変わりだろ。しかも、なに?付き合ってはないんだろ?愛もないのにやってんの?よりによって上司と…それって凄く異常。普通じゃない。」
「…それは」
それは俺が言い出したからで…。
しかし深谷の口調は断定的で冷たかった。
怯んで口籠ってしまう。
そうだ。曖昧で忘れかけていた。黒崎と俺の間に愛はない。
「俺とは…愛のある行為だったでしょ?だって俺さ、本田の事がすっげーーっ、好きだもん。」
深谷は一転して優しい声で、ふにふにと本田の唇を指で押した。
深谷とは愛ある?あれ?深谷とやる方が、普通?
深谷の声は特殊な音波なのか何なのか、そのやけに甘い声は聞いていると頭がおかしくなりそうだった。
「愛してる。」
そういうと、深谷は目を細めてにこりと笑った。
キラキラというエフェクトがかかっていそうな、眩しい笑顔だ。
「本田が嫌がるから、あんなキツめになったけど、本田がちゃんと受け入れてくれたら、もっともっと、ちゃんと優しくしたよ?」
会社の会議室だってのに、深谷はまるでベットで恋人に囁いているような口ぶりだ。
「俺が、受け入れれば…?」
「そう。」
俺が悪かったのか?
俺が深谷を拒否したから。だからこんな、おかしな事になっている。
深谷はそう言いたいのか?
段々と分からなくなってくる。
黒崎との行為は普通じゃない。
だけど深谷とは愛があって、俺が受け入れればもっとちゃんと…。
普通?
「大体さ、本田は普通にやたら拘るけど、それこそ逃げじゃない?」
「え?逃げ?」
「そう。だって、本田の本当の趣向はああだろ?他の奴らに混じれたら楽だから、自分の気持ちに嘘ついて逃げているんだよ。」
「…」
俺は…小さい時みたいに一人で冷たいご飯を食べたくない。
ただそれだけ。
「逃げないで受け入れれようよ?俺はどんな本田も受け入れるよ?一度勇気を出して受け入れれば、楽しくていい事ばかりだよ。俺が全部与えてやる。」
「深谷が?」
「うん。だって、」
深谷は軽く触れるだけのキスをしてきた。
「俺は本田を愛してるから。黒崎みたいな半端な紛い物とは違う。本田の為ならなんでもしてあげれるよ。」
深谷と、暖かいご飯食べる?
きっとそうしてくれる。今の深谷の目は愛に溢れている。
「本田は今まで自分を偽って、よく頑張ったよ。お疲れ様。」
深谷は優しくそう言うと、ぎゅっと本田を抱きしめた。
「…」
何も言えずに、身体の力が抜ける。
それを見た深谷がふっと笑った気がした。
これは、普通。いや、普通とか何とか考えるのがそもそも違くて。
じゃぁ、俺はどうすれば…。
「本田、俺のところに戻ー」
「本田、深谷!ここにいるんだろ。早い出てこい。会議始まっているぞ。」
「…!」
当然会議室のドアがノックされる。
黒崎の声だ。
深谷がドアに鍵をかけたから、入れないのか。
「…す、すみません。」
本田はパッと深谷の腕の中から飛び出す。
何か言われるかと思ったが、何も言われなかった。
「直ぐに行きます。」
深谷はあっさりと本田を解放した。
本田は深谷を振り返る事なく、ドアを開け外に出た。
(ん?)
「…………え?そうなんだ…。本田くん、最近頑張っているんですね。」
(んん?)
「そうだな。部内で期待もされてるからな。今一番の有望株。期待しているから、今日も展示会に私から誘ったんだ。な?本田。」
そう言うと、黒崎はぐっと本田の肩を引き寄せた。
(?どゆこと??そんなに…最近はむしろ、深谷効果で成績が落ちていたけど…)
貶められると思いきや、いいカッコさせようとしてくれてるの?
黒崎が?
色々不意打ち過ぎて、本田は曖昧に笑う。
「へ〜」
しかし京香にとって黒崎の言葉は効果的面だったらしい。
先程と打って変わって、チラチラとこちらに笑顔を向けてくる。
「恭ちゃん、そうなんだ。」
「そうなんです。君は本田の同期なのかな?」
「はい。ていうかー、同期って言うかー、ね?」
京香は意味ありげに微笑みかけてくる。
先程までの小馬鹿にした様子とはえらい違いだ。
本当は怒るところなんだろうけど…か、可愛い!
(え?なに?もしかして、復縁?復縁の可能性…)
「なら知ってます?本田の美人の彼女」
「は?」
「え」
黒崎は突然そう言うと、ぐっと本田の着ているトップスの首元を引き下げる。
露出した首筋には、昨日黒崎がつけたキスマークがくっきりと付いていた。
京香は目をまん丸に見開き、その跡に釘付けになる。
「最近仕事も調子いいからって、凄く美人の彼女も出来て、調子付いているから、同期からも注意してやってくれる?」
「……え?び、じん…?…か、彼女?黒崎さんから見ても…?」
京香はひくりと笑い、再び視線をこちらに向けてくる。
「そうなんだ。美人で、皆に羨ましがられている。俺も羨ましいよ。な?本田。」
そして黒崎も。
「え?…ん、うん。いや、はい。恐縮です…?」
(なんの話?)
この話が全くの嘘だと言うことは確かだ。
しかし二人の視線に耐えきれず、頷いてしまった。
「…そんな…。」
「見たことありません?」
黒崎の問いに、京香はぽかんとしたまま首を振った。
「取引先のNT社で大きい案件取って、ついででそこの受付嬢、捕まえたみたいで。」
「へぇー…」
「えー!すっごい!超大手だし、あそこの受付嬢めちゃくちゃ綺麗な人ばっかじゃん!本田、やるぅー!」
相変わらず引き攣った笑顔の京香と、いつの間にか先程の先輩も加わりキャアキャアと騒ぐ。
展示会だと言うのに、状況はカオスだった。
「ではそろそろ基調公演を聴きにいきたいので、失礼します。」
黒崎は先輩たちに一言断ると、本田の手を引いた。
「…?あの、黒崎さん?」
黒崎は講演会場に行くのかと思いきや、本田の手を引きトイレに向かった。
そして個室に本田を押し込め、自分も入る。
状況が分からない。
カチリ
「うわぁっ!」
そして再びローターのスイッチを入れる。
「な、なん⁈」
抗議の声を上げるつもりが、キスされた。
どこにこの行為が始まる要素が要素があった⁈
(ま、だ、さっきの、黒崎の奇行を問い詰めないとなのに…あー、ぎもちいい…)
こんなところでこんな事されて、ここでやるのか?
「あんな女にこけにされて、ヘラヘラして…何なんだよお前!」
黒崎は苦々し気にボヤいた。
あんな女って…京香か。
しかし何故黒崎に京香の事で文句を言われなきゃならない?
助けてくれたようで、結局は嘘をついているし…。
「っ、てか、び、美人な恋人って何ですか?」
本田は不満気に眉を寄せた。
「あんなこと言われたら、今後も彼女作れなくて困ります!」
「…」
しかし帰ってくるのは、本田を上回る迫がある不満顔だった。
そして強引に本田の体を反転させ、トイレタンクに手をつかせた。
「…?…ぁ?嘘っ!ちょっ、〜っ‼︎」
(何なんだよ!)
そのまま黒崎は性急な動きで本田のボトムスを引き下げ、挿入してきた。
「ぎゅっ‼︎ぁっ、…っせ、せめて、」
入ってるの抜いて欲しい。
元からが入っていた玩具の振動と、黒崎の抜き差しからくる刺激が二重できつい。
気持ちいいが、ここが展示会場のトイレだと言うことが恐怖でしか無い。
「うっ、…ぁっ、やばっっ!いっ〜〜っ‼︎」
しかし体は快感を素直に拾ってしまう。
バクバクと、心臓が恐怖か快感か分からないもので煩く騒ぐ。
黒崎の勢いで、足が浮きそう。
タンクごと本田の体がガクガクと揺れた。
「ふっ‼︎」
(何でこんなこと…っ)
黒崎の意図は読めないが、兎に角不機嫌そうだ。
無言だが、苛立ちが激しい行為から伝わってくる。
「な、なんなんです…かっ⁈」
「…あんな、女より」
「?…っ」
「俺の方が…っ」
(え?何その……ヤキモチ…みたいな…?)
黒崎の苛立った行為や言動から、そう感じてしまう。
しかしそれはあまりにも黒崎と繋がらない感情だ。
「なっ、なん…っ!ヤキモチっ、ですか⁈」
「…」
思わず口に出すと、黒崎の動きがピタリと止まった。
「…え?」
「…」
それに驚き後ろを振り向くと、無表情で座った目の黒崎と目が合う。
あれだけうるさかったの室内が一気に静かになる。
「…ぁ!」
そんな空気感に戸惑っていると、黒崎が徐にリモコンを取り出した。
カチリッ
「…ふっ!」
振動が今迄だ一番強くなる。
本田が口を押さえて体を強張らせると、黒崎は再び律動を開始した。
個室内がまた騒がしくなった。
「本田、俺の服汚したから、ペナルティだな。今度、お仕置きやってやるから。」
「…っ!ふぁっ〜〜っ‼︎」
黒崎は本田の肩に噛みつきながら、そう囁いだ。
———-
(俺は…、黒崎が好きなのか?)
会議中、本田は話している黒崎を横目で見た。
今日も髪はぴっしりと綺麗に整い、高そうな洒落たスーツを着ている。
女性がキャアキャア言うのも分かる。
(…でも、名前呼ばれただけで赤面したり、子供っぽいところもあって…)
考えているとこっちまで頬が赤くなる。
本田は小さく息を吐き、手元のパソコンに目を落とした。
————-
「あれ?会議時間来てるのに、誰もいない?」
「本田」
「っ!」
突然後ろから抱きつかれギクリと身体が強張る。
身体が強ばるのは、抱きつかれたということもあるがよれよりも
「あー本田の匂い、久々…」
相手が深谷だからだ。
「深谷…」
名前を呼ばれると、深谷は本田の肩に埋めていた顔を上げニッと笑った。
「会議は…」
今日は全体会議だと聞いてきた。
しかしこの部屋には、会議時間になったというのに深谷と自分二人だけだ。
「あはは!順当に騙されてるな!実は場所変更になったんだよ。本田以外の人はもうそっちに行っている。本田は逃げ回るからー、こうやって呼び出したってわけ!」
「は、はぁ⁈ふざるなよ!それより、会議の場所何処だよ⁈」
本田は肩を払って振り返り、深谷を押し返した。
「ふっ、ふふっ、良く吠えるな?」
「…っ」
しかし深谷は余裕綽々と笑う。
一歩深谷が近づき、一歩本田が下がる。
「どうしたの?」
そうやていつの間にか本田の背に壁が当たった。
「俺に会うのが怖かった?」
深谷はニッと笑った。
その笑顔の奥に静かな怒りを感じてぞっとした。
身体が覚えている。怒った深谷は怖い。
「それは、本田にやましい事があるから?」
「っ!」
徐に深谷が、本田の顔の横の壁に手をついた。距離が縮まり頬を撫でられた。叩かれる前の犬の様に、本田の体がびくりと跳ねた。
「ふっ、本田、今度は黒崎と仲良くしてんの?」
「っ!」
僅かに目を見開いてしまった。
「…」
そんな本田の反応を見て、深谷は目を不満そうに細めた。
「ふんっ、やっぱりか…あの野郎…」
ぼやく。
かまかけられた。
そしてまんまと引っかかった。
「酷いな本田…。俺の代わりに黒崎使うなんて。」
「か、変わりに使うなんて」
「変わりだろ。しかも、なに?付き合ってはないんだろ?愛もないのにやってんの?よりによって上司と…それって凄く異常。普通じゃない。」
「…それは」
それは俺が言い出したからで…。
しかし深谷の口調は断定的で冷たかった。
怯んで口籠ってしまう。
そうだ。曖昧で忘れかけていた。黒崎と俺の間に愛はない。
「俺とは…愛のある行為だったでしょ?だって俺さ、本田の事がすっげーーっ、好きだもん。」
深谷は一転して優しい声で、ふにふにと本田の唇を指で押した。
深谷とは愛ある?あれ?深谷とやる方が、普通?
深谷の声は特殊な音波なのか何なのか、そのやけに甘い声は聞いていると頭がおかしくなりそうだった。
「愛してる。」
そういうと、深谷は目を細めてにこりと笑った。
キラキラというエフェクトがかかっていそうな、眩しい笑顔だ。
「本田が嫌がるから、あんなキツめになったけど、本田がちゃんと受け入れてくれたら、もっともっと、ちゃんと優しくしたよ?」
会社の会議室だってのに、深谷はまるでベットで恋人に囁いているような口ぶりだ。
「俺が、受け入れれば…?」
「そう。」
俺が悪かったのか?
俺が深谷を拒否したから。だからこんな、おかしな事になっている。
深谷はそう言いたいのか?
段々と分からなくなってくる。
黒崎との行為は普通じゃない。
だけど深谷とは愛があって、俺が受け入れればもっとちゃんと…。
普通?
「大体さ、本田は普通にやたら拘るけど、それこそ逃げじゃない?」
「え?逃げ?」
「そう。だって、本田の本当の趣向はああだろ?他の奴らに混じれたら楽だから、自分の気持ちに嘘ついて逃げているんだよ。」
「…」
俺は…小さい時みたいに一人で冷たいご飯を食べたくない。
ただそれだけ。
「逃げないで受け入れれようよ?俺はどんな本田も受け入れるよ?一度勇気を出して受け入れれば、楽しくていい事ばかりだよ。俺が全部与えてやる。」
「深谷が?」
「うん。だって、」
深谷は軽く触れるだけのキスをしてきた。
「俺は本田を愛してるから。黒崎みたいな半端な紛い物とは違う。本田の為ならなんでもしてあげれるよ。」
深谷と、暖かいご飯食べる?
きっとそうしてくれる。今の深谷の目は愛に溢れている。
「本田は今まで自分を偽って、よく頑張ったよ。お疲れ様。」
深谷は優しくそう言うと、ぎゅっと本田を抱きしめた。
「…」
何も言えずに、身体の力が抜ける。
それを見た深谷がふっと笑った気がした。
これは、普通。いや、普通とか何とか考えるのがそもそも違くて。
じゃぁ、俺はどうすれば…。
「本田、俺のところに戻ー」
「本田、深谷!ここにいるんだろ。早い出てこい。会議始まっているぞ。」
「…!」
当然会議室のドアがノックされる。
黒崎の声だ。
深谷がドアに鍵をかけたから、入れないのか。
「…す、すみません。」
本田はパッと深谷の腕の中から飛び出す。
何か言われるかと思ったが、何も言われなかった。
「直ぐに行きます。」
深谷はあっさりと本田を解放した。
本田は深谷を振り返る事なく、ドアを開け外に出た。