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「ぶっかけられたじゃないですか?」
「いや。確かに毎日何かしらかけられるけど、かけられても変わらない日もあるからな。」
「…毎日かけられてるんだ…」
静流に引かれると、普通の奴に引かれる数百倍腹が立つ。
二子川はぬけぬけと呆れ顔をする静流を睨んだ。
「しかし犬から人間に戻る規則性は早く割り出したいですよね。」
「そうだな。」
数日ぶりに再び人間になれた二子川は、静流と自分の体の変化の規則性について議論していた。
しかしいくら考えても分からず、二人揃って首を捻るばかりだ。
「ゆずくんなら、もっと詳しく見れるかもですねぇ…。あ、因みに、明日はゆずくんが泊まりに来る日なので、人間に戻っても何になっても、邪魔しないで下さいね。」
「は?くるなら柚木に相談させろよ。…てか柚木は、ここにもう住むのか?」
自分のせいで静流に逆らえない柚木を案じ、二子川は心配気に探りを入れる。
「そうですね。丁度あと二週間ですね。退職を伝えても今の職場を直ぐにはやめられないらしいので。」
(柚木、やっぱり仕事は辞めさせらたのか。)
「でも、同棲前のドキドキって良いですよね〜。この前一緒に家具とか、そうそう、ベット見に行きましたよ!」
「…そうか」
「全部ゆずくんの好きにして良いのに、元気がないから景気づけに家具屋のトイレでー」
「分かった。もういい。」
二子川はらしくなく頬を紅潮させ、ペラペラと早口に喋る静流を冷めた目で止める。
「静流。それと…前に俺の事故は事件生があるって言っていたけど、それはなんなんだ?」
「あぁ、はい。これです。先輩が事故に遭った時の防犯カメラの写真なんでけど。功も色々と調べていて。それで、この写真見て貰うと分かります。」
静流が取り出したのは三枚の写真だった。
一枚目は信号待ちする二子川。
二枚目は道に飛び出す二子川と、それに向かってくるトラック。
三枚目は二子川の背を押す誰かの手。人混みで相手の顔は見えず、腕しか見えない。
「にこ先輩、事故に遭う直前の記憶がないって言いましたよね?このにこ先輩を押した人物にも心当たりはないのでしょうか?」
「あぁ、ない。…ただ、この腕時計は功に取られたやつだ。」
三枚目の二子川を押している人物。顔は見えないが、腕時計が見える。
それは高校を卒業する時に、功がしつこく双子川のものを欲しいと言われてあげたものだ。
「…え?にこ先輩、功を疑ってます?」
静流が驚いた顔で聞いてくる。
「それはないですよ!功はにこ先輩とやる為に生きてますし。」
「…きめぇ」
静流が焦った様に謎の弁解をしてくる。
「その為に功のベット手錠付きですし。」
「は?それ…え?な、何用だよ?」
「何用って、逆に何すか。ウブですか。」
静流が馬鹿にしたように鼻で笑う。
「いや、お前、それは頭おかしくない?」
「にこ先輩が期待させるだけさせて逃げるから、あいつ溜まりに溜まってるんですよ。」
「いやいや!それでも狂ってるだろ!」
「散々煽って逃げた分、その時は楽しみですねー。頑張って下さいね♡」
「お前…」
「そもそも、自分の犯行写真なら残さないですよね?これ。」
話に飽きたのか、静流が話を元に戻した。
静流がトンッと三枚目の写真を指で指す。
(確かに…)
しかし誰も功の考えは分からない。
二子川が思うに、功はかなり常識人とはズレている。
「功に会って、直接聴きたい。」
「え?犬になっている事も言うんですか?」
二子川が意を決して言った言葉に、静流は目を丸くする。
「それはばらさないよ。何かされた時、犬だと敵わないからな。」

———-
ピンポーン…
「柚木くん。ようこそ〜。」
「柚木〜、久しぶり。」
「うん…功くんも…久しぶり…」
既に顔が青ざめ震える柚木を、静流が満面の笑みで出迎える。
功もリビングからおざなりにではあるが、声をかけて迎え入れた。
静流は柚木の荷物を自然な動作で受け取り、さりげなく腰に手を回してエスコートする。その動きはスマートそのものだ。
「じゃ、部屋に行こっか〜」
「…え…その……も、もう?」
しかしそっちにまっしぐら過ぎて、そのスマートさが下衆に見える。
「ははは、静流がっつき過ぎ!」
部屋に誘われた柚木の抵抗を功が笑った。
静流は柚木の小さな抵抗に一瞬固まるが、次の瞬間にはまた笑った。
「そうだね。沢山水分取って行ったほうが良いもんね。今日は時間の縛りも無いから、カラッカラになるまでしてあげるね♡」
「えぇ⁈…あ、ごめん…しずくん!っごめ…」
柚木が先程よりも更に青い顔であやまるが、静流は「どうしたの急に?」なんて笑っている。
(哀れ柚木。)
「…!にこちゃん!」
「!」
手を引かれ鬱々とリビングに入ってきた柚木が、功の膝の上に座らされている二子川をみて声を上げた。
二子川に会えた事が余程嬉しいのか、パァァアと効果音が聞こえてきそうな勢いで微笑んで近づいてくる。
「にこちゃん、元気だった?」
「わん。」
柚木はいい奴だ。
思わず愛想良く吠える。
「ちょっと肉付きも良くなってきて…」
「柚木。やめてくれる?」
「…あ」
柚木が二子川へ伸ばした手を功が制す。
功の顔は緩く笑っているが、棘のある物言いだった。
「まーまー、柚木くん、にこちゃんはまた後で触ればいいじゃん。飲み物冷たいのと温かいのどっちにする?」
思いの外強めに柚木を牽制する功に、静流は直ぐに不穏なものを察知して止めに入った。
柚木は半ば強制的に功と二子川から離れた場所に座らされる。
そこから二子川達を観察するようにじーっと見つめてくる。
静流が虐待とかいうから気にしているのだろう。
「功くん。にこちゃんって…功くんが付けた名前?」
「そう。ぴったりで可愛いでしょ?」
「…うん。そうだね…。そうなんだ。」
柚木の問いかけに功が満足気に頷き、柚木はまたじっとこちらを見つめてくる。
(何だ?)
柚木の何処か含みのある視線に、二子川は首を傾げた。
「功、今日もあの日だろ?もう時間じゃないか?」
「あぁ、そうか。ニコちゃーん!行ってくるね!」
何処かに行くらしい功が二子川に最後にと抱き、キスを落とすと部屋を出て行った。
「じゃ、俺らも行こっか♡」
「……うん…。」
静流も柚木の腰に手を添え、二階へ消えていく。
あっという間にリビングには二子川だけになった。
(静流の野郎…俺が人間だとバレたら柚木を良い様に出来ないからって、相談する気ないだろ!)
腹が立つ。
果たして静流は本当に、自分の味方なのかどうなのか。
やはりそれはかなり際どい。
(しかし犬だって、功の部屋を漁る事位は出来る!)
二子川は釈然としないものを抱えつつも、功の部屋へ向かった。
カチャ…
都合よく功の部屋のドアは少しだけ空いていたので、体で強引に開けて入る。
とりあえず…パソコンだな。
(…く、前足が使いにくい…。)
キーボード1つ押すのに一苦労だ。
おまけにキャスター付きの椅子が不安定で、全てがやりにくい。
何とかフォルダの一覧を表示させて、中身を確認して行く。
(…めっちゃ俺の隠し撮りあるな…。)
高校時代の姿は当たり前に、何故か社会人時代の物まである。
(やっぱり、功はずっと俺を見ていたのか?でも何故…それなら直ぐに接触してこなかったんだ?何故、今頃になって…)
功の行動の意図が見えない。
人を雇って写真を撮らせていたにしても、自分の居場所はずっと把握していたようなのに。
何故接触してこなかったんだ?
不可解だ。その不可解さが、功への不信感を深める。
(まさか…本当に功が俺を?)
つい考え混んでしまっていた時だった。
「ニコちゃーん、只今ー」
「‼︎」
(…え⁈こ、功⁈早っ!)
玄関を開ける音と、功の声が聞こえた。
(まずい!普通の犬がこんな事するはずない…っ!)
慌てて開けていたフォルダを閉じるが、焦りと犬の前足では中々スムーズに事が運ばない。
(第一、この部屋で会うのはまずい!)
功が二子川に何かするのは大体この部屋だ。
功の部屋には、何故か繋ぐフックも色々な所に完備されている。
こんな所でエンカウントしたら、またぶっかけられる。最悪だ!
「ニコちゃーん?日にち間違っちゃったー。ニコちゃ〜ん。」
先程よりも声が近い。
(っ、あと、少し…っつ!)
「にーこーちゃーんー!」
(よしっ!…どぁっ!)
「ニコちゃん?」
気を抜いた瞬間に、椅子のキャスタが動き机の下に落ちる。
同時に、ぶちりといくつかのコードを抜いてしまった。
(!)
ぎぃ…
そんなこんなとあたふたしている間に、功が部屋に入ってきた。
二子川はとっさに机の下から出て、部屋の隅にかくれた。
「あっれー?音がしたし、ニコちゃんはここにいる気がしたんだけどな…」
何とか上手くいった。
功は部屋に入っても二子川がいないと思っているらしい。
(今のうちに…何とか死角を利用して部屋の外に…)
「仕方ない。にこ先輩を見よ。生で会いたかったのになぁ〜。会いたかったですね、にこ先輩。」
(?功が今日会いに行ったのは…俺?)
静流が前に言っていた、功が二子川の治療に一役買っているというのは本当と言う事か。
「にこ先輩〜。」
こうは「にこ先輩」と繰り返し呟きながら、パソコンを操作する。
(そもそも、功はいま何の仕事をして……!)
二子川の視界がぐらりと揺らぐ。
「あれ?うつらないな…。えーパソコン壊れた?」
最後に残念そうな功の声だけが耳に響いた。

————
ぐっ
にゅ
…っ
「…あ゛!」
「良かった!目が覚めた!ニコ先輩っ!!お帰りなさいっ!」
目を開けると目の前にいた功が抱きついてくる。
状況が飲み込めない。
二子川は功にされるがまま固まった。
(見つかった…?え?犬、バレた?は?まず、何…)
「おま…何してんだ…」
「何って…にこ先輩とえっちしてます!」
血相を変える二子川に、功は歯を見せ満面の笑みで答えた。
裸の二子川はいつの間にか功のベットに仰向けで寝かせられ、足の間には功がいた。
ご丁寧にも二子川の背中にはクッションが入れられており、後ろにはすっぽり功のものが入っている。
「にこ先輩、意識っ、戻ったんですねっ!会えて嬉しいっ!何より、病院からでて直ぐにうちに来てくれるなんてっ、はぁっ、凄く嬉しい…!病院の人にここの場所聞いたんですか?」
「っ‼︎てか、…んっ!」
「ふー、にこ先輩…の中、キツくて気持ちいい…」
「うわぁぁぁっ!だからっ!っあ、…まっ、まず、ちょっ、止まれ‼︎」
どうやら病院から抜け出したと思っているらしい。
功は気持ち良さように息を切らしながら動き、キラキラとした笑顔のまま話しかけてくる。
(ふっざけんな!これってもはや睡姦だろがよ!こいつ、本当に最悪最低だなっ‼︎)
腹が立ち殴ろうと引いた手元がおかしい。
見上げると手錠がつけられてる。そしてその手錠がベットの下から伸びるベルトに繋がり、二子川の自由を奪う。
(くそっ、静流が、言ってたやつか…)
激昂してはいるが、こんな不利な状況で煽る事はしたくない。
「んっ、反応があるの…嬉しい…。」
「いやっ、だから、と、止まれって!」
「??…っ、おかしいな…。にこ先輩っ、意識ない時の方が感じるんですかね?」
「あぁ゛⁈」
咄嗟に睨むと、功がクスクスと笑いやっと動きを止めた。
「んー、反応するにこ先輩が愛おしい。…病院のベットでだけど…いっぱい愛し合ったじゃないですか〜!最近では、にこ先輩、ちょっとしたら直ぐに気持ち良さそうに出しちゃってたし。」
「おまっ!寝ている俺に何してんだ‼︎」
「ふふふ…」
功は意味深に笑う。
何をしているかなんて明白だからだろう。
三日月になる功の口と目が怖い。
「寂しかったよ…にこ先輩…寂しいかったぁ〜。やっと、会えて、こうやって…、にこ先輩…」
「…っ、だから、やめろって!痛いって!イヤダってっ!」
功はブツブツと呟き、また動き出す。
二子川はめちゃくちゃに暴れて抵抗した。
人間に戻ったばかりで、動きはギクシャクしているが構ってはいられない。 「あ〜!」
そうこうしていると、二子川が暴れた勢いでずるりと功のものが抜けた。
功が残念そうな声をあげる。
「はー、もう…我儘…可愛いけど、教えないとな。」
「う゛っ、」
功は徐にかがみ込み、何でもない様に二子川の首を掴んだ。
力は弱く、気道は塞がれないが圧迫感が怖い。絶妙な力加減だった。
「にこ先輩、大丈夫。にこ先輩がいい子なら、俺がにこ先輩を傷つけることなんて絶対にありません。」
「…ぅ…っぁ…」
人の首を締めて、場違いな程にこにこと功は笑う。
対する二子川は恐怖に竦んだ。
両手が塞がれているのだ。
ここで功がもう少しでも手に力を込めたら?
功は、自分を殺そうとした犯人かも知れないのに。
「…ふっ、にこ先輩、違う、違ういますから。大丈夫。」
慄いで黙る二子川に功はあやすように話し始めた。
「怖がらせたり、辛いことしたり、そんな事はしたくないんです。だから、聞いて下さい。」
「…っこ、」
「俺、親も含め、他人が全部、無機質な人形に見えてしまうんです。」
「あ?な、なんだよ急に…」
(だから、俺を殺すのも造作もないってか?)
不安になる。
怖くて見上げた功は、もう笑っていなかった。
真剣な様で、何処か苦しげでもある顔だった。
「だから他人に何か感情を抱く事はなかった。でもにこ先輩は違った。」
「?」
「にこ先輩だけはあの人と同じ…。にこ先輩は俺がこの世界で会った、たった一人の俺の恋人…」
「は?いやいや、最後の最後で飛躍が酷過ぎるだろ!」
真剣な功には悪いが、冷静にツッコんでしまった。
前半の他人の話は、功がよく他人に見せる冷たい一面から、何故かすんなり腹落ちしたが…。
後半にかけての話の展開が狂っている。
「だって俺、にこ先輩にしか、興奮出来ないんです…!」
そんな二子川に功はしごく真剣だった。
「こ、興奮って…俺はお前で興奮出来ないんだよっ!…あ、だから、なんか…ごめんけど…。」
気を抜くと怒りで大声をあげてしまう。
二子川は努めて冷静に、優しく功に諭した。
「何で…何で何ですか、にこ先輩…!今なら学生時代とは違って、俺も色々してあげれるのに…っ、俺っ、にこ先輩の欲しいものはなんでも買ってあげられるし、ずっと側にいてあげれます。行きたい所も、何処でも連れていってあげれる…お、お金も、昔の比じゃない程持ってます…っ、だからっ」
功の大きな瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちた。
「一人にしないで。にこ先輩…お願い…俺を受け入れて下さい…っ」
そしてぐすぐすと、子供みたいに泣き出し二子川に抱きつく。
「…功…」
(うん。ごめん無理…)
そもそも無理。
行為なしを前提に恋人になるにしても…やっぱり無理だ。
どう考えを巡らせても、ノーマルに生きたい。
無理だ。
「功、ごめん。それでも俺には無理。」
「…」
「に、にこ先輩…じゃ、最後に…思い出だけ…。やっと会えて、嬉しいんです…。ずっと、会いたかった…」
はっきりと断るが、功は尚も縋るように泣きながら続けたい。
「うん。でも無理。」
「にこ先輩…」
「無理。離せ。しつこい。そゆとこ嫌い。」
「……」
「功?」
功は涙を流しながらピタリと固まった。
じっと、時が止まった様に二子川を見つめる。
茶色い双眼が何を考えているのか、表情からは読めない。
「だから、離せって、こ…」
「あ゛ーーーも‼︎」
「‼︎」
動かない功に声をかけていたが、次の瞬間、功は急にドスの効いた声をあげる。
二子川は思わずびくりと竦んでしまった。
功は苛立った様にガシガシと頭をかく。
「…な、なんっ!」
功は怯む二子川を無視してかがみ込むとそのままキスをした。
学生時代の比ではない。歯列をそって舐め上げ、食べ尽くされそうな大人のキスだった。
「…ふっぁつ」
先程までの涙は何だったのか。
(え、な、なに?)
「面と向かって嫌いとか言われると、流石に腹立つし傷つくんですけど。はー…知ってた事だけど!」
「…」
「あんま苛々させないで下さいよ。」
功の二面性は知っていた。どこか一段高いところから他人をみる冷たい一面。
ただそれは今迄自分に向けられる事はなかった。
しかし今のこの冷たい声は、明らかにその一面だった。
「てかにこ先輩、俺に逆らえないですよ。だからさ、ほら。可愛いその足、さっさと開けって。最初だけは優しくしてやるから。」
今までの仮面をとぱっらった功は、口の端を歪ませて高圧的だった。
「お前、なに急に…」
「まー色々握ってんすけど、そうだな…にこ先輩のお父さんの面倒、今俺が見てるんですよ。」
「え…いや、おやじは」
(…おやじ…)
二子川の父親は病気だ。段々と忘れる、病気。
発症が早く、二子川は父親を支えるために高校時代からバイトずけだった。 
介護施設に入っているが、一年程度は二子川の預金引き落として賄えたはずだ。
「介護レベル上がって移転が必要でした。なのに、にこ先輩の預金もうすっからかんでしたから。」
「え。」
(まさか、ついに…)
病気の進行は止められない。
いつかはこうなると分かっていたが、犬になってしまった今は収入がない。
派遣の仕事も、掛け持ちのバイトも、無断欠勤中だ。
おまけに父親は、もう介護がないと生活がままならない。
「まぁ、俺にとっても、愛しい愛しい恋人のお父さんですし、手厚く面倒見るは全然苦じゃないですよ。寧ろ、何かしてあげれるの嬉しい位です。毎週会いに行って、話し相手にもなってますよ。お父さん、にこ先輩に似て良い方ですよね。毎度俺のこと忘れちゃうけど、それでも可愛い人です。あー、お義父さんと家族になるの楽しみ。」
「…何、勝手に」
(どこまで俺の生活を侵食しているんだ?)
底知れない、足元がぐらつく恐怖を感じる。
「あ?勝手じゃねーし。だってほら、にこ先輩は俺の恋人ですからね?てかもうそれ以上になりますしね。ね?そうでしょ?」
(何…言ってんだ…)
今迄見たことがない、目の据わった功が怖い。
二子川にとって功はただの後輩だった。男っぽくもなくて、常に自分が上の立場。
しかし今目の前にいるこの男は、もっと得体の知れないものだ。
「なりますよね?」
「…意味わかんねーし…」
功が更に高圧的に迫ってくる。
(大体、それ以上って、なんだよ…。)
「はぁー。そうですか。ただ、俺がにこ先輩の恋人じゃなくなったら、俺にとってにこ先輩のお父さんは恋人のお父さんからただの他人になりますね。」
「…」
「お父さん、今の状態で、一人で暮らしてけるかなー。」
言いたい事分かる。
功は脅しにかかっている。
「で、俺は、にこ先輩の、恋人、です。よね?」
「…」
「……はー、ま、別ににこ先輩の追い詰め方はまだありますよ。」
答えない二子川に更に腹を立てたらしい。
功の声は更に冷たくなった。
「その為に高校卒業後は色々準備してきたし。そうだな…にこ先輩は、俺の」
「うるさい…」
功がまた何か言うが、二子川がその声を遮った。
ぎ、ぎぎぎ
そして重たい扉が開くように、二子川はぎりぎりと足を開いた。
「…ふっ」
それを見て、功が勝ち誇った様に笑う。
「くそ野郎…っ!」
「ふふ、俺の恋人は口悪いなぁ〜。」
真っ赤な顔を歪ませ、差し出す様に開かれた二子川の体。
顔を僅かに腕で隠しながら睨む二子川を、功は軽口で流した。
先程よりは機嫌が良いらしく、嬉々として二子川へ手を伸ばす。
「ははは、後でお口も躾けましょうね〜。」
「…っ」
感触を楽しむように、功は二子川の尻を撫でた。
どくどくと恐怖で気が狂いそうだ。
(…ただ、ただ入れるだけ…さっきも、何やかんや入れられてたし…)
「感慨深いなぁ…」
功は二子川に再びキスを落とした。
(男だから、俺は何も失わないし…リスクもない)
ひたり、と功のものが押し当てられる。
「ふふふふ…怖い?」
「…ふっ」
ふるりと震えると、めざとく気づいた功が興奮気味に尋ねてくる。
「入れたら、写真撮りましょうね。あはっ、記念のハメ撮り!」
擦り当てられる妙な弾力と熱、ぬるつきが生々しい。
(いや、本当にそうか…?)
「じゃ、入れますね!」
その声と同時に功がぐっと力を入れるのが伝わってきた。
(違う!こんなの、一回許したら…変になる!)
「めろっ!」
「っ!」
気を抜いていたのだろう。
二子川が蹴り上げた足が功の腹に綺麗に入った。
功はうめいて、よろけた。
「はぁっ、はっ、…っ!」
両手は一纏めにされていたが、幸い何とか手を伸ばしてベルトに繋がるフックを外せた。
(外に…っ)
「!」
引き戸になっている扉が少し空いた所で、功は二子川に追いつきドアに押し当つけた。
同時に一瞬開いた扉が閉まる。
「バックでして欲しいんですか?」
「ぁ゛っ」
ガブリと二子川の首筋に噛み付く。
「はぁっ…本当に…にこ先輩、俺は元気なにこ先輩好きですけど、今のはただ反抗的なだけでイラつきます。」
「あっやっ…!」
功は二子川の腕を引き、乱暴にベットへ引き戻した。
「しっかり教育してあげます。先ずは」
「…っ、やめっ…っ」
功は後ろから二子川にのしかかった。
うつ伏せで、二子川の反応が遅れる。
「にこ先輩が好きな後ろから?」
「ぅあ゛!」
そして性急な動きで一気に入れられた。
「ぁ゛あ゛…腹っ、キツっ…っ、あっ」
「あはははは、なんか全然ですね!あんだけ俺の形にしてやったのになー」
(俺がこんだけきついのに、功は平気なわけ⁈化け物かよ!)
痛みはないが圧迫感と、未知の感覚への恐怖が大きい。
「ふっぐっ…っっいたっ…っ!」
「あんだけ病院では乱れてたのに、今は処女ですね〜!これは、もっともっともっとやらないとですね!今日はにこ先輩がぶっとぶまでやりましょうね!」
手も痛い。
功は二子川との行為に興奮しきっていた。
「いたっ、わっ、分かった…っ!手!手だけ解放しろって‼︎」
「えぇ〜どうしよっかな…はぁっ、さっきは、腹痛かったし…っふ、」
どうしようか。と勿体ぶり、功は立てていた上体を倒して功に抱きついた。
「っ、ばかっ…っ!重っ、そ、…っ、さわんな!!」
功はぐりぐりと二子川の胸と自身を弄ぶ。
「口調」
「…っ、ご、ごめんなさいっ…っ!そこっ、触らないでくだっ…っ‼︎」
胸は置いといても、下へのダイレクトな刺激は堪らない。
大体こちらは犬になって全く処理していないのだ。
溜まりに溜まっている。
そんなに触られたら
「あっ、くっ、…っやだ!出したく、…っない、やめっっ!」
「ふふ、可愛い…俺、無理矢理だけど両想いで、痛いじゃなくて『もう無理ーっ!』ってよがって泣いて欲しいです〜」
功は二子川の耳たぶを噛み、より一層二子の先を執拗に責めた。
「丁度、今みたいに」
「ぁ、…っ、やめっっ〜〜っ‼︎」
程なく二子川の体がびくりと震えた。
「ぅ゛あっっ」
「あ?出ました?んん?あんだけしてたのに…量多いな?」
「ハァッ、ハァッ…」
(屈辱感が凄い…)
スッキリという感覚を、男に組み敷かれた屈辱感が凌駕する。
「ふーっ、解れてきたし、そろそろにこ先輩のいい所ついてあげますね!」
「は?……っ、ぁっ」
フラフラと倒れようとした二子川の腰だけ捕まえて、功は上半身を立て動きだした。
「ぁっ、やっ、〜っ、おかしっっ」
「おかしくないですよ!っ、ここ、にこ先輩が気持ちよくなるスイッチですから!っあ〜、俺も気持ち良いです…」
「ふぅっ…〜〜っ、うぅっ」
「ふふ、はっ、気持ちいいのが嫌なんですか?にこ先輩らしいなっ」
「あっ、やだっ、やだっ、やめろっ〜っっ!ふぅぅうっ」
「んっ、にこ先輩、キス…」
功はキスキスと呟いて、器用に二子川を仰向けにした。
折角の逃げるチャンスだが、二子川はそれどころではなかった。
(なんで⁈なんで!こんな、気持ち良いなんてっ、変だ!)
「ははは、にこ先輩、顔真っ赤で、…っ、はっ、気持ち良さそうでっ、んっ」
耐えきれない様に功は二子川にキスをする。
「はぁっ、はぁっ、…っ、あっ、やめろっ、お前、許さないからなっ!ぁっ、こんなっ、こんな事されて、俺がお前を好きなるわけっ〜〜っっ!」
「ふ、喘ぎながら…忙しい人ですね。」
「ぁ゛っ〜〜〜っ‼︎」
断続的なキスと律動で、わけが分からなくなる。
「はぁっ、くっそ、お前なんかっ…っ、もう会わないっ!あっ、…っ、もういいっ!好きにしろっ!おやじもこんな…」
「ふふ、こんなの望んでないって?」
睨んでいるのに、返される視線は至極愛おしげだ。
功はふわりと優しく笑って動きを止めた。
「どうかな…だってにこ先輩、高校時代も、大学も仕事も夢も、全部お父さんに注ぎ込んでいたじゃないですか。」
「は?意味、分かんねー。なんでお前がそんな事」
「知ってます。ずーーーーーーっと、俺はにこ先輩を見てましたから。」
「あぁ?」
内心そんな気がしていた。
きっと高校を卒業後からずっと、功は自分を監視していたのだ。
「高校卒業後は同棲するつもりだったのに、逃げられて、俺凄く頭にきましたよ。直ぐに捕まえようと思いました。けど、それでは繰り返しだと思ったんです。」
続きを聞くのが怖い。
「だからにこ先輩の事色々調べたんです。次は、生かさず殺さず…俺のものにする為。」
「そんな事…しても、無駄だ…。」
「どうでしょう?」
二子川の尻つぼみになる声に、功は余裕の笑みを見せた。
「にこ先輩…」
「っ…ん、」
先程の暴力的な動きから打って変わって、功は何処か優しく動きだした。
まるで二子川を労って、喜ばせようとしているようだ。
「お父さんに忘れられるの、寂しいですね…」
「…っ」
二子川はどきりとした。
そらは今迄隠してきた本心だからだ。
「全部注ぎ込んだのに。たった一人の家族だからって、全部注ぎ込んで、病気に贖ってきたのにね。」
「ふっ、…っ」
功は優しい手付きで二子川に抱き付き、耳元に口を寄せる。
「お陰でにこ先輩はろくに人間関係も構築出来てないし、お父さんが忘れたら、それこそにこ先輩は世界で独りぼっちですね。」
「…ふっ」
図星だ。
こんな状況で更に情けなく泣きそうになるのを、二子川は必死に押し留めた。
「でも大丈夫。俺はにこ先輩の事、絶対に忘れませんよ。」
「…」
功は二子川の前髪をかき、目を合わせた。
「ずっと側にいるし、あらゆる事から守りますし、何でも与えます。」
「…ぁっ、」
「あとは、にこ先輩が、固定概念を捨てるだけです。」
功がまたふっと笑った。
二子川は口答えも出来ず、そんな功に見入ってしまった。
「ほら、気持ち良いでしょ?暖かいでしょ?」
「んっ」
そしてまた、ただただ二子川の気持ち良さを追求して動く。
頭がぼんやりとする。
「ふふ、にこ先輩…」
功は甘い雰囲気のまま、二子川の唇に自分の唇を合わせた。
「にこせ……い゛っっ!」
しかし、二子川はそんな功の唇を渾身の力で噛んだ。
「見るな。ふっ、…っお、俺は…お前の茶色い瞳が嫌いだ。」
「……ふっ、ふふ、はははは!そうですね。それでこそ、にこ先輩ですね!」
「ぅ゛あっっ‼︎…っ!」
功は口の端を上がると、今度は激しく動いた。
「いいよ〜」
そして二子川に暴力的な快感を与え続けた。
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GARDEN/U N I O N/溺愛/至上主義