わかってほしい

※やや甘め


「ねぇ土方さん……」

総司の声が聞こえた気がして目が覚めた。
目を開いた先には事実、総司がいる。
こんな夜更けに一体何だ。いつも通りの笑顔を見せているからには、何か問題が起きた訳でもないのだろう。

「どうした、総司」

まだ覚醒しきらない頭で返事をしながら上体を起こすと、総司はくすりと笑って抱き着いてきた。

「寒くて一人じゃ寝られないんですよね」
「そうか? もう春になって大分経つが……」

この時もまだ俺は少しぼんやりとしていた。連日の忙しさで疲労が溜まっていたからだ。
だから総司の纏う空気に剣が含まれ始めたことに、この時の俺はまだ気付いていなかった。完全な不覚だ。

頬に痛みを感じて、突如目が冴える。
痛みの原因は総司に抓られたことによるものだった。

「痛ぇな、何しやがんだ」
「寝てるみたいだから起こしてあげたんですよ。副長ともあろう人がそんな呆けていて、敵に攻め入られてたらどうするんです?」
「そん時ゃ嫌でも目覚めるってもんだ。今は敵もいねぇし、大体寝る時間だろうが」
「まぁそうですけど……」
「どうした、何か悩み事か?」
「悩みと言えば悩みかなぁ」
「何だ、話してみろ」
「ん〜そうですね。鈍感な恋人を持った人間の、夜の楽しい過ごし方を教えてもらえたら満足出来るかもしれませんね」

ここまで言われて、やっと総司の言いたいことが分かった。
最後にこいつと肌を合わせたのは一体いつだったか……。忙しさを理由に、抱き締めることすらしていなかった。

「もしかして土方さん、本当に寒いからっていう理由で僕が来たと思ったんですか?」

悪かったよ、と言って総司の髪を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細める。
まるで猫のようだ。

「明日はなるべく一緒に居てやるから」
「別に、そんなこと頼んでませんよ」

総司はむっとした顔をする。
気紛れな所も猫みてぇだと思った。
それよりも、と総司が続ける。

「いつまでこのまんまなんですか?」
「何がだ?」
「だから、その……もう、それ位分かって下さいよ! 副長なんでしょ?」

総司の言わんとすることが、俺には分からなかった。
考えている間に、総司の方が痺れを切らしてしまったらしい。

「僕が土方さんに抱き着いてるのに、土方さんは僕のこと抱き締めてくれないんですか?」

悔しそうと言うよりむしろ、悲しそうな声音だった。
俯いた総司はいまにも泣きそうに見えて、俺は慌てて抱き締める。「悪い」と言って、きつく、強く。

「僕、土方さんのこと嫌いなんです」
「あぁ、分かってるよ」
「大嫌いなんです」
「知ってるさ」

憎まれ口を叩くたびに、背中に回されている総司の腕の力が強くなる。どこまで素直じゃないんだと苦笑が漏れた。
その間にも嫌い大嫌いと言いながら、総司はどんどん俺に擦り寄ってくる。

俺は好きだ―――総司の前髪が俺の顎先を掠めた時、首を傾け耳元に囁いてやると、総司の憎まれ口が止まって顔が動いた。
焦点も定まらない程の近距離で、俺達の目が合う。
唇を近付けると、総司の息が掛かった。
あんなに疲れていたのに、これだけで簡単に気が昂ぶってしまう。
それだけ俺が総司に惚れてるんだってことに、こいつはいつになったら気付くんだろうか。
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