一生のお願い

※学パロ/SSLではありません
※土方さん→先生、沖田さん→生徒


「ひ〜じか〜たさん!」
「……先生って呼べっつってんだろうが」
「えーしょうがないな、じゃあトシゾーセンセ☆」
「土方先生だ」
「細かいことはいいじゃないですか。ねぇ僕、分からないところがあるから教えて欲しいな」
「てめぇはいつも満点じゃねぇか。俺は暇じゃねぇんだ、揶揄ってんなら後にしろ」
「揶揄ってなんかいませんよ、次も満点を取るために分からないとこ教えてくださいって言ってるんです。ね、一生のお願い」
「んなもんに一生を懸けるんじゃねぇよ、バカが」

 そう言いながらも、土方先生は特別室に入れてくれた。見た目に似合わず授業が丁寧な土方さんの説明で、僕が分からない所なんてある訳無いんだけど。こうでもしないと堅物な土方さんと二人きりになんてなれないから。

 それから僕の質問に、やっぱり丁寧に教えてくれる土方さんの長い指に見蕩れて、その指の先にある綺麗な顔にも見蕩れて。ぼーっとしてたら、聞いてんのかと怒られる。勿論ですよ、と言って笑ったら頭を軽く小突かれた。

「もう、乱暴なんだから……。僕以外の子にこんなことしたら、クビになっちゃいますよ」
「別に構わねぇさ、教師に未練なんてねぇからな」
「えっ、辞めたいんですか!?」
「辞めたい訳じゃねぇけど、辞めても構わねぇとは思ってるな」
「え……やだ、辞めないでよ土方さん」
「そうやって先生と呼んでもらえないようじゃ、俺は教師に向いてねぇからな」
「っ! じゃ、もう言わない。ちゃんと土方先生って呼びますから……辞めないでよ、一生のお願い」
「だから、んな事で一生を懸けるんじゃねぇよ」
「だって……先生と会えないなら学校来る意味無いし…………寂しいです」
「何だよ、らしくねぇな。熱でもあんのか?」

 言いながら、僕の額に土方さんが手を当ててくる。らしくないも何も、何で僕がいつも満点取ってるかくらい分かってくれてもいいのに。

「何だ、ホントに熱いな」

 土方さんに初めて触られたんだから、熱くなるのも当然なんだけど、本人は全然そんなことに気付いていないみたい。

「体調悪いみてぇだし、今日は帰れ。また教えてやるから」

 もっと一緒に居たかったけど、それよりも土方さんを好きな気持ちが膨らみ過ぎていた。席を立った土方さん追い縋るように僕も立ち上がってお願いをする。

「土方さん、僕、一生のお願いが……」
「だから土方先生って呼べって……」

 僕の言葉に振り向いた土方さんの胸元を掴み、背伸びをしてキスをした。喋りかけていたから少し開いていたその口に、思い切り唇を押し付ける。
 離した唇から、僕の気持ちを告げた。

「好き、です。だから……辞めたりしないで。でも今の言葉もキスも、すぐに忘れて。お願い……」

 本当は忘れたりしないで欲しい。僕のことを覚えていて欲しいし、特別に思ってもらいたい。僕くらい土方さんを好きな人なんて居ないんだから。
 だけど土方さんは真面目だから、生徒とキスした自分が許せなくて辞めてしまうかもしれない。だから、忘れてほしい。
 土方さんは少しの間固まっていたけれど、小さく溜息を吐いてから僕の腰を引き寄せて――。

「っ!」

 キスを、された。さっきの僕のより、少しだけ深く。
 唇が離れても顔は近いままで、焦点が合わないほど間近で僕達は見つめ合っている。

「俺もてめぇのことが好きみたいなんだけどな、今のキス込みで忘れてくれ。俺からの"一生のお願い"だ。聞いてくれるよな?」
「……や、いやだ。無理です……」
「なら、俺もてめぇの一生のお願いは聞かなくていいんだな?」
「それも嫌です! 学校……辞めないでください、お願いだから」
「誰も辞めるなんて言ってねぇだろうが」
「だって土方さん……土方先生は真面目だから、生徒とこんなことしたらきっと」

 そこまで言ったら「ばかか」と言われて、僕はばかじゃありませんよって反論しながら上を向いたら、もう一度キスをされた。

「総司がバラさなきゃ辞めたりしねぇよ、バレなきゃいいんだこんなもんは」
「……バラすわけ、無いじゃないですか」
「じゃあ今日のことは、」

 二人だけの秘密な、と言って微笑んだ土方さんに、僕は骨の髄まで夢中になってしまった。ついでに腰が抜けるというおまけ付き。だから土方さんの仕事が終わるまで待って、帰りは車で送ってもらうことになった。車中で揶揄うように土方さんに言われてしまう。

「これくらいで腰抜かすようじゃ、キス以上のことは出来ねぇな」
「ま、毎日してくれれば、僕だって慣れるんですけど」
「へぇ、それは一生のお願いじゃねぇのか?」
「だって土方さん、僕のお願いひとつも聞いてくれないから」
「そりゃお前が一生を懸ける程でもねぇことで言ってくるからだろ」
「毎日キスしてっていう一生のお願いをしたら、聞いてくれるんですか?」
「試しに言ってみりゃいいだろ」
「……これから毎日、僕にキスしてほしいなー。一生のお願い」

 流石にこんなこと、実行してくれるなんて思わなくて気軽に言ったのに。止まった赤信号で土方さんは「しょうがねぇな」と言いながら、シートベルトを伸ばして僕にキスをした。

「本当に毎日すっから、もう腰抜かすんじゃねぇぞ」

 ……それは無理みたいだ。だって今のキス一つで、座っているのも困難な程に足からも力が失せてしまったから。
 それに「そんなことに一生を懸けるな」って言わないってことは、土方さんにとってもキスはきっと大事なんだ。そしてそれを僕にしてくれるって事は……。

「土方さん、ずるい」
「あぁ? 何でだよ」
「僕土方さんのこと、好きですけど大嫌いです」
「……何だそりゃ」

 これ以上僕を夢中にさせないでよ。でも土方さんはもっと僕に夢中になって、一生僕だけ好きでいて。
 口には出さない、

2019.11.14


戻る
.