装模作様

どうして相馬君から近藤さんの匂いがするの?
胡乱な目で俺を抱き締めながら、そう沖田さんが問うてきた。

「え? 近藤さんの匂い……ですか?」
「うん、何か相馬君の首筋からしてる」

言いながら、沖田さんが俺の首元に顔を埋めてくんくんと匂いを嗅いでくる。
その沖田さんからは強くお酒の匂いがしている。酔っているのだろう、珍しい。普段は酔ったりしないのに。いや、酔う程飲まないようにしているのに。

「どうしたんですか、何かありました?」
「あった」

拗ねたようにそう言って、沖田さんが俺の首筋を軽く噛んだ。別に痛くなんてなかったけれど、反射的に「痛っ」と言ってしまう。
俺の反応を見て沖田さんがくすくすと笑った。

「僕の事、ずっとほったらかしてたから、お仕置き」
「えっ? あ、ごめんなさい、最近頼まれ事が多くて、会いに行けませんでした…」
「へぇ、反省してるの?」
「してます」
「じゃあ僕に何か言う事無いの?」
「え、えっと、、ごめんなさい……?」
「それはさっき聞いたんだけど」

拗ねた口調のまま、沖田さんが頭を俺の肩に預ける。
抱き締めてきたのは沖田さんなのに、今は俺に凭れ掛かって甘えられているみたいだ。
あぁどうしよう、可愛い。

「あの、ずっと沖田さんに会いたかったです」
「ふぅん、それで?」
「今夜は、その、一緒に寝ても良いですか?」
「一緒に寝るってどういう意味? 添い寝ってこと?」
「ちっ、違います!だ・・抱いても、良いですか?」

恐る恐る訊ねる俺の顔をじっと見て、それから沖田さんがぷっと吹き出した。

「僕の事抱いてる時の相馬君はもっと男っぽいのに、どうして普段はそんな頼り無いの?」
「え? 俺そんな男っぽかったですか?」
「うん、いつも激しくて、次の日は絶対腰にくるんだよね」
「すみません、気を付けます」
「どうして? 褒めてるんだよ?」
「でも、沖田さんが大変なんじゃ……」

まぁね、と言って沖田さんがくすりと笑う。
笑うそばからお酒の香りが漏れて来て、その香りに誘われるように俺は沖田さんに口付けていた。
合わさった唇の温度を感じながら、断りも無くこんな事をして怒られるんじゃないかと不安になる。
顔を離すと驚いた顔の沖田さんが見えて、そんな顔をされた事に俺が驚いてしまった。

「勝手に口付けて、ごめんなさい」
「ううん、して欲しかったから、いい」

どうしよう、今夜の沖田さんは本当に可愛い。
酔うとこうなるのだろうか、これからは偶に酔わせてみようか……そんな事を考えていた罰なのだろうか、沖田さんが俺の心をどん底に突き落とすような事を言ってきた。

「近藤さんの匂いがする相馬君に口付けられると、何だか近藤さんにされてるみたい」
「…………」

返事が出来なかった。
そもそも近藤さんの匂いって何だろう、今日は近藤さんに会っていないから、移り香だって無い筈だ。
着物だって自分の物だし、俺から近藤さんの匂いがする理由が全く分からない。

いや、そこじゃない。
そこは全然問題じゃない。
そうじゃなくて、沖田さんは本当は俺じゃなく近藤さんにこんな事をされたいのだろうか。
俺は、近藤さんの代わりにされているだけなのだろうか。

「……相馬君、怒った?」
「怒ってません」
「嘘、怒ってるんでしょ?」
「本当です、怒ってません」

怒ってなんかない、悲しいだけだ。
悲しいくせに、沖田さんから離れるのも嫌で、どうしたら良いのか分からない。あぁ俺って凄くみっともないな。

「怒らせたくて言ったんだけどな」
「……え? 何でですか?」
「相馬君が僕の台詞に怒ってさ、近藤さんの代わりにしないで下さいって言って、僕を押し倒して無理矢理襲ってくれるのを期待してたんだけど」
「なっ、何ですか、その計画?しませんよ、そんな事」
「じゃあどうすればしてくれるの?」
「何をですか?」
「一々僕にこれしていいですか、あれしていいですか、なんて訊かないでさ、一回くらい相馬君の好きなように僕を抱いてみて欲しいんだけど」

今夜の沖田さんは、どうかしている。
でもそんな沖田さんに興奮してしまった俺は、もっとどうかしている。

「明日、立てなくなっても知りませんよ?」
「いいよ、明日は僕の隊、お休みだから」

明日はきっと、沖田さんは立てなくなるだけじゃなくて、声も出なくなっているに違いない。
もしもそれを咎められたら、また声が出なくなる程抱いてしまえばいい。
沖田さんは、俺がどれ程沖田さんを好きなのか、きっとまだ知らない。

2016.11.09


戻る
.