環状線に迷い込んだ赤い糸

※現パロ


付き合う前も付き合ってからも、三木君の運転は荒いのだと色んな人から聞いていた。
ひとけの無い時間帯なら赤信号は無視するし、法定速度を守ったこともないらしい。

そんな三木君から、ドライブに誘われた。
断ろうかとも思ったけれど、少し前に「遠くに行きたい」と言ったのは僕だったから、意を決して乗り込むことにする。

走り出しただけで怖くて、いつスピードが上がるのかとビクビクしていたけれど、いつまで経っても三木君の運転は丁寧なままだ。

「……三木君の運転て凄く荒っぽいって聞いてたんだけど、別の人のことだったのかな?」
「いつもはこんな運転してねぇよ、赤信号で止まったのも久々だしな」
「それはさすがに危ないんじゃないの?」
「夜中しか走らねぇし、無視すんのも見晴らしの良い場所だけだから問題ねぇよ」

平然とそんなことを言って、全く反省はしていないようだ。
だけどいまの三木君の運転は、安全としか表現できない。

「今日はスピード出さなくていいの?」

不思議に思って出した疑問に、三木君の「はぁ?」という不機嫌な声が返された。

「お前を乗せてんのに、そんなこと出来るわけねぇだろ」
「何で?」
「……お前になんかあったら、嫌だからだよ」

そう答えたあと、独り言なのか「言わせんなよな」と呟く声が聞こえてくる。けれどまさか三木君が、僕のことをそんなに大切にしてくれてるなんて思っていなかった。だからその思いがけない返事が恥ずかしくて、何も答えることが出来ない。

安全運転のまま、随分離れた場所まで来た。
車しか通らない道路で、両脇に歩道もない。そんな道でまた赤信号で止まった車の中、僕は三木君へと顔を近づける。

「どうした?」

心配したように僕の方を向いた三木君の唇に、僕のを重ねた。
ちょっとだけ長く続けたキスは、後ろから鳴らされたクラクションでやめなければいけなくなる。
慌てて走り出した三木君に、早く赤信号になるといいねと笑いかけた。

「止まったら、またキス出来るもんね」

三木君は苦笑いをしながら、赤信号を待ち遠しく思う日が来るなんて思わなかったと言った。

2018.01.09
title/いえども様


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