その優しさが手放せない
真夜中に、沖田が俺の室に来る。当たり前のように俺の布団に潜り込んで、「ねぇ三木君」と言って綺麗に笑った。「何だよ」
「もう寝ちゃうの?」
こいつは……
「何言ってんだ、明日お前の隊は朝の巡察だろ?」
「そうだけど、三木君が手加減してくれれば済む話でしょ」
「煽っておいて、何だよそのわがままな要望は」
「煽ったつもりなんてないんだけど?」
こんな時間、こんな場所で、こんな顔を見せて煽ってるつもりがない? ふざけてんのか、こいつは。
小さな苛立ちは、沖田が少し細めただけの目に呆気なく飲み込まれた。
「手加減するなんて、約束した覚えはねぇからな」
言いながら、沖田の帯に手を掛ける。
簡単に解けたそれを引き抜いて、口付けるために顔を寄せた。
「そんなこと言って、どうせ三木君は……」
それだけ言って、沖田の方から唇を合わせてくる。
俺が、何だってんだ? 沖田は続きの言葉を言わずに俺の背中に腕を回す。
いや、予想はついている。
何を言ったって、どうせ俺は沖田になるべく負担が掛からないようにしてしまうんだ。沖田はそれに気づいていて、平然と煽ってくる。勝手な奴だ。
くそっ、明日の朝足腰立たなくなるくらいにしてやろうか。
だけど沖田の予想通り、どうせ俺はそう思ったところで実行なんて出来ないんだ。
悔し紛れにきつめにした口付けは、沖田の息苦しそうな表情で罪悪感に変わった。顔を離せば、沖田は夜に似つかわしくないほど綺麗に笑う。
「ほら、優しいんだから」
そんなことねぇよと言いたかったけれど、再び沖田からしてきた口付けのせいで、反論は出来なかった。
2018.01.25
title/弧白様
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