ふたりあそび

「ねぇ三木君、ここで口づけしようか?」

僕の誘いに三木君は一瞬驚いて、けれどすぐに笑顔を見せた。もちろんそれは彼がお兄さん以外の人に見せる、皮肉に満ちた表情だ。

「お前にそんな趣味があったとはな」
「趣味?」
「人に見られたいってことだろ?」

外廊下の角を曲がったところで誘ったことが、三木君に勘違いをさせてしまったらしい。

「見られそうな場所で、見られないようにこっそりするのがいいんじゃない」
「そうか? 俺は落ち着かねぇけどな」
「じゃあしないの?」

そう言うと、三木君はまた笑った。相変わらず不敵なようでいて、今度の笑顔はどこか優しい。
するに決まってんだろ、と囁くように呟かれた声はすぐに僕の唇に重なる。
意外と良識のある三木君は、もっと躊躇すると思っていたから、それを揶揄って楽しむつもりだったのに。どうして僕の方が翻弄される羽目になるのだろうか。
もしもいま誰かの足音が聞こえたとしても、きっとぎりぎりまで三木君から離れられそうにない。

拍手文@掲載期間
2018.01.21 - 2018.03.31
title/いえども様


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