無条件に君が好きだって

「僕、もしかしたら沖田君のことが好きなのかもしれません」

 いつも通りの優しい笑みを浮かべたまま、伊庭君がおかしなことを言う。
 言葉の意味を飲み込むのに時間を要し、ぼんやりと伊庭君を見つめ返していると、さっきよりも僕に近づいてきた。

「だから、試してみてもいいですか?」
「何を?」
「沖田君のことを本当に好きなのかどうか確かめるために、口づけしてみても良いですか?」

 そう言って伊庭君は、また優しそうに微笑む。
 けれどその失礼な提案に苛立った僕は、責めるような口調になる。

「僕との口づけは、お試しなんだ? じゃあもしやっぱり好きじゃなかったって気づいたら、僕にした口づけにどう責任取ってくれるの?」
「責任ですか、そうですね……」

 今度は困ったように苦笑して、伊庭君が僕の頬に触れた。いつも通りの笑顔といつも通りの口調なのに、その指先は震えている。そこで気づいた。これは伊庭君なりの精一杯の虚勢だったのだと。

「伊庭君は、あんまり嘘が似合わないと思うよ」
「え、嘘とは何ですか?」
「僕を好きかもしれないなんて、嘘なんでしょ?」
「いえ、嘘じゃありません。僕は本当に……!」
「そうじゃないよ。好きかもしれない、じゃなくて、好きなんじゃないの?」
「…………」

 伊庭君は強いくせに、いざとなったら臆病だ。はっきり好きだと告げて僕に拒絶されるよりも、好きかもしれないと言葉を濁して、たった一度だけでも出来るかもしれない口づけの機会を作ろうとしたに違いない。

「ちゃんと本音を言えたら、口づけしてあげてもいいんだけど」

 そう言ったら伊庭君は泣きそうな顔になって、僕が「もういいよ」と言うまで、何度も何度も「沖田君が好きです」と繰り返した。

2018.02.22
title/弧白様


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